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季節外れのベロベロネ

第一話「猫、拾いました。」

―・・・起きて。

・・・何だよ、こちとらまだ眠いんだ、起こしてくれるなよ。
目覚めよ勇者、みたいなギャグには乗ってやらねぇぞ・・・。

―・・・起きてってば。
・・・もう・・・うるせぇなぁ・・・。

「―・・・良いからはよ起きんかボケェッ!!」
「うがぁっ!?」

まだ冷めない意識の俺の腹部に響く、怒声と大地震。
最近の目覚ましはやたら激しい起し方をするんだな。
・・・ともかく、俺を起こしてくれてありがとう。
朝から鉄拳炸裂、目覚めの良い朝だ。
・・・って。

「んなワケあるかっ!・・・ってか誰だお前!?」
「何一人でツッコんでんねん、誰かもクソもあるかい、ウチやウチ。」
「・・・誰だっけ?」
「しばくぞコラっ!?」
「いやマジで誰だっけ?まさか不法しんに・・・オウフッ!?」

―・・・朝一番、青年A事、俺『春日井康太』の目に飛び込んだのは、人様の布団の上に跨る、花柄パジャマの少女A。
身長140ちょっとくらいの身長に、口調とは不相応な黒く長いポニーテール、顔立ちも整っており、喋らなければ、美少女に見えなくも無い。
見た目からしてまだ小学6年生か中学1年そこらだろうか、どう見ても俺より10近くは差があるであろう。
なんやかんや色々あって、現在ただでさえ金の無い我が部屋に居候している、目つきの悪さの通り、糞生意気な少女である。

・・・よく考えれば名前を聞いていない事に気づき、問う俺だが、どうやらまだボケだと思われているらしい。
少女は『同じネタはいらんっ!』と再び俺のみぞおちに鉄拳を二発ぶち込んで来た。

「昨日拾った癖にもう忘れ取るんか!?」
「・・・だからアレだ、もうお前が糞生意気な居候なのは知ってるんだって・・・名前を聞いてんだ、居候が名乗らないなんて無しだからな。」
「ああ?・・・んなもん気にすんなや、肝っ玉の小さいやっちゃ!」
「肝っ玉の問題じゃねえだろうが!?呼び名がねぇと呼びにくいんだよ!!」
「・・・うっさいわ!どうとでも呼びぃ!」
「こんのエセ関西弁が・・・そんなに変な名前か!?」
「なっ・・・姫子や!可愛いやろ!使ってもええで!?」
「はっ、随分名前負けしてんなぁ姫子ちゃんよ?」
「なんやとコラァ!?」

・・・早朝、早速、喧嘩開始。

大人気無いと思う方も居るかもしれないが、そこは許して欲しい。
何せこの少女A、姫子は、糞生意気なだけではなく、糞わがままなのだ。
居候初日でメシにケチをつけ、自分では作れない癖に偉そうにレトルトは嫌だと言いやがる。
その夜は狭いだの寝心地が悪いだの、人の家にケチを着ける。
そして居候二日目でこの有様である。

喧嘩を売ったり買ってしまう俺も俺なのだが。
正直、可愛らしい姿とは裏腹の、言うなれば期待はずれも裏切りもいいところである、この生意気少女に対して我慢しろと言うのが無茶だと思う。

「・・・大体お前、もう少し居候らしく何か手伝うくらいしろって、折角拾ってやったのにさ?」
「なんや自分偉そうに!嫌なら拾わな良かったやん!?」
「・・・お前なぁ、あんな必死なツラして頼んだのを断れると思うか・・・?」
「しゃぁ無いやろ!アテが無いんやもん!!」
「・・・はぁ、大体な、アテが無いにしろ、どうせ行くならもっとマシな所に行ったほうが良かったんじゃないか?」
「う・・・だって!、駅前辺りで頼んでも誰も答えてくれへんし!途方に暮れてた所でアンタが居て!・・・大体!アンタの家がこんなに狭いとは思ってなかったんや!!」
「一言余計だぞオイ・・・?」
「しゃーないやん!一部屋の家なんて珍しいんや、驚いたってええやん。」
「・・・はぁ、まぁお前はまだお子様だからわかんねぇか・・・一人暮らしは大変なの。」
「へぇ・・・そうなんか?ご苦労様で。」
「・・・。」

・・・しかしながら、そこは仏の心を持つ俺、この馬鹿の無知と無思慮に怒りが溢れそうだったが、何とか抑えながら、話を続けた。

「とにかく、居候するからには多少なり家の事を何か手伝え。―昨日は勘弁したが、今日以降はそうしてもらう、それが出来なきゃ他を当たれ、ウチにタダ泊まりをさせる余裕なんか無ぇからな。」
「・・・手伝い?」
「炊事洗濯とか、家事全般。」
「・・・スイジセンタク、カジゼンパン?」
「何の呪文だそりゃ・・・いいか、家事ってのはな―。」

そんなこんなで、俺は何故か早朝に起こされた眠気を抱えながら、生意気娘こと姫子に、主に簡単な家事の解説、道具の場所と使い方の解説をする事になった。
・・・驚く事に、コイツは11歳(自称)にもなって、未だに家事に関する事に触れた事は無いらしい、用語が解らなかったのはその所為のようだ。

よもや名前の通り、本当にどこぞのお嬢様ではなかったりしないだろうか。
俺でも小学生に入る頃には米磨ぎやら料理の手伝いくらいはしたものだ、だがコイツは学年にして5か6。
お嬢様だったとしても、これくらいの勉強(こと)は将来の為にさせておくべきだと思うのだが・・・。

とはいえ、昔の事に関して云々言う事に意味は無い、米を炊いておかずを作れとまでは言わないが、せめて皿洗いや風呂掃除、洗濯物を取り込むくらいは出来るようにしておきたい。
俺が楽になる、と言うのもあるが、こいつの為には良い機会だと思う(うんうん)。

・・・しかし、気になることが一つ。
コイツは何故よりによってこのアパートに来たのだろうか。
詮索は無意味だと、馬鹿に炊事洗濯を教えながらも、頭の隅で俺は考えていた。
本当のお嬢様だったら生活に不満を感じるはずも無いし、年齢的に考えて政略結婚だのお見合いだのに反対、なんて話は無さそうだし。

しかしながら、今は姫子に対してその話題を振る気にはなれなかった。
勿論、それにはちゃんと理由があるが、それはまた今度話すとしよう。
今はそれよりも。

「とりあえず、家事の役目と道具の使い方、場所は今言った通りだ、理解できたか?」
「・・・うー・・・。」
「・・・どうした?」
「・・・そんないっぺんに覚えれるかアホ!!」
「・・・はぁ・・・ちゃんと追々手本も交えて教えていくから嫌でも覚えろ・・・ほら、まずは着替えて、行くぞ。」
「どこ行くんや?」
「折角早く起きたんだ、管理人へ挨拶だよ挨拶・・・後は今言った朝の日課の掃除だ。」
「・・・ソレは解ったけど・・・カンリニンって?」
「おう、このアパートの管理人、柚子さんにな。」

そう、何事もまずは基本、挨拶からと言うものだ。
俺は着替えた姫子を連れ、とある場所へと向かった。

――

「・・・ほら、ここが管理人の家だ。」
「なんかちっさい家やなー。」
「・・・頼むから柚子さんの前ではそんな失礼な口聞くなよ。」
「へいへい。」

時刻は午前7時、俺は私服の姫子を連れ、寒空の下、管理人室のチャイムを鳴らした。
起こされたのは午前6時、朝の日課は7時から、そう考えると、本当に良い目覚ましだったのかもしれない。
とはいえ、鉄拳で起こすのはさすがに勘弁して欲しい。
俺が姫子に視線を向け、溜息をつくと、姫子はそれを感じ取ったのか、なんや!と睨み返す。

・・・どうしてまぁ、俺はこんな奴を拾ってしまったのか。
本気で悔やまれる今日この頃。

「―はーい、お待たせしましたー。」
「おはようッス、柚子さん。」
「はい、おはようございますね、コータさん。」

チャイムを慣らして10秒ほどで、女性がエプロン姿で顔を出し、満面の笑みでお辞儀をしてきた。
艶のある栗色のロングヘアーを風に揺らし、微笑むこの方こそ、このアパートの管理人の柚子さん。
完成されたと言う他に無い人形の様な顔立ちに、透明な瞳に、潤った唇。
とても俺の表現力では表しきれない、40台とは思えないほどの美人であり、俺もこんな人が母親だったらどんなに幸せだったろうか、そう思うほどに家庭的で、物腰も柔らかく、礼儀正しい。
最近は娘の陽菜さんに合わせて髪の色染めたらしく、それがまた似合っていて。
何より、娘に合わせて、と言う所がまた可愛らしいだろう。

「いつもごくろうさまです、今日もおねがいしま・・・す?」
「・・・。」
数秒送れて、柚子さんはようやく姫子の存在に気づき、目を丸くした。
「・・・あら・・・?」
「・・・。」
「・・・コータさんのお子さんですか?」
「断じて違います。」

本気でそう聞いてくるのだから、この人の時々見せる天然っぷりは色々と凄い。
俺の返答に対して、「残念~。」と本当に残念そうな顔をした。
一体何が残念なのだろうか。

「それじゃぁ・・・いったいどうしたのかな?」
「・・・えっとですね、色々あって昨日からうちに居候してる姫子です、しばらく世話になるので、挨拶させようかなと思いまして。」
「なるほどー、よろしくおねがいしますね、姫子ちゃん。」
「・・・よろしゅうに。」

そう言って、遥か年下の姫子に対しても、お辞儀をする柚子さん。
「色々」という理由で納得してくれる辺りは、理由を聞くつもりは無いのだろう。

・・・もしくは、理由など聞くまでも無く、得体の知れない少女を既に受け入れているか、だ。
よしよし、と姫子の頭を撫でながら、満面の笑みを浮かべる柚子さん。
この姿を見る辺り、恐らく後者であろうと思う。
対して恥ずかしいのか、顔を俯かせる姫子。
それでお辞儀をしてるつもりなのだろうか。

「あらあら、可愛らしいわねぇ・・・あ、そうそう、この時間に来るって事は、お手伝いをしに着たのよね、この歳になると長話をしたくなって困っちゃいます。」
「いえいえ・・・柚子さん全然若いじゃないですか・・・。」
「ふふっ、お世辞でも嬉しいですよ・・・それじゃ、掃除道具はこの家の裏倉庫にあるので、いつものようにお願いしますね。」
「うぃッス、ほら行くぞ姫子。」
「あ・・・ああ!」

俺の言葉に一瞬戸惑いを見せつつも、別れ際、小さく手を振る柚子さんに対して、頭を大きく下げて、姫子はその場を後にした。

「・・・―あの人、いつもああなん?」

その数秒後の事。
柚子さんの姿が見えなくなった途端、姫子はふと、おかしな質問をしてきた。
まるで、柚子さんのアレが営業スマイルと言いたげだ。
まぁ、そう見える程に綺麗で行儀の良い人なのだから、無理の無い話かもしれないが。
知ってる側としては宜しくない質問だ、俺は即座に返す。

「当然。」
「・・・あんな良い人、おんねんな。」
「・・・さっきの威勢の良さはどこへ行ったのやら、さっきも恥ずかしがっちゃってさ~?」
「・・・うちだって良い人には礼儀正しくするわ、アンタみたいに口悪い奴じゃなきゃな。」
「俺もお前みたいに口の悪い奴じゃなくて、礼儀正しい女の子だったら、手伝いもさせずにただ住まわせてやったんだがな。」
「悪かったなぁ口悪くて!?このボケ!大体はよ名前教えんかい!!いい加減呼びづらいわ!」
「・・・はっ、康太だボケ!自覚あんならさっさと直せ!!」
「コータなんて変な名前しよって!うちだって好きで口悪くなったとちゃうわ!」
「誰だってそうだわボケ!つーか人の名前馬鹿にすんな!」

