しあわせのかたち
~雪の幸・春の雫~
―プロローグ
「―ねぇお母さん。しあわせってなぁに?」
「しあわせ・・・んー、そうねぇ、一人一人違うもの、かな。」
「ちがう?」
「うん、だから、ゆきはゆきの、お母さんとは違ったしあわせがあるの、だから、お母さんはゆきのしあわせは解らないな。」
「そっかぁ・・・じゃぁ!おかあさんのしあわせってなぁに?」
「お母さんは・・・もうしあわせよ。」
「・・・いま?」
「うん、今。」
なんて事は無い、ふとした子供の疑問。
それに微笑み答える母親、どこにでもあるような風景。
「だって。大好きな人と一緒に居られて、あなたという子を産めたんだもの。」
母親は、優しく子供の頭を撫でてそう言った。
当たり前のようにある風景。
それが『幸せ』だと、母親は言ったのだ。
「そっかー?」
「ええ、しあわせ。」
「しあわせ。」
対して、子供はよくわかってなさそうだった。
当然だ、俺は思った。
どう答えたって、反応は一緒だから。
しあわせなんて。俺にさえわからないのに。こんな子供にわかるわけないだろう。
だが、それを俺が二人に対し口を出す事は無い。
夢に文句を言いに行くなんて出来やしないし、したくも無い。
何より、自分に話しかけるなんて、何とも不思議な話だろう?
そう、俺はあの親子を知っている。
まだ幼かった自分と。
若くしてこの世を去った、母親。
そしてしばらくして夢から覚めた。
・・・最後に見たのは、母親の最期の笑顔だった。
スポンサーサイト