もはや火種など何でもいいのだろう、裏倉庫を目の前にして、本日二度目の口喧嘩。
同居生活を始めて2日目の朝だが、この時点で、俺は痛いほどに理解した。
それは、明らかに俺とコイツの相性が最悪だという事。
『性格×』『常識×』『家事×』といい所も無い上に、この口の悪さ。
むしろ、こいつと相性のいい人間が居るのかどうかさえ疑問であり、出来ることなら、他に受け取り手があれば早々に追い出したい程だ。

かといって、柚子さんに頼むのも正直気が引けるし、唯一の親友にでさえ、こんな事を頼めるわけも無い。
かといって、今更責任放棄するのも僅かな男のプライドに反する。
でも実際問題、我が家は子供一人を養うには少し厳しいものがある。

思えば、拾う前からそういうのを色々と考えるべきだったのだ・・・。

・・・―思い返すは昨日、寒さが普段よりも酷い、雪の降る昼の事。

何?今度話すんじゃいのかって?
話したくなったんだよ、愚痴と説明も兼ねてな。

―・・・あの日、暖房の類を使えぬ貧乏人である俺は、外で暖かいラーメンでも啜ろうかと考え、いつもの道中を歩いていた。
いや、そもそも外で食う事自体高いのだから、本来は家でインスタントラーメンでも作るべきなのだろうと考えるのだが、これまたアウト。
ガスが止まっているのだから、どうしようもない。

実はこうして無駄に思考を回転させているのが寒さを忘れるいい方法なのだという事に、俺は気づく訳も無く。
近く(徒歩15分)のコンビニでにくまんを買い、食べながら帰っていた。
だが、肉まんって案外温まらないもので、膨れるのはおなかだけだったりする。
仕方ないじゃないか、食べたかったんだからさ。
衝動買いという奴だ。

一面銀世界の田舎道は、本当に寒い。
・・・都会が嫌で田舎に引っ越したは良いが、やはりこの寒さには未だ慣れない。
こんな寒い日には暖房代わりに猫でも膝に乗っかっていれば何も言う事は無いのだが。
道端に転がっている猫などはそう簡単に居るわけでも無く、転がってるって言うと轢かれた猫ぐらいじゃないだろうか。
・・・子供の頃の俺のトラウマ。

大体、ダンボール箱でミィミィ鳴いてる猫なんてのは餌代が高いのだ。
野良猫を見ろ、餌もらわなくても残飯で生きてるんだ・・・。
今の俺からすればなかなかに羨ましい。
・・・いや、まだ残飯に飛びつくほど貧乏ではないが。
初発から貧乏キャラとして扱われるのは勘弁だ。

―人が誰も歩かない、足跡の無い雪の道を歩く事15分、ようやく我が家に帰ってきた。
・・・いや、アパートなので私の家ではありませんが。
一部屋のみの大変狭い部屋、暖房もガスも使えない貧困を極める最低限の生活・・・まぁこれは俺の自業自得。
そんな家なので暖かい思いは出来ないが、少なからず寒い風は避けられる。
これで暖房があったのなら、どんなに幸せな事か。

もったいぶってたらすっかり冷めてしまった半分の肉まんを手に、俺はアパートの前に立った。
まだ来て間もないが、住人が暖かい(いろんな意味で)のと、管理人が美人なのがウリ、だと思う。
さて、早く家の中に入って、フリーターである傍ら書き続けている小説を進めなければ・・・。
そんな事を考えつつ、アパートの入り口を抜けた、その時だった。

―みぃ。
・・・?
―みぃっ、みぃっ。

・・・猫なのかそれとも別の何かなのか、それっぽくは無いが、少なからず生き物の声だという事は解った。
・・・猫?

―みぃっ!みぃっ!

いくらさっき猫の事を考えたからって、別に出て込んでもいいんだよ?。
確かに暖房は欲しい、欲しいが・・・餌代を考えれば光熱費より高くなりそうで怖いのだ。
単純計算で食費が現在の2倍だぞ?
考えただけで恐ろしい。

―みぃっ!!みぃっ!!

・・・明らかにさっきより口調が強くなっている気がする。
それも、何かを訴えるかのように。
気のせいだ、そうは思いたいが、不幸な事に・・・俺はもう一つ、嫌な事に気づいてしまった。
俺に向けているのだろうか、強い視線を感じるのだ。
それも、横を振り向けば直ぐ目に入る、アパートのゴミ捨て場から。

・・・ここはタダでさえ出入りの少ない場所だし。
だとすれば、明らかに見られてるのは俺なわけで。
・・・つーか、ホントに猫か?
改めて聞き返すと、普通に猫じゃない気がするし。
とすると『猫の声を真似た誰か』が、此方に視線を向け、何かを訴えかけていると言う事になるのだが。
そんな馬鹿な、一人呟く俺。
だが、それはどうやら気のせいでは無い様で。

―はよこっち向きや!!

「・・・はいはい、今向きま・・・す・・・よ?」

先ほどの可愛く、猫っぽい声からは想像も付かない罵声が、同じ方向から聞こえた。
それは明らかに俺に向かって放たれている、・・・叫ばれる理由も無いが、答えないワケにもいかない。
何より、この時点で、その声の主が人間なのは理解しているのだからそれはいいんだが・・・何故猫の泣き真似?
・・・真実は見れば解る。
脳内から聞こえたアドバイスを元に、恐る恐る振り向いた俺。

「よーやく見てくれたな兄ちゃん!」

その先には、ダンボールにすっぽりと収まる女の子が居た。
明らかに、俺の人生の半分くらいの年齢、つまり、ガキである。

・・・―余計に状況把握が困難になりました。

そもそも、なんでダンボールに?
いや、そうじゃなくて、なんで急に大阪弁?
いや、そうじゃなくて、なんで女の子が?
一般人にドッキリを掛ける的な、欧米番組のパクリでもしてるつもりなのだろうか?
うん、全く持って解らん。

―なら聞いてみたらいいじゃない。

脳内で色々と会議を進めた結果、対話してみる事にした。
後に、これが悪夢の引き金になることも知らずに。

「・・・今日も寒いな。」
「寒いでー・・・だから拾ってくれ!」
「・・・寒いねぇ。」
「ごまかすなや!!」
「・・・いや、ニイサンそんな趣味無いからさ、じゃ。」
「じゃ、・・・ちゃうわ!」
「・・・なんだよ?ごっこに付き合うほど暇じゃねーぞ?」
「ごっこもちゃう!こっちはマジや!拾ってくれ!」
「・・・何でだよ?どうせ家出かなんかだろ?半日もすりゃ帰りたくなるって。」
「そりゃ、家出や・・・家出やけど・・・。」
「もしくは親と仲直りしろ、・・・今頃心配で親御さん泣いてるぞ。」
「あんな親要らん!・・・誰が泣いてるもんかい・・・呆れてるだけに決まってる!!」

少女はそう言って、泣きそうな顔になる。
なんだか知らないが悪い事を言ったらしい、俺は面倒臭く思いながらも、一応聞く。

「・・・お前、他にアテは?」
「無かったら頼まんて・・・頼むわ。」
「・・・何でそこまで親を嫌う。」
「・・・言えん。」
「・・・理由も無く出てったガキを引き取るほど俺は人が良くないぞ?」
「頼むわ・・・今は何があっても親に会いたくないねん・・・。」
「・・・。」

・・・―はい、回想終わり。
そんなこんなで現在に至るわけです。
え?何で最後までちゃんと会話しないのかって?
ほら、もう展開がわかるだろ?。

要するに、NOと言えなかった俺が悪いというわけである(投げやり)。

あの時、会話を試みず見て見ぬフリをしていれば、そう思ったところで既に遅く。
俺の目の前には、始めて見るかのように掃除道具をまじまじと見つめる姫子の姿。

ああ、本当にどうして拾ってしまったのか。
後先考えるのは好きでは無いが、昨日と言う日ほど自分の適当さを呪いたかった日は無いだろう。
早々に挫けそうである、と言うか挫いてしまいたい。

「・・・なぁ!」
「・・・あ?。」
「この道具の使い方教えてくれ。」
「・・・お前、箒も使った事無いのか・・・。」
「悪いか!・・・この掃除、あの柚子さんの為にやるんやろ!?」
「・・・まぁそうだが。」
「だったらウチは毎日やる!」
「へいへい・・・それじゃ、コレの使い方だが・・・―。」
「うんうん。」

強いて救いなのは・・・異常なほど偉そうな以外は普通の子供であると言う事だろう。
本当に、それだけだが。

そんなこんなで、始まってしまった奇妙な同居生活。
それが、俺の今の日常に、ほんの少し変化を及ぼすのは、解りきった事だった。

第一話 続く。

 
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季節外れのベロペロネ

―前回までのあらすじ。

生意気なガキが我が家にやってきた。
以上。

・・・幾らなんでも急すぎる。
これが小説や漫画なら、主人公はさぞ驚くだろう。
そう、今の俺のように。

「コータ、メシまだー?」

それでも、美少女とは言わない、せめて素直な女の子が居候に来て欲しかった。
フォークとスプーンの二刀流で食事を待つ居候を前に、俺は溜息を付いた。

第一話 「不愉快な居候と愉快な住民達。」

「・・・ほらよ、とりあえず在り合せで作ったからこれで我慢しろ。」
「・・・?」

午前8時、アパート周りの掃除も終り、朝食もまだだった俺は、とりあえずレトルトが嫌だと言う姫子の我侭に仕方なく答えてやり、丁度余っていたパスタを使い、醤油とマーガリンで野菜と共に炒めて出してやった。
俺の中ではそれなりに高価な食事に当たる。

バターなんて調味料は高すぎるので、マーガリンで代用しているが、マーガリンだって馬鹿に出来ない値段だ。
乳製品は高いのだ。
全国の主婦なら解ってくれるだろう。

そんな俺の渾身の一作を、キョトンとした表情で見る姫子。
・・・この顔は、昨日と今朝に何度も見た。
俺の部屋に入った時と同じ「何だこれ?」の表現。

「・・・なぁコータ、なんやこれ?」
予想通りの回答に、俺は呆れながら答えた。
「・・・見て解るだろ、パスタだパスタ。」
「・・・へぇー・・・こんなパスタあるんやなぁ・・・。」
「人様のパスタをこんなっつーな・・・折角作ってやったんだぞ。」
「おお、すまんすまん・・・それじゃ、いただきます。」
「ほいどうぞ。」

と、両手を合わせてそう言った後、我が家にたった一つしかないフォークとスプーンを手に取り、始めて見る料理に少し戸惑いながらも、食べ始める。
そこで、俺はまた驚く発見をする。
昨日はコイツのわがままにイラ付いていた所為か、気づかなかったのだろう。

姫子(コイツ)、何故か食事の作法だけはやけに正しい。

いや、正しいかどうかはよく解らんが、綺麗なのだ。
フォークとスプーンを上手に使い、汁も具も零す事無く、パスタはフォークに綺麗に巻かれた球体になり、口へと運ばれる。
その動作は一つ一つ丁寧で、どこか茶の作法を彷彿させるような優雅さがあった。

「・・・何や。」
「・・・いや、お前って、口も態度も悪いのに、作法だけはいいんだな、と。」
「二言余計やぞコラ・・・?・・・別に、母親に厳しく教えられただけや、せめて作法くらいは女の子らしくせいってな。」
「確かに、お前はもう少しその口調を直した方がいいな。」
「・・・余計なお世話やボケ!・・・うちはこの口調が気に入ってんねん。」
「だったらせめて関西弁はマスターしろよ~。」
「うるさいわアホンダラ!別に大阪いかんもんっ!」
「へいへい、いいから黙って食え、喋ると麺が飛ぶ。」
「・・・自分で喧嘩売ってきといて・・・。」
「アーアー、キコエナイ。」

愚痴を零しつつも、二口目を運ぶ姫子。
そんな姿と、自分の今の心境に、俺は確信する。
俺の順応性の高さ(自称)、そして大らかさ(自称)は、どうやらコイツに対しても遺憾なく発揮されているのだ、と。
つい数時間前までは喧嘩ばかりだったが、大人な俺が少し本気を出せばこの通り、生意気な言葉を吐き、躊躇いながら食う様を見てもイライラしないし、軽くあしらえる。
何より、良く見れば食べる様もリスみたいで可愛いもんじゃないか、ちょっと喧嘩口調だったが、食事中だけはさすがに喧嘩がいけないのも解ってるみたいだし、実は良い子なんじゃないかとか思えてきたぞ?

「・・・味に飽きてきたわ、水くれ、出来れば三ツ矢で。」
・・・そう、そんな良い子にはイライラしない。
イライラしな・・・。
「・・・マーガリンだと少しコクが足らんな、・・・後野菜ももう少し多い方が・・・。」

―前・言・撤・回。

この時点で、俺の中の良い子メーターがガクンと落ちた。
いや、いかん、抑えろ俺、ここで喧嘩をしては俺の威厳も落ちてしまう。
こいつの口の悪さだってもう理解してる事じゃないか。

何度も自分に言い聞かせ、何とか抑えようとする俺。
だが、ソレも此処までで。

「大体和風だか洋風だかハッキリせぇへんなぁ、中途半端や。」

―・・・よろしい、ならば論争だ。
堪忍袋が、勢い良く切れる音がした。
ここまで勢いがいいと、もはや心地よくすらあるだろう。

「黙って聞いてりゃ文句ばかり言いやがって何様だお前は!?」
「別に不味いとは言うてへん、純粋に評価してるだけや!」
「それが偉そうだっての!・・・って言うか水くらい自分で取って来い!」
「だってコータの位置が冷蔵庫に近いやん!大体、メシと一緒に飲み物だすんが普通やろ!?」
「・・・そりゃ忘れてたのは認めるが・・・って違ぇ!そこは何も言わずに俺の分も含めて取ってくるのが居候だっての!」
「はん!ホント器の小さいやっちゃの、主がそんなんじゃ居候もそりゃ小さくなるわ!」
「んだとコラ・・・?見た目だけお嬢様が!!」
「なんやとコラ!?このプー太郎!!大体―。」

本日三度目、ギャァギャァと小さな机で言い合う二人。
まるで歳の差を感じさせない、他人から見ればそれは本当に子供の口喧嘩。
俺はもはや慣れすら感じてきていた、もう昔からこんな関係だったかの様。

だが、そんな日常茶飯事となりつつある俺達の喧嘩は、予想外の介入で中止される事となる。
その介入とは―・・・。

―ガチャン!

「おーい!コータ居るか~?」

勢い良くドアを開ける音と共に聞こえたのは、女性の声。
いや、声で特定するまでも無く、目の前に居るのだが。
何より、ノックもチャイムもせずに我が家のドアを開ける人物など、この住民の中では一人しか居ないのだ。

名前の通りに、桜色をしたショートスタイルの髪型に、丸めの子顔。
つぶらな瞳に、幼さの残る顔立ち。
だらしなく右肩がはだける白シャツにデニムの短パンとラフな格好の女性が、顔を真っ赤にして、満面の笑みでこちらに手を振っていた。

「・・・おーっす!居るなら居るっていいなよぉ~。」
「・・・おはよう・・・ございます・・・。」

余りの不意打ちに、俺はそう答える他無かった。
人物の特定がその時点で完了していただけに、尚更。
彼女の名前は『海原 桜(かいばらさくら)』。
俺が来るよりも前に、此処に住んでいる女性で、OLをしている。

有名大学卒業で頭も良く、一般常識も備えており、料理も出来れば裁縫も出来る。
とりあえず、基本的に出来ない事など何も無い、言わば完璧な女、英語で言うとパーフェクトレディ。

正直、なんでこんなところで一人暮らししてるのか解らん程に美人であり、性格も勝気で男らしいところは多いが、良く余ったおかずをおすそ分けしてくれたり、食事に招待してくれたりと、家庭的で世話好きの優しい人だ。

―・・・ただ、一つ、本当に一つだけ、そんな全てのプラスを掻き消してしまう程の「これはひどい」と言わざるを得ない事があるわけだが。

「コータ~~!。」

良く見れば裸足だった桜さんは、そのまま俺の許可を得る事無く軽快な足取りで上がり込み、机の前に座り込んできた。
その手には、良く冷えた缶ビールが何本も。
・・・そう、もうお分かりだろうか。

―彼女、海原桜はとんでもない酒豪なのである。
酒豪とは、簡単に説明すると、大量の酒を飲む人、飲める人。
だが、この人は正直の所酒豪どころのレベルではなく、主食が酒と言っても過言でもないほど、休日は常に酒を飲んでいる。
俺自身、彼女の素面は仕事のある早朝にしか見れず、その他は常に顔は林檎の様に紅い。
そして、今日は休日。

「コ~タ~、こ~た~っ。」
「何度も呼ばなくても聞こえてますから・・・後酒臭い!」
「なんだよぉ~冷たいなぁ~、・・・あれ?、どうして食事が二つ分もあるの?もしかして私が来るのを解ってた!?」
「あー・・・いやその。」

無意味にハイテンションな桜さん、パスタ二つをキョロキョロと右左に見て、目を輝かせる。
・・・そう言えば、まだ姫子を自己紹介していないのだから、当然の反応か。
いや、そんな姫子は桜さん隣に居るのだから、気づいて欲しいものだが。

「い、いや、落ち着いて桜さん・・・実はですね―。」
「―おいコータ、なんやこのごっつ酒臭い女・・・。」
「・・・え?」
「・・・おーい・・・。」

これまた予想通りの、毒舌発動。
まぁパッと出で家に入り込まれては俺も毒舌を放ちたくなる故に、その気持ちは解らなくも無いが。
それをパッと出した本人であるお前にだけは言われたく無い。

「―・・・な・・・な・・・。」

さすがの桜さんもこれ(姫子)には驚きを隠せないのか、口をあんぐりとさせて見ていた。
俺は慌てて土下座の体勢に入る。
彼女を怒らせた時に待っているのは、恐ろしい格闘技の嵐。
此処の住人であれば、知らない者など誰も居ない、彼女は空手や柔道、格闘技でもパーフェクトだ。

「す、すいません桜さん、コイツは実はかくかくじかじかで我が家に居候してきた生意気なガキでして、今謝らせますから、どうかお許しを・・・ってかお前も謝れ!俺の大事な恩人だぞ!?」
「何や、こんなネェちゃんが好みなんか・・・趣味悪いなぁコータ・・・つーか酒臭いって自分も言うたやん!」
「うっさい!俺が言うのとお前が言うんじゃ毒が違うの!俺は常連!お前は初客!」
「おお・・・良い例えするやん・・・。」
「そうだろー、伊達に小説家志望じゃ・・・って違ぇぇええ!!」
「・・・コ・・・コ・・・コータが・・・。」
「さ!・・・桜さん?・・・その、落ち着い―。」

何とか丸めようとしたが、下らないやり取りをしていた頃には時既に遅し。
桜さんは俺の話を全く聞く耳持たずして、その裸足で俺の部屋の外へと駆け出し、そして。

「コータが・・・コータが少女を監禁してるぅううううううう!!!!」
「ちょっ!?桜さん!?」

大声で、そんな事を言っていた。
明らかに内容がオカしい。
何かしら言われる事はいくらか想定していたが、この予想斜め上の発言に、俺は思わず声を荒げる。

「コータ!今すぐ自首しなさい!そうすれば少しは罪も軽くなるわ!!」
「わー!わー!わー!!待って桜さん!色々間違ってる!!」

完全に誤解スイッチが入ってしまっているのか、涙を浮かべながら俺に自首を求めて来る桜さん。
確かに、知ってる人間の家に普段と同じように入って、そこにあんなちょこんと女の子が居ればそんな事を思いつか無くも無いかもしれないが。

いやいや、それでもぶっ飛びすぎである。
いや、この人は酔っている分、ある種常にぶっ飛んでいるのだが。
ああ、こんな事なら面倒くさがらず昨日から挨拶を始めておけば良かった。

とはいえ、後悔後先役に立たず、今はどう彼女を止めるかだ。
このままでは少女監禁の罪で警察のお世話になってしまう。
なんだかんだ親の許可を得てないのだ、実際にそうなる可能性があるのだから恐い。
当然、俺は桜さんを止めに掛かった。

「落ち着いてください!説明しますからー!!中に入ってー!!」
「うわぁあ!今度は私を襲う気かぁ~!?化けの皮が剥がれたぁーッ!!」
「誤解を招く様な事言わんでください!!大体あの子を見てください!監禁されてるように見えますか!?」
「だってー!女性に興味無さそうなコータが急に女の子を居候に迎えてるなんて誰が信じるの!?」
「そりゃそうですけど!って言うか解ってるんじゃないですか!その通りですよ!不本意だけどアレは居候ですって!」
「嘘だぁあぁあ、私のコータが変態になったぁああッ!!」

当然のように、そんな話が酔っているこの人に通じるワケも無く、桜さんは叫び続ける。
そんな声を五月蝿く思ったのか、それとも本当に事件だと思ったのか、続々と俺の部屋の周りには、このアパートの住民が集まってくるのだった・・・。
南無三、俺は此処までだと言うのか。
・・・ああ、父さん母さん・・・どうやら俺は此処までのようです。
心なしか、脳内からはサイレンの音が聞こえて来る気がした。

「うわっ、ホントだ・・・康太の家に女の子が居る。」
「おおうっ可愛い~・・・康太が捕まった後にでもウチにお持ち帰りしようぜっ。」
「何物騒な事言ってるの・・・これはさっさと110番して親御さんを呼ぶのが先でしょが。」
「・・・綺麗な子。」
「これは新しいネタの予感!?ちょっと前開けてー!」
「・・・おやおやぁ、若いモン達が朝から元気で・・・何よりじゃのぅ・・・。」
「そうですねぇおじいさん・・・あらあらぁ・・・康太さんのお子さんかしらねぇ・・・可愛いわぁ・・・。」

騒ぎを聞きつけてか、住人が各々感想を述べながら、当の犯人を無視して人様の部屋を覗き込む。
助ける気はさらさら無いらしい。
それぞれが顔見知りなだけに、おじいちゃんおばあちゃん以外はとにかく殴りたい。
いや、今はそうじゃ無いだろ俺。
何か誤解を解く良い手が無いものか・・・。

「お前らも落ち着け!だから違うっての!!おい姫子!!お前からも何か説明しろおお!!」
「うわぁあ~!今度は子供を脅し始めたぁあ!!やめなさい!コレ以上罪を重ねないでぇ!!」
「あー!違うって言ってるでしょうにぃいい!!」

こうなってはもう俺の手には負えない。
桜さんの馬鹿力をなんとか押さえ込みながら説明を求める俺。
だが、肝心の姫子は。

「・・・。」
動物園の小動物の様に、だんまりとただ見世物になっていた。
だから、何でお前は俺以外にはそんな無言キャラなんだと。
世界の中心で叫んでやりたい所だ。

いや、とにもかくにも、どうする?どうする?
奴は使い物にならん、かといって今の状況で説明しても、姫子のあんな様子を見たら、これ以上の言い訳は本当に監禁だと疑われるかも知れない。
どうする?どうする!?
脳内が意味も無くそんな言葉を駆け巡らせ始めた頃。

「あらあら、どうかしたのかしら・・・?」

―俺の耳に、女神の救いの声が聞こえた。

「柚子さぁあああん!」
「あらあら・・・どうしたんですか桜さん。」

安心から気を抜いた俺の腕から抜け出した桜さんは、一目散に柚子さんに飛び込んでいった。
酔っているとは言え、本気泣きなのだから罪悪感が沸く。
そんな桜さんの様子、溜息を付く俺の姿、そして集まる住民に、柚子さんは周囲を一度見回した後、事を把握してなのか、首をコクリと頷かせ、そして第一声。

「コータさん、自首しましょう?」
「柚子さん!?」
「ふふっ・・・冗談ですよ。―・・・皆さ~ん、少々そのままお待ちを~。」

冗談じゃ洒落にならない事を笑いながら言った後、柚子さんは俺の部屋へと入って行った。
突然の管理人の登場とその行動に、何だ何だとざわめき始める住民達。
さっきまで騒ぎ続けていた桜さんも、いつの間にやら、俺の隣に座り込み、そして。

「・・・コータ~、自首しろよ~・・・。」
「・・・だから違うって!・・・桜さん?」
「・・・こ~たぁ~・・・じしゅぅ・・・。」
「・・・。」

そんな言葉を残して、そのまま眠り始めていた。
・・・最後の最後まで身勝手な人である。
いや、今に始まった事じゃ無いが・・・。
だがさすがに、これに慣れてしまってはオシマイだと思う。

しかし、こうして眠っている間だけは、本当に美人だというのに・・・。
勿体無い美人とは、まさにこの人の事を言うのだろう。

「はーい、皆さんちゅうもく~。」
「・・・。」

と、寝顔に見とれている間に、柚子さんは姫子を連れて出て来ていた。
一同の視線が集まる中、柚子さんの時のように、顔を俯かせる姫子。
そんな様子に、あらあら、と言いながら姫子の肩に両手を乗せながら、その耳元で何かを呟き、笑みを見せる柚子さん。
端から見たら母と子にも見えなくも無いだろうか。

そして、柚子さんが姫子に何かを呟いた、その数秒後だった。
姫子は大きく息を吸って、思い切った様に口を開いた。

「・・・―ウチ、姫子言います・・・よろしゅうにっ!」
「・・・と言うワケです皆さんっ、この子は色々あって昨日からコータさんの部屋に居候してる、このアパートの新しい住民さんです、皆さん、どうか仲良くしてあげてくださいね~。」

良く出来ました、と姫子の頭を撫でた後、その言葉とお辞儀を残して、柚子さんはいそいそと管理人室へと戻っていった。
よくよく考えれば、最初から柚子さんを呼んでおけば良かったのだ。
さすがは管理人、俺とは発言力が違った。

―柚子さんが去った後、興味津々に集まってきた住民は、それぞれ姫子に自己紹介を済ませ(2名を除き)た後、去っていった。
反応は様々ながらも、姫子は遅れながらも、このアパートの正式な住民として迎えられた様だ。

良しか悪しかは別として、少なからず誤解騒動が終ったという事が、俺に安堵させた。
居候が長引くにせよしないにせよ、こちらとしてもコイツが居る間、ずっと変態扱いされるのだけはゴメンだ。

「・・・何か、変な人たちばっかやな、ここ・・・。」

一部を除く全ての住民と話し終えた姫子は、そう一言呟いて、部屋へと駆け込んで行き、人がまだ入っていないのにも関わらず、扉を閉じた。
心なしか、その顔は少しだけ赤くなっていた気がする。
柚子さんの時といい、コイツ、もしや人見知りするタイプか・・・?
・・・まさかな。

アイツが人見知りだとしたら、初対面時のアレと、俺に対しての態度の説明が付かない、そう言いたくなるものだ。
・・・まぁ、多分俺はきっと警戒心を抱かせないオーラがあったんだな、うん。
そういう事にしておこう。
もう考えるのも疲れた。

たった10分ほどの出来事の間に、俺の疲労度はグンと上昇していた。
ただでさえ朝はそんなに強く無いと言うのに、朝から居候の為に豪勢(自称)な食事を作り、隣人には変態扱いされたとなると、そんな疲れも解る気がする。

今は何を考えても疲れるのだろう、急に身体が重くなったように感じた。
とりあえず掃除も終ったし、残ったメシを食べて寝よう。

そう、姫子の後を追うように俺も部屋へと入ろうとした。
だが。

「こ~たぁ~・・・。」

忘れてはならない人物が一人、まだ残っている事に気づき、俺はターンする。
寝惚け眼で俺の手を掴んで離さない桜さん。
どうやらまだ夢の中らしい。

「・・・桜さん、起きてください。」
「・・・うにゅ・・・こ~たの変態~・・・。」
「・・・もう嫌だこの人・・・。」

もはや溜息しか出ない中、俺は仕方なく桜さんを自分(もちろん桜さんの)の部屋に運んでやり、ベットで寝かせてやった。
もうこんなパターンも慣れた(慣れたくは無かったが)モノで、俺からすれば抵抗などまるで無い。

・・・いや、マンガとかで考えたら、美少女の居候に、美人の隣人との触れ合いも付いて、どこの恋愛小説だとでも言いたくなる状況なのだが。
人間、性格って大事だ、改めてそう思わされる瞬間だ。
桜さんも、酒豪じゃなかったらどんなにモテた事か・・・。

―・・・結局俺が朝食を食べたのは、桜さんがベットで完全な眠りに付き、ようやく手を離してくれた午前9時だった。
スッカリ冷たくなり、マーガリンが固まったパスタを食べながら、俺は思う。

いっそノンフィクションでここの事を小説に出せば、そこそこいい話が作れそうである、と。

表紙に付けるあらすじはこうだ。
『変な住民に変な居候が加わって、俺の苦労は有頂天。』
・・・ジャンルは、コメディか?

「・・・あ、そうやコータ。」
「あん?なんだよ。」

一人妄想に入ろうとしていた俺を止める様に、姫子。
そうか、そういえばお前が居たんだな。
今後妄想は控えよう。
いくら生意気で男みたいな性格をした少女にでも、いい大人が妄想してる姿なんてのは見せられん。

と、そんな心の中で悪口ばっかりを言っていた俺に気づいたのか。

「ご・・・ごちそうさまでした。」
「・・・おそまつ、さまでした。」

あれだけ文句を言いながら、美味しく無さそうに食べていた割には、キチンと麺一つ残さず、姫子は空になった皿をそう見せて、姫子は両手を合わせながら、一礼。

やはり、礼儀だけはしっかりしようとしているのだろう、仕方なく言っている感じを得つつも、俺はそう返し、姫子の皿を回収する。
・・・そう思った途端、姫子が先ほど言っていた、母親と言うワードを思い出し、俺は考えてしまった。
母親の言葉を律儀に守る辺り、母『親』を嫌っては居ないのだろうか。
だとして、どうしてコイツは家出したんだ?・・・長期に居候するつもりなのは確実だが。
こうまでして親に会いたくない理由が、俺には解らない。
いや、解っている事はあるにはある。
それは、人には言えない理由だと言う事。
それと、どうしても親には会いたく無くなる様な理由だと言う事。

とにもかくにも、正式な居候と家主の関係になった以上、俺は次の家主が見つかるか、コイツが帰るかまでは、面倒を見てやる他無く。
・・・そう、本当に色々と待っているのは、ここからなのだろうか。

せめて、あらすじ通りにならない事を祈りたい。
切に願う康太であった。

第一話 続く。 

季節外れのベロペロネ

第一話「眠り姫は小説家。」

前回までのあらすじ。

1:警察に捕まる所でした。
2:新キャラが沢山出てきました。
3:姫子が正式に居候になりました。

現在時刻、10時半。
あのひと波乱から、ようやく元の平穏を取り戻したアパート。
・・・のはずなのだが。

「・・・なぁコータ、暇や。」

パソコンを開き、文字を打ち込んでいる俺の後ろ、ベットの上で、姫子は気だるそうに寝転がりながら、そんな事を呟く。
そりゃ暇だろうさ、学校も行かずにこんなところでゴロゴロしてちゃ暇だろうさ。
面倒くさいと思いつつ、俺は相槌を打つ。

「・・・ああ、そう。」
「どっか遊ぶとこ無いん?」
「・・・お前、この辺りを散策して来たなら解るだろ?」
「・・・ゲーセン二つに遊園地一つ、・・・動物園1つに・・・マージャンできる所が・・・。」
「どこまで歩いてるんだお前は・・・つーかマージャンは行くなよ、色々問題になる。」
「うーん・・・やっぱ近場は遊園地とゲーセンか・・・。」
「・・・つか、お前金あんのか?」
「無かったらここに居らんやろ・・・ホラ。」

と、姫子は持っていたピンクのバックから財布を出し、俺に見せた。
見た目的には、それなりに良いお値段のしそうな財布、だが、中身を開くと。
―その所持金は4円だった。

「・・・4円しかないんですが。」
「・・・此処に来る為の電車に乗るまではあったんやで!・・・1204円!」
「・・・で、金も無いのにどうやってゲーセンや遊園地で遊ぶつもりだ?遊園地に関しちゃ入れもしないじゃねぇか。」
「・・・ほら、そこは、なぁ?」

と、上目遣いで俺を見る姫子。
・・・言っては難だが、気色悪い。
なんだかんだ美少女なので、普通は可愛い筈なのだが。
俺は余りに急変する姫子の態度に寒気を感じないワケも無く、数歩下がる。

「・・・あ、あれだ・・・そういうの、やめたほうがいいぞ・・・?」
「人が色目使ってるっちゅうのになんやその反応!?」
「・・・ガキに色目使われてもねぇ、最初にも言ったけどロリコン趣味は無いからな。」
「ほんとつまらんやっちゃなぁ!・・・あぁアレか、やっぱりあの酒臭いネェちゃんが好きなんか!?確かに胸とかデカいもんなぁ!?」
「酒臭い言うな!いや酒臭いけど・・・アレでも俺の恩人なんだからな?好きとかそう言う次元じゃねぇの。」
「はぁ・・・お前趣味変わっとるなぁ・・・。」
「小説家は皆変人なの、常識だけじゃ小説は書けないの。」
「つまり、ネェちゃんが好きなん?」
「ちゃうわ!・・・ともかく、金が欲しけりゃ働け。」
「・・・それはつまり、カジテツダイをすればお小遣いをくれるって事やな!?」
「そうそう、そー言うこ・・・ん?」

・・・流れに身を任せすぎて、今もの凄くしてはいけない約束をした気がするのだが?
俺は成り行きで放った自分の言葉を繰り返した。

つまりこの流れは、コイツの下手なお手伝いに料金が発生する、と言う事だ。
コイツは居候だ、住ませてやってる上にメシまで食わせて貰ってるだけで、それはもう何万円分もの貸しがあるくらいで、お手伝いをするなんて本来当たり前だ。
だと言うのに、それにいちいち料金が発生するだと?

「ちょ、ちょっと待てお前、ソレはおかしい!」
「ん?何や、まさか無償で働かせるつもりか。」
「当たり前だろ!・・・そもそも住ませて貰ってる立場が何を―。」

俺がそう正論を唱えている時だった、姫子は突然立ち上がり、小さな窓の方へと歩いていく。
まさか条件を飲んでもらえないからって投身自殺なんてやるつもりじゃなかろうな。
そんなありもしない事を考えていた、その時だった。

「きゃー助けてー、コータが襲ってくるぅー!」

・・・これはさっきのデジャヴ?
2時間前ほどにこんな感じの光景を見たぞ?
・・・つまり、また誤解が生まれるには十分な時間。

「おまっ!!何してる!?」
「だってー!コータったらウチの胸をー!」
「テメェ!、そういう強攻策を―。」
「嫌やったら出てってもいいんやで!その代わり・・・ここで変態扱いされるけどなぁ!」
「・・・お・ま・え・なぁ・・・!。」
「ふっふっふ、さっきのネェちゃんの好感度は落としたく無いもんなぁ?」
「だから違うと何度言えば・・・。」
「じゃぁ、変態扱いされるか?」
「・・・。」

その時の俺の顔は、さぞ面白かったらしい。
どうしてまぁ、子供ってのはこう言う悪知恵だけは大人顔負けに働くのか・・・。

―結局、その俺は脅しに屈する他無かった。
とはいえ、こっちも資金面に関しては常にボーダーラインギリギリ、生活が掛かっている、給料制を許すにしても、その金額だけは勝手にはさせられない。
30分に渡る討論の末、一応は姫子もソレを理解してか、渋々同意し、手伝い一回に付き、30円、と言う事になった。
これでも多くした方だ。
証拠に、姫子もそこそこ嬉しそうに(してやったりな顔にも見えるが)ベットの上をぴょんぴょんと跳ねている、殴りたい。

ついでに言えば、昨日の自分が目の前に居たら真っ先に殴ってやりたい。
本当に、どうしてこんな悪ガキを迎え入れてしまったのか・・・。

―しかし、今日に限っては、そう長くコイツに構ってやるワケにもいかない。
時刻は11時過ぎ。
今日は「アレ」の日なのだ。
俺はいそいそとバックを背負い、パソコンの電源を切る。

そんな様子に何かを感づいたのか、姫子は此方へ視線を向ける。

「お、出かけるんか~?」
「そーいう事、人待たせてるんだよ。―2時間くらいで戻るから、それまで暇なら皿洗いやら風呂掃除でもしてろ、一応やり方についてはメモを冷蔵庫に張ったから・・・んじゃ留守番よろしく。」
「ん、いってらっしゃー。」

上機嫌に手を振る姫子に見送られ、溜息を付きながら、俺は家を後にした。
・・・見送られるのは悪くない気分なのだが、いかんせん相手が不安だ。
この二時間後、どんな悲惨な状況が俺を待っているのか、と。
しかし、それを口に出せば、家を出られない気がしたので止めた。
それに、昨日の礼儀作法を見る限り、なんだかんだやってくれそうな、そんな淡い期待もあったのだ。

・・・本当に淡い期待だったと、俺は後に後悔する事になるが、それは後の話。

――。

「―すいませーん、静花さん居ますかー。」

呼び鈴を鳴らしながら、ドアの前で呼びかける。
人を待たせてる、とは言ったものの、実の所、彼女は余り待っていない。
まず第一に、待たせるほどの時間、俺は歩いていない。

―何せ、目的地はアパートの二階。
つまるところ、急ぐ事も無かったワケである。
とはいえ、約束の時間を決めた俺が遅れては、どうこう言えない。

そして何より―。
・・・彼女は呼び鈴程度では起きない。
つまり、本人は『余り』どころか、『0』とも言えるほど待つ気が無いのである。

「・・・静花さーん。」

二度目の呼び鈴と掛け声にも、予想通り反応無し。
居ないとすら思うほど、気配を感じないのだから恐ろしい。
まぁ、これもいつもの事なので、驚く事ではないのだが。
溜息を付きながら、俺は鍵が開いてるのを確認し、ドアを開ける。

・・・本来なら気が引けるところなのだが、俺は初めての頃からは、彼女の部屋に入ることに躊躇もしないし、慣れるも何もあったものでは無かった。
何故なら。

「・・・相変らず寂しい部屋だな・・・。」

ドアを開けた先に広がる光景は、一言で言えば、趣味の無い男の部屋。
だからだろう、俺は一度驚いて以降、その部屋に抵抗を感じる事は無かった。

―狭い部屋が広く感じるほどに、そこには必要最低限のモノしか置かれていない。
本をしまう為の小さな棚、数少ない服をしまう為の小さなタンス、水を入れるためだけに存在する小さな冷蔵庫、書く為の小さな机と、そこに置かれるノートパソコン。

後は物置も飾りも無い、テレビも無ければラジオも無い、流行の雑誌なんてものも存在しない。
ゴミもほとんど無く、いい意味ではスッキリしているが、ここまで余計なものが無いと、寂しさすら感じてしまう。
そんな部屋の真ん中で、彼女は布団で丸くなり、猫柄のパジャマ姿でスヤスヤと眠っていた。
まるで、本当の猫の様で。

・・・そんな彼女を起こすのは気が引けるが、起きて貰わないと困るので、とりあえずいつもの方法で起こす事にしよう。
俺は掛け布団を、手に掴み、そして。

「・・・そぉい!!」

いっきに剥がした。
端から見たらどう考えても変態だ。
・・・ああ、その用語は2時間前のトラウマが蘇る。
しかし、誤解はしないで欲しい。
これは彼女本人に言われた起こし方なのだ。
その証拠に。

「―・・・う・・・うぅん・・・コータ君?」

眠そうな顔をしながら、彼女は目を開けて、俺を見ていた。
本当に年上かと思うほどに、子供の様な顔をする彼女、朝霧静花。
ロングとショートの中間(ミディアムって言うんだっけか)をした金髪に、寝てる時も外さないメガネに隠れたジト目は、どこか常に眠そうな、一風(?)変わった彼女。

実際に中身も変わっている。
それは部屋を見れば解ってくれるだろう。

「・・・そーですよ、毎度毎度起こさせないでくださいってば。」
「・・・今、何時?」
「11時10分です。」
「・・・寝る。」
「寝ないでください、今日はあの日でしょ。」
「・・・なんだっけ?」
「お勉強会ですよ。」
「・・・ああ、おはよう・・・。」
「おはようございます。」

仕方ない、と言わんばかりに、彼女はのっそりと起き上がる。
・・・これでも一応社会人である彼女だが、寝起きの悪さはこのアパートでも有名である。
一例としては、隣がボヤ騒ぎの中でも寝ていたりするのだから、誰もが認めざるを得ない。
一度寝たら12時間は起きないとされている彼女は、眠り姫とさえ呼ばれる。

―・・・と、しかしそんな不思議感溢れる彼女だが、驚く無かれ、実は小説家でもある、此処重要。
・・・デビュー作以来は不発だらけだが、それでも小説家。
要するに、俺の憧れでもあるのだ。

ソレを知ったからこそ、俺は彼女と関わる事を始め、少しでも知識を貰おうと頑張っているワケである。
・・・しかし、そんな付き合いから1年弱だが、未だに彼女は俺のやる気を理解してくれないのか、一度も待っていてくれた事は無い。
・・・まぁ、起きれないだけ、と言う説もあるのだろうが。
何せ、夜勤の仕事をしている彼女にとっては、午前午後は貴重な睡眠時間なのだから。

「・・・それで、今日は何を持ってきたの?」
「・・・えっとですね、前回やったのが55話だから、その続き、56話です。」
「前回・・・ごめん、55話もう一度見せて。」
「・・・結構山場だったから自信はあったんだけど・・・そんな印象薄かったっスかね・・・。」
「・・・・・・単純に忘れただけだと思う。」
「・・・。」

予想通りの機械みたいな返答の仕方に、俺はバックから前回の話を書いた分も合わせて、小説の書かれたコピー用紙を彼女に手渡した。
ふむふむ、と呟きながら椅子に座り、まだ眠そうな顔をしながら、彼女はペンを手に、それを読み始める。
お勉強会とは、こう言う事。
俺が小説を書き、持って来て、彼女がそれを修正、指摘する。
とはいえ俺も聞いてばかりじゃない、反論もするし、色々意見も出す。
聞いたままに書いては、経験にもならないし、彼女が書いたのも同然になってしまうからだ。

「・・・―どうですか?」
「・・・・・・。」
「・・・。」
「・・・・・・うーん。」
「・・・どうしたんですか?」
「・・・―顔洗ってきていい?」
「最初からそう言ってください・・・いきなり読み始めるから大丈夫かと思いましたよ。」
「うん・・・私も大丈夫だと思った。」
「・・・。」

10分ほど読んだ後に、表情の変化も、感想も無くそう言って、台所へと向かっていく静花さん。
それなりの時間、こうして同じアパートに住んでいるが、この人は本当に掴み所の無い性格だと思う。
こうして俺のお願いを快く引き受けたはいいが、時には面倒臭がり、時には起きず、こうして見てくれる辺り、やる気が無いわけでは無いのだろうが・・・。

「私の顔に何かついてる?」
「いや、静花さんは気まぐれだなぁと。」
「・・・にゃー。」
「・・・猫の鳴き真似をされたらリアクションに困ります。」
「・・・うん、コータ君はもう少し遊び心を見につけるべきだな。」

水に濡れた顔をタオルで拭きながら、彼女はまた元の位置に戻り、コピー用紙を手に取る、そして。

「・・・そう、遊び心が足りない。」
「・・・あ、そういう繋がりだったんですかそれ・・・。」

読みながらそう呟く彼女の顔は、相変らずの無表情。
思うに、この人は笑ったら相当可愛いと思うのだが、ソレもそのはず、俺はこの人の喜怒哀楽を見たことが無い。
いや、きっと俺だけでは無い、このアパートに住んでいる誰もが、きっとそうだ。
俺自身も、そういう深いことにツッコむ気は無いし、小説について教えてもらえれば文句は無いので、いいのだが。
見たいか、と聞かれれば、見たいんだと思う。
無論、物珍しさ的な意味で。

「・・・―ジャンルはアクション系統だから、まぁ遊び心が必要無いとは思うけどね、詳しく言えば、戦闘中のキャラの性格がなんだか一定な気がするの・・・誰もかれも一生懸命に戦いすぎてる感じ、戦闘中だから、必死になるって言うのは常識的過ぎると思わない?」
「・・・でも、命を賭けてますから。」
「うーん・・・例えば、このイリスってキャラクター、私だったら、死と隣り合わせに恐怖を感じながらも、半分は楽しんでると思うの。」
「楽しむ・・・うーん、・・・そう見えます?」
「・・・彼女だったら、楽しそうに、笑いながら戦ってると思う、死に場所を探してる彼女だけど、でも反面では今在る自分が楽しくて、死にたいけど、死にたくない、もっと強くなりたくて、もっと戦いたいから、生きて、戦い続ける、自分に相応しい舞台が見つかるまで。」
「・・・。」
「それと、イリスの弟子の子も、もう少し未熟さが出せるといいかな、・・・今のままだとただ援護だけしてる感じで、未熟どころかただの背景だから・・・一回でも、未熟なりに頑張ってるって所を書いて上げれば、その子のキャラが生きるんじゃないかな。―・・・一応は主人公でしょ?」
「・・・要するに、戦闘中も個性を忘れるなって事ですか?。」
「そそ、そんな感じ・・・出来ればその中で、キャラの意外性も描けたらいいな・・・例えば、いつもは冷静冷徹な師匠が、戦闘中死にそうになった弟子を敵の攻撃から庇う、とか。」
「・・・意外すぎる。」
「でも、だからキャラの印象が強くなる。―ギャップってのは現実の男女関係においてもかなり強い力よ。」
「成る程・・・。」

急に真剣に話し始めるのも、気まぐれ故なのか、それとも単に目が覚めたからか。
・・・―ストレートかつ為に成る意見はこの後にも続き、結局、予定の時間である2時間をきっかり使い、自分の小説について厚く語り合った。
普段喋らないからか、語り終えた静花さんは、喉が渇いた、とミネラルウォーターを俺に買ってこさせ、赤ん坊がミルクを飲むが如く勢いで飲み干す。

「ぷは・・・やっぱり喋るのは疲れる・・・。」
「・・・そんな理由で普段喋らないんですか?」
「・・・喋るのが嫌で小説家になった位ですから。」
「・・・有名になったらインタビューとかありますよ?」
「その時は喋らない・・・語りたいことは全部小説で語ってあるから。」
「・・・喋りたくは無い、けど語りたい・・・?」
「そう・・・語りたい事があったけど、喋るのが嫌だった、ソレが私の小説家を志した理由。」
「・・・単純っスね。」
「目的や理由って、単純だと思わない?
「・・・まぁ、それもそうか。」

的を得た言葉は、俺の首を頷かせる。
・・・この人、本当は喋らせたら一番話上手なんじゃないか、などと密かに思いながら。

「・・・そろそろ時間じゃない?」
「おっしゃるとおりで・・・時間足りないなぁ、もっと聞きたいことはあるんだけど。」
「そう?・・・私としてはこの回で教える事はもう無いんだけど・・・。」
「改良の余地無しですか?」
「これ以上手を加えると私の小説になる、コータ君らしさが無くなったらいけない。」
「・・・成る程。」
「何より・・・眠い。」
「・・・さいですか。」

時刻は13時15分、バイトまで後45分。
本当はもっと話していたいが、彼女も自分の小説を進める時間がある(多分寝るのだろうが)。
・・・何より、自宅の事も気になる。
俺は彼女から修正を加えられた用紙を返してもらい、ソレをバックに収めた。

「それじゃ、今週もありがとうございました。」
「いえいえ。―・・・じゃ、また今度も起こしに着てね。」
「・・・今度は待っていてください・・・。」
「えー・・・。」
「女性の家に無断で入るのは気が引けるんですってば。」
「女の部屋だと思ってない癖に。」
「う・・・だったらせめて女性の部屋らしくしてくださいよ・・・。」
「ふーん・・・―そういえば、君のところの可愛い居候は一緒じゃないの?」
「アイツは居るだけ邪魔なので留守番させてます。―・・・ってか今更ツッコむ所ですか・・・。」
「・・・ふむ、アレだったら、あの子にこの部屋の装飾でもさせてみようかな、何て思ってね・・・流行ものとか知ってそうだし。」
「・・・嫌な予感しかしませんよ。」
「それじゃ、コータ君がやってみる?」
「・・・尚更遠慮します。」
「そう、残念。」

残念そうな顔もせずにそう言って、彼女は布団に包まりながら、此処を去る俺を見送った。
今後こそははせめて、夢の中ではなく、普通に待っていて欲しい、そんな事を思う俺だが。
きっと次も、こんな人目を気にした不法侵入をしてまで、夢の中で待っている彼女に会わなければならないのだろう。
既に来週の俺が見えていた。

布団に包まって、そのまま眠りに付く彼女を見届けた後、俺はドアを閉めた。

―・・・さて、急いで戻るか。
瞬間、俺はダッシュで下へと向かう。
大洪水と化しているか、それとも食器が全部パズル状態になっているか。
最悪ボヤ騒ぎにでもなっているか
・・・どれも勘弁して欲しい。

いやいや、さすがにアイツも馬鹿じゃない、たかが皿洗いとお風呂掃除くらいは出きるだろう、掃除道具や洗剤の場所は教えてあるし、そもそも教えるほど迷う場所には置いてないのだから、大丈夫だろう。
・・・アイツ、が常識人なら。

―『期待<<不安』になった俺の脚はさらに早まり、あっと言う間に自宅へとたどり着いた。
どうかドアを開けたら水死体なんてありませんように。
むしろその時点で俺も水死体の仲間入りなので本気で勘弁願いたい。

―・・・しかし、そんな心境で自宅のドアを開けた俺を待っていたのは、またもや予想斜め上を行く事態だった。

「―お、おかえりコータ~!」
「おっかえり~!待ってたよ~っ!!」
「・・・な、な・・・なんじゃこりゃぁああああああああ!!?」

悲鳴を上げた俺の前に広がった光景は、悲惨の一言に尽きた。
それは、ビール缶とビール瓶だらけの部屋は、てっきり隣と間違えたのかと思う程。
だが、そんな事は無く、そこは間違いなく俺の部屋。

・・・皆さんはもうお分かりだろうか。

4時間前に寝かせたはずの桜さんが、何故かまたもや顔を真っ赤にして我が家に来襲していたのだ。
そして、その隣では、同じく顔を真っ赤にした姫子。
・・・良い子はマネしないでね。
つーか未成年!!

・・・いっそ水死体にでもなってくれてれば良かったか・・・?
馬鹿二人を前に頭の痛い俺であった。

第一話 続く。

季節外れのベロペロネ


第一話「急すぎるシリアス。」

前回までのあらすじ。

ひとつ:居候に主導権を握られた。
ふたつ:いつものお勉強会。
みっつ:何故か我が家は飲み会中だった。

・・・急すぎて解らない人は、前回の話を見よう、それでも解らなかったら、知ったか振りをしながら続きを読もう。

「・・・―桜さん。」
「・・・なぁに?」
「帰ってください。」
「ひどっ!・・・しょーがないじゃん、まさか倒れるとは思わなかったんだし、怒らないで、ね?」
「・・・もう怒ってません、いや最初から怒ってません、呆れてるんです。」
「うー、ごめんってばぁ~。」
「もう・・・こんなに散らかして・・・第一子供に酒なんか飲ませんでください・・・。」
「だってさー、姫ちゃんが飲みたそーな顔してるから、コータが居なかったのが悪い!」
「・・・もー俺が悪いでもいいですから帰ってください・・・。」
「ああん、コータが冷たいよぅ・・・。」
「桜さんが人の家で未成年の居候に酒をイッキさせるような人じゃなかったら、冷たくしません・・・イッキなんて覚えさせたの桜さんでしょ・・・。」
「うんっ、今度は気をつける!」
「・・・今後は気をつけてください。」
「はーい。」

―さて、どこから説明しようか。
まず、どうして俺が桜さんに偉そうに説教を垂れているかを説明した方がいいのだろうか。

・・・いや、一人暮らしの方なら怒る理由も解ってくれよう。
人がいそいそと帰ってきてこれからバイトだと言うのに、扉を開けたらビール缶だらけの家になってたなんて、そりゃ怒るだろ?
むしろこれは一人暮らしじゃなくても怒るだろ?
いやしかし、それだけならまだ良かったのだ。
正直こんなパターンは前にもいくらかあった事で、終いには人様の家で大の字になって寝てる日もあったのだから、嫌でも慣れる。

だがしかし。
今回のパターンに至ってはそうもいかなかったワケで。
現在、家はゴミ屋敷状態、皿洗いも風呂掃除も欠片もこなされておらず、むしろ出かける前の倍は汚くなったであろう。

それもそのはず、桜さんの話では、俺が出かけたその数分後にこっちにきて飲み始めたらしく、世間話をしているうちに、何故か姫子が飲みたいと言い出し、この状況が作られたらしい。

・・・そして冒頭の会話の内容から察せる様に、掃除係であったはずの姫子は、倒れている。
俺が帰り、絶叫を上げた直後、何故か自慢げにイッキ飲みを始め、そのままバタンと。

何を言っているか解らないと思うが、実際問題俺も状況を把握していない。
強いて解るのは、倒れた姫子をわざわざ自分の布団に運んでやった俺のそんな苦労を知らずに、人様の布団で寝ている姫子が居るという、そんな解りたくも無い現状である。

なんとも贅沢な奴め・・・。
昼から酒を酔うほど飲んで寝てる小学生など、天地探しても居るかどうかだ。
いっそ天か地の果てに捨ててやりたいなコヤツ・・・。

―・・・しか、そう長くもグチっても居られない。

時刻は13時30分、残り30分。
遅刻をすると姫子の給料およそ19回分がオシャカになってしまう。
それだけ避けねばならん。
俺はいそいそとバイトの準備を始める、のだが。
忘れてはならない、桜さんが酔うと、どうなるかを。

「あれ、今日バイトだっけ?」
「そーですよ、だから急いでるんでしょ、桜さんもこのビール缶片付けて、さっさと帰ってくださいね。」
「えー・・・まだ飲み足りなーい。」
「自分家で飲んでください、マジで。」
「一人で飲む酒なんておいしくないんだよー・・・。」
「だからって姫子を巻き込まんでください・・・ってかもー少し暖かい格好してくださいよ、見てるこっちまで寒くなる・・・。」
「シャツ二枚着てるしそーでもないよ?パーカー着ると逆に暑いんだものー・・・あ、そうだ!コータ、こっち向いて!」
「―は?」

俺が頭の上にクエッションマークを置きながら、振り向いた、その瞬間だった。
桜さんは、何故か俺の胸部にダイビングして着ていた。

「―!?!?ちょっ桜さん!?」
「人肌って暖かいよねぇ~・・・一回ラブコメみたいなことやってみたかったんだよ!、―冬の寒さで凍えそうな彼に、『暖めてあげる』なんてさ~?」
「逆!桜さんそれ逆!寒いのは貴方!暑いのは私!いやそうじゃなくて!ラブコメでもこんな事今時しませんって!」
「へっへぇ~、嬉しいでしょ~?美人なお姉さんに抱きつかれて~、ほれほれ~。」
「び、美人なのは否定しないけど酒臭い!あなたはめっさ酒臭い!!」
「むぅ・・・ロマンが無いなぁ、こういう時は男女見つめあうもんでしょ~?」
「酔ってる人にロマンも糞もありますか!?」
「えへへ~、コータの反応はやっぱり楽しい~。」

またも始まった桜さんの悪酔いに、酒を飲んでいないのに頭が痛くなりそうな俺が居た。
・・・彼女の名誉の為にも言っておくと、ホントーに酔っていない時は凄くいい人なのだ。
正直の所、別人とさえ言える程に。
ああ、これが酔ってない桜さんならどんなにうれしかった事かと、幾度同じ事を考えたことか・・・。

――その後、俺は何とか桜さんを説得(振り切ったが正しいだろうか)し、お帰り願った。

少し不満げな表情をしながらも、言う事を聞くその様は、子供のようで可愛いのだが。
やはり、酔っていない桜さんが一番だ、改めてそう思う俺が居たのであった。
なぜなら、説得に掛かった時間は30分。
つまりは、アウトと言う事だ。

さよなら、俺の30分の給料・・・。

――

「・・・と言う訳だよ神崎、俺は今ひじょーに疲れてる。」
「・・・すまん康太、もう一度、今度は俺にも解る様に日本語で頼む。」
「あん?日本語だったろーが。」
「・・・ああ、日本語だった、確かに日本語だった、だがお前のその説明はどー考えてもおかしい。」
「何がおかしいんだよ、―昨日女の子を拾った、・・・単純だろ?」
「・・・何故『拾った』・・・?」
「捨てられてたから。」
「だ・か・ら、なんで捨てられてたかを聞いてるんだろうが・・・。」
「いや、うん、自分からダンボールの中に入っててだな、それを拾って、居候にした、と。」
「・・・。」
「全く、同じ事を二度も話させるなよ、馬鹿崎め。」
「拾ってからの話して無いし!馬鹿はお前だろ!?つか、何得体の知れない子供拾って、尚且つ居候にしてんだよ・・・?」
「・・・今は後悔してる・・・ごめん・・・。」
「なんでそこだけ素直なんだよ!?」

―・・・現在時刻15時45分。

バイト先である、どこにでもある小さなスーパーの裏方、荷物の通り道である搬入口、監視カメラの視界に入らない、入り口の隅っこで、俺は親友(?)の神崎勇地に、ほぼ一方的に愚痴っていた。
セール日でもある休日や祝日以外は、このように暇な時間(出そうと思えば仕事など山ほどあるが)があったりする為、同じ仕事をしてる俺達はこうして、タバコ片手に世間話を楽しむのだ。
まぁ、簡単に言えばサボリである。
それと、どうでもいいが、俺の咥えてるタバコも神崎のである。

「・・・で、大方話は解ったが、お前、その子居候にしてどうすんだよ?・・・つーか親御さんに連絡は?」
茶髪の頭を掻きながら、呆れ顔で俺に問う神崎、その質問はご尤もだが、確信を突き過ぎたソレに対しての答えを、俺は現在持ち合わせていない。
「親御さんの連絡先を聞こうにもだんまりだし・・・正直何もかも成り行きなのだよ、つーワケで助けてくれ。」
「だから何でそこで俺に振る?・・・犬や猫を拾ってきたとかならまぁ解るが・・・お前はどーしてそういつも後先考えずに・・・。」
「・・・想像してみろ神崎、・・・自分のアパートに美少女がうるうるとこっちを見てて、ワケは言えないがアテも無い・・・そう言われて、お前断れるか?」
「珍しくマシな説明・・・って、違う違う・・・お前、そこは普通に柚子さんに任せろよ。」
「・・・お前は何て他力本願な奴なんだ・・・見損なったわ。」
「お前にだけは言われたくねぇよ。」
「やーいやーい、他力本願。」
「その口のタバコ今すぐ捨てやがれ・・・大体、貧乏人のお前がどうやってガキ一人を養うつもりなんだよ?家計が常に火車な癖に、無計画が過ぎないか?」
「そう、そこなんだよ神崎。」
「・・・何も考えてないとか?」
「勿論。」
「無責任無計画とか・・・他力本願より性質悪いよお前・・・。」
「・・・いや、一応な、柚子さんに服やら日用品は貸してもらってるんだ、娘さんが昔使ってたお古だけど、俺よりいい布団とか、そこそこ高そうな服とかさ。」
「結局柚子さん頼りじゃねぇか・・・。」
「丸投げよかマシだろ!?」
「・・・解った、解ったからそんな泣きそうな顔すんな、普通に気持ち悪い。」
「神崎だって可愛い妹と同居してるんだから、何かしらアドバイスがあると思ったのに・・・役立たずもいいところだよ・・・。」
「他人と兄妹を一緒にすんな!・・・つーかお前アイツの外見見た事無いだろ・・・もう可愛い妹なんて言えるトシじゃねぇよ、アイツ。」
「もう22だっけか?俺より一つ年上だからさん付けなんだよなぁ。」
「ああ、すっかりOLだよ、・・・ムカツくことに俺より稼いでるしな。」
「役に立たん兄貴め。」
「お前にだけは言われたくない・・・って話逸らすな、どうするんだよ、これからさ。」
「とりあえずアイツから事情を聞けるようになる状況と関係を気づくべきだと思うね、うん。」
「また適当な言い方・・・お前に子供の相手が務まるかね・・・。」
「俺じゃなくてもアレはムカつくね。」
「・・・そんな性格悪いのか。」
「居候とは思えんほどにな、女の子じゃなかったら殴ってる程だ。」
「はぁ・・・まぁ・・・頑張れ、少なくともその考えは馬鹿なお前なりには正しい、ゆっくり関係を作ってくれ、うん。」
「・・・何かアドバイスとか無いのかよ!?」
「ねーよ!拾った自分の運命を呪え!」
「・・・教えてくだせぇよ神崎さん。」
「今更年上扱いすんな!もう仕事戻るぞ!」

いつにも増して厳しいツッコミの連打を浴びせ、いそいそと売り場へと戻っていく神崎。
相変らずカルシウムが足りない、そんなアイツに相談した俺が間違いだったか。
いや、実際はそのどちらでも無い気がするのだが、今はそんな事はどうでもいい。

―そう、問題なのはこれからなのだ。

神崎の言うとおり、俺の家計は常に火車だ。
現在も絶賛(?)燃焼中である。
加えてお小遣い制度まで実装してしまったのだから、火に油。

アイツ自身の問題を解決させるには、それなりの時間が必要、だとして。
・・・その間、資金面で何かしら対策を取らないと、俺の貯金と言う名の神木が完全燃焼してしまわれる可能性は大、これでは危険だ。
どうする・・・どうする・・・!?

神崎の去った後、風が強くなってきた搬入口で、深刻に頭を悩ませていた俺。
―しかし、この時だった。
・・・俺の頭に電流が走ったのは。
まるで神様が俺に手を差し伸べたかのように(おおげさ)俺は瞬時に名案を閃いたのだ。
これだ、これしか無い。
姫子に暇を弄ばせつつ、尚且つ、収入にならないとしても資金制度が即刻廃止に出来る方法が、一つあったのだ。
まさに一石二鳥、いや、ひょっとすれば三鳥かもしれない。
そうと決まれば一目散、俺は時間の流れを早くするべく、売り場へと戻り、仕事に取り掛かった。
足取り軽く、気分も爽快になった俺に出来ない仕事など無かった。

・・・レジを除いては。
相変わらず接客は苦手な俺であった。

――そんなこんなで時間の流れは早くも過ぎ行き、時刻は22時。
すっかり暗くなった夜、空の月は満月、魔的な美しさを放つ中、俺はアパートへと帰ってきた。
良い子なら既に寝てる時間だが、アイツは全くそんなのとは対象外、恐らく起きているだろう。

何せ昨日寝たのは深夜前、正直眠気も大爆発。
散々枕投げに付き合わされた上に、大きないびきをかきながら寝てくださった為、悲惨な事この上無かった。
しかも、今日は昨日と違い仕事帰りだ、帰ってきた途端『暇や』などと言われてもこっちは疲労困憊、遊び相手なんかやってられない。
風呂にでも入って、桜さんでは無いが、ビールでも一杯飲んでぐっすりと眠りたいのだ。
・・・ビールなんて無いけどな。

・・・重い足で自宅前へと到着した俺は、ヤツが眠っている事を小さく祈りつつ、静かに扉を開けた。
夜帰りのパパじゃあるまいし、どうしてこうも部屋の主が気を使わなければならないのか。
いや、此処は大人になれ康太。

此処で我慢して、全てを静かにこなせば、安息な夜が待っている。
やれば出来る、康太は出来る子。

「・・・―たーだいま・・・。」
聞こえないほどミクロな声で言いながら、ゆっくりと玄関を上がる俺。
辺りは俺の祈りが通じたのか、暗く静かだ。
・・・もしや、酒を飲んでからずっと寝てるとか?

―・・・あり得る?
あの桜さんと飲んだ上に、少量とは言えイッキもした、子供の体に酔いが回るには十分過ぎる。
二日酔いにでもなって休んでくれたのなら尚良し。
病気でもないし、酒は飲んだら飲まれるといういい経験だ。
これは実の所桜さんに感謝すべきか・・・?

俺は勝手な想像を膨らまし、今日の安息を喜んだ。
・・・しかし。
そんな喜びは、本当に束の間で。
やはり姫子は、俺の予想斜め上を行っていた。

「―・・・うぅ・・・ぁあ・・・!」
部屋の扉を閉じた辺りで、俺の耳に小さく、少女の声が入り込んだのだ。
それも、どこか怯えているような、苦しんでいる様な声。
「・・・姫子?」
俺は野生動物の如く、嫌な予感をすぐさま察知し、視線を正面へと向ける。
するとそこには―。

「―ぁあ・・・うううぅ・・・!。」
布団を乱雑に蹴飛ばし、身体を右往左往させる姫子の姿があった。
ただの酒の影響だとしても、こうはならない。
むしろコイツは酔い潰れた後だ、暴れるよりも大人しくなる筈だが・・・明らかにこれはおかしい。

「姫子!」
寒気を感じた俺は靴を脱ぎ捨て、狭い部屋だと言うのに、全力疾走で姫子の元へと駆け寄った。
異常事態、そう言わずして何と言おうかこの状況。

「ああぁ!・・・うぁぁ・・うぅ・・・。」
「姫子・・・おい姫子!、どうしたんだよ!」

俺は姫子の体を揺すり、応答を呼びかけた。
だが、帰ってくるのは、小さな苦痛の声と、大きな震えのみ。
明らかに冗談では無い、本気での訴え。
―何よりも。
『あの』姫子が泣きながら、苦しそうにしているのだから、それを疑う余地は無く。
生意気だとはいえ、子供に泣かれては、大人の俺が疑うだのなんだの言ってる場合じゃない。

俺はまず姫子の額と自分の額に手を平を置き、比べる。
・・・明らかに姫子の熱は高い。
酒の所為か?
それにしても高すぎる。

・・・いや、冷静になれ、今は原因を考えるよりも、対処を考えるべきか。
だが、貧乏なうちに風邪薬や熱冷ましがあるわけも無い。
いや、そもそも風邪かどうかも解らない分、迂闊に手は出せない。
だとすれば―。

「―ごめん・・・なさい・・・っ。」
「・・・は?」

―姫子のそんなあまりの突然な言葉に、目を丸くした俺。
姫子は、寝言なのか、俺への謝罪なのか、そんな事を何度も言った後、頬に涙を流しながら、また呻き出す。
明らかに、あの生意気な姫子ではない。
全く、何がどうなってるのか・・・。

「何がごめんだ・・・謝るくらいなら最初から酒なんか飲むなっての・・・!」

俺は大急ぎで姫子の小さな体を抱え、また外へと飛び出していった。
・・・姫だけに、お姫様抱っこで。

第一話 続く。

季節外れのベロペロネ

「・・・はい、外は寒かったでしょ。」
「あ、ありがとうござます。」

―・・・時刻は22時30分。
良い子はもう寝る時間。

俺は無礼を覚悟し、姫子を担いだまま管理人室へと訪れ、柚子さんに診てもらっていた。
長い事娘さんの看病と見舞いをしていた経験上、彼女が一番に思い当たった人物だったからである。
パジャマ姿の柚子さんだったが、眠る前だったのが幸い、少し眠そうな顔をしながらも、俺のそんな突然の頼みを快く受けてくれた、本当にありがたい。

―さすがと言うべきか、俺がここを訪れた、その数分後には、苦しそうだった姫子の声も無くなり、夜はまた静寂を取り戻していた。
姫子を寝かしつけた後、柚子さんは満足気な顔で寝室から戻り、暖かいお茶を淹れて、俺に出した後、自身も座布団の上に正座をし、一服し始めた。

「うん、やっぱり寒い日に飲むお茶は美味しいですねぇ。」
「・・・すいません、何から何まで、しかも突然に。」
「ううん、いいんですよ、困った時はお互い様、私が困った時、コータさんが助けてくれるって信じてますから!」
「うわぁ・・・プレッシャーかかるな・・・・―それで、姫子の様子は・・・?」
「うん、大した熱ではありませんでしたね・・・ただ、やけに酒臭いのは・・・。」
「・・・言うまでも無く桜さんです、まぁこの場合俺の監督不届きですけど・・・ほんとスミマセン、夜分遅くだってのに。」
「もう、コータさんったら、怒ってませんから大丈夫ですよ、なんとなくそんな気もしましたし・・・ね?」
「・・・あははは。」

さすが柚子さんも桜さんの暴走には頭も痛くなるものだろう、溜息混じりに『あの酒癖が無かったら引く手数多なのにねぇ』などと呟く。
本当にご尤もです。
しかしながら、原因はおれの監督不届きに違いは無く、驚くほどの体調不良でも無い様だし、これ以上厄介になるわけには行かない。

「それじゃ、姫子も大丈夫みたいだし、俺、連れて帰りますね。」
「・・・ううん、今は彼女も落ち着いてますけど、何かあった時の為にも、今夜は私が預かりますよ。」
「え・・・そんな、悪いっスよ・・・。」
「いいのいいの、この様子なら寝てれば治りますし・・・それに、コータさん、バイト帰りでしょ?早く休んでくださいな。」
「いやまぁ、そうですけど・・・コイツがまた暴れたら面倒でしょうに。」

何となく予想してた返答、本当に世話好きな人である。
とは言え、今回の件は桜さんが原因とは言え、俺の監督不届きもある。
早々易々と『はい、お願いします』とは言えない。
勝てないと解りつつも、俺はNOの意思を示す。

「めっ、大人の言う事はちゃんと聞きなさい。」
「・・・はい。」
「よろしいっ。」

はい折れた。
早いとか意志が弱いとか言うな。
この柚子さんの満面の笑みを前にして、何を言い返すことが出来ようものか。
何より、俺自身もそこそこに疲れている、既に折れ掛けの意思だ、そんな状態でこのアパートにおいて逆らえる者など誰一人と居ない柚子さんを相手にどう勝てと。

・・・結局、俺は申し訳無く思いつつも、首を縦にし、この場を柚子さんに任せることにしたのだった。
他力本願では、無いよなぁ。
むしろ、被害者は俺の様な気もするんだが。
人の家で勝手に酒を飲む隣人と、酒に飲まれる未成年の同居人、挙句の果てに待っていたのは、管理人様のお世話にならなければならないオチ。
そして、家は未だに家事一つ済んで無い状態、悲惨もここまで来れば笑えて来ると言うものである。

「それじゃ・・・姫子のこと、お願いします。」
「おまかせあれっ・・・―でも、どうしてうなされてたのかしらね、そこだけがちょっと気になるわ。」
「・・・アイツ、なんだか親と喧嘩でもしたみたいで、それで俺を訪ねてきたんですよ。」
「あら・・・どうしてコータさんなんでしょう?」
「偶然だって本人は言ってますね・・・まぁそんなわけで、俺もいまいちアイツの事は良く解ってないんです・・・ただ、何となくその事で嫌な夢でも見たんじゃないかって、推測してます。」
「ふむふむ・・・嫌な夢は当たってるかも。」

まぁ原因を突き詰めると、どれもこれも姫子がうちにやってきた所為なのだが。
触らぬ神になんとやらとは良く言うが、現状の俺はまさに触れてしまった結果と言う奴か。
見送りに玄関まで来てくれた柚子さんの目の前でありながらも、俺は無意識に溜息を付いてしまっていた。
が、しかし、そんな溜息を見た柚子さんから出た言葉は。

「・・・ふふっ、コータさんは本当に優しいんだから。」
「・・・へ?」

何とも過大評価な一言。
溜息からどうしてそんな言葉が出るのやら、俺は思わず声を上げていた。

「いや、見ず知らずの女の子を拾ってあげて、尚且つこんなにも心配してるんだもの、姫ちゃんは幸せだなぁって、ね?」
「いやいや・・・俺としてはさっさと親に来て欲しいですよ・・・わがままでしょうがない・・・と言うか、子供が目の前で苦しそうにしてて、何もしない訳にもいかないでしょう・・・。」
「ふふっ、仕方なくてもキチンと世話してあげてる所がコータさんのいいところっ。」
「・・・柚子さんに言われると、どうにも責任放棄出来なさそうですね・・・。」
「うんうんっ、そのまま頑張ってくださいね~。」
「善処してみます・・・それじゃ、おやすみなさい。」
「はいっ、おやすみなさい~。」

と、一方的にエールを送った柚子さんは、またも無敵の笑顔を繰り出し、手を振りながらドアを閉めた。
残されたのは、疲労感と重い体。
そのまま頑張って、この身体に更に鞭を打てと言うのだろうか、あの人は。

空を見上げれば、満月が輝くいい夜空。
だと言うのに、俺のテンションは上がるどころか、むしろ下がっていた。
同居二日目でいきなり体調を崩すとか、実は体が弱い病弱っ娘とか、既に難病を患ってるとか、そんな設定じゃあるまいか。

そう考えると、今後が恐い。
しかもそこから看病しなきゃいけなくなるとか、そんな展開までも待っている訳で。
もしくは、俺が思う以上に家出の事情は激しく、家に帰るどころの話では無くなったり。
・・・一部は喜びそうだが、俺はそんな事にはならないであろう、むしろ泣きたい。

疲れてる所為か、今は何を考えてもマイナスの方向にしか行かないな。
ああ、なんて憂鬱な夜。
管理人室を出てからの自宅へと戻る道は、目と鼻の先だというのに、やけに遠く感じた。

第一話「ゲーマー姉妹。」

「・・・―起きやコータ、朝やで!」
「・・・・・・なんでお前は起こす際俺の上に跨る・・・?」
「男はこういうシチュエーションのほうが燃えるって、桜のねーちゃんが言ってた。」
「・・・頼むから酔ってる時のあの人の言葉を真に受けないでくれ給えよ・・・つか俺はロリコン趣味じゃねぇってば。」

波乱だらけの一夜が開け、早朝。
五月蝿い声に目を開けると、そこにはその元凶の姿。
昨日一昨日同様、口の悪い生意気な姫子だ。

「じゃぁ、桜のねーちゃんならいいのか?」
「だからどうしてそういう方向に話を・・・って違ぇ、お前熱は?」
「熱?別に風邪なんか引いて無かったで?・・・気づいたら柚子さんの家にはおったけどな!」
「・・・俺が運んでやったんだよ、お前が急にうなされやがったからな。」
「・・・うなされて・・・?」
「・・・お前、柚子さんから何も聞いて無いのか?大変だったんだぞ、熱もあったらしいし。」
「・・・コータの勘違いちゃう?」
「勘違いで運ぶもんか、柚子さんの口から聞いた事だし、間違いない、未成年の癖に酒なんか飲むからだ馬鹿。」
「・・・んなもん知るかい!もう・・・いいからはよ起きや、腹減ったわ~!」
「痛っ!!?」

時刻は6時15分。
昨日のゴタゴタと姫子が片付け損ねた皿洗いや洗濯の処理などで、寝たのは結局24時、眠気と疲れが取れるには少し足りない。
そんな俺の心境など知る由も無い姫子は、すでに完全回復しているようで、強引に俺の身体をひっくり返し、ベットから落として来た。

・・・せめて俺が自分で起きるまでは帰ってきて欲しく無かった。
いや、いっそ今日一日ずっと寝てくれてれば良かったものを・・・。

とはいえ、姫子の言う通り、朝の日課である掃除をサボる訳にも行かない。
俺は重い身体を起こし、渋々台所へと立った。

買い物したのは3日前、冷蔵庫の中身は卵二個と昨日の残りの白飯、人参タマネギ、いざって時の魚肉ソーセージ。
・・・今日は買い物もしなければならないか。

「・・・なぁコータ。」
「・・・何だよ、改まって。」
「いや、向こうで寝てたのはいいとして、寝言で何か言って無かったか、って。」
「・・・は?」
「・・・いや、何でも無い。」
「・・・?」
「いいから気にせんといて!・・・ほら、早くしぃや!とっとと飯食って掃除行かんと!」

どうやら、自分がうなされていた自覚があるのか否か、意味深な言葉を言いながら、急かす様に俺の背中を左右に動かす姫子。
まぁ、あれだけうなされていれば、悪い夢の一つや二つは本当に見ていたのかもしれない。

「解った・・・解ったから揺らすなっての!脳が揺れる!」
「善は急げや!迷惑かけた礼は返さんと!」
「自覚があるなら今後は酒なんて飲むなよー・・・。」
「うっさい!わかっとるわ!!って言うかアレは半場強制っつーもんや!!」
「・・・でも飲みたそうな顔をしたお前も悪い・・・覚えとけ、酔ってる桜さんに対して、基本的に冗談は通じないからな。」
「う・・・コータに何もかもお見通しにされると傷つくわ・・・。」
「お前と桜さんのおかげで俺は身も心も傷だらけだっつの・・・。」
「・・・ホント器の小さいやっちゃなぁ、これからもそんなんだと桜のねーちゃんに見損なわれるで?好きなんやろ?」
「・・・OKOK、朝飯は抜きで良いという事か。」
「・・・ゴメンナサイ。」
「よろしい、ところで聞くが、オムライスとチャーハン、どっちが食いたい?」
「・・・おむらいす。」
「ほいよ。」

何故この二択かといえば、材料的に似ているからである。
まぁ本来オムライスは鶏肉だが、そんな贅沢は朝から出きるワケもなく、魚肉ソーセージである。
意外と栄養価も高く、腹持ちも良いし、油も少ない、優秀な食材なんだぞ。
ソーセージ、人参、タマネギを細かく刻み、を細かく刻み、御飯と共に炒め、貴重なトマトケチャップで味付けをすれば、チキンライス風の完成。

トマトと魚介類自体相性が良いので、俺は昔からよく使っている。
手早く出来るし、おかずもいらない、一品料理はいいものだ。

「・・・意外と手際いいやんか・・・昨日のパスタといい・・・。」

ひょっこりと俺の横に出現し、フライパンで舞う米を見ながら、そんな事を呟く姫子。
こちとら一人暮らしはもう慣れた、そもそも料理は苦手でも無いのだ(得意でも無いが)。
ちなみにガスは姫子が来た初日、二人暮しでガスが無いのも辛いだろう、と柚子さんが安くしてくれた為、感謝の念を込めつつ支払い、付けた。

「お前なんて料理一つしたこと無いだろ、家事手伝いの言葉すら知らない訳だし。」
「う・・・しゃぁないやん!全部皆がやってしまうんやから!」
「はいはい、お嬢様ですねぇ。」
「・・・見てろ・・・そのうち家事手伝いも料理も出来るようになって見返したる・・・!」
「いや、せめて自分の小遣いでやってくれよ、我が家の食材を生贄にすんな。」
「うー・・・。」
「・・・ああ、そうそう、昨日のゴタゴタで忘れかけたが今思い出した、・・・お前さ、小遣い欲しいって言ってたろ。」
「うむ、ここに居る間暇やもん、コータの家パソコンしか無いし、うちパソコン使えんし。」
「そう、そんなお前にいいお手伝い先を紹介してやろうと思ってな。」
「・・・身体を払うとかそんなんちゃうやろな!?」
「・・・お前はどこでそういう知識を学んでくるんだか・・・単なる内職手伝いだ。」
「内職・・・手伝い?」
「そう、詳しくは、まぁ行けば解る。」
「そこで頑張れば金もらえるん!?」
「お前の働き次第だな。」
「おー・・・頑張る!ウチ頑張る!」
「意気込みはいいが、まずはメシ、そして掃除だ、後は家事もやること、昨日みたいにサボってたらいつまでも覚えられんぞ。」
「おう!」

―昨日のアレがまるで嘘のように元気に、姫子は俺が作ったオムライスを米粒一つ残さず平らげた後、猛ダッシュで着替え始める

本当に、アレはただの悪夢でうなされていただけなのか。
それとも、持病か何かで苦しんでいて、それを隠して元気なフリをしている、とか。
アイツも未だに色々隠したままだし、長いように感じられるが、実際まだ着て二日だ。
いや、実際にはここに来る前から転々としていた訳だから、ソレを考えれば、不慣れな生活環境でストレスが溜まっていた、なんてことも或るのかも知れない。
まだ社会を知らないあの年齢で、住居探して転々としている事を考えれば、ある種道理、一番有力か。
加えて、どこか人見知りする傾向も見える姫子には、尚更。

まぁ、結局はどれも聞かないと解らない事なのだが。

・・・アイツは一体、慣れない外の世界に飛び出してまで、何から逃げているのだろうか。
いや、逃げている表現すら正しいか解らないのが現状であり、それを確かめる事が現状解決の道だろう。
そうなると、やはり当初の予定通り、しばらくはコイツと普通に共同生活していく他無く。
・・・全くもって、先が見えないと言う事だ。

――その後、食事を済ませた俺達は、日課となる掃除をする為、柚子さんの家へと向かい、挨拶を済ませた後、掃除用具を手に始めた。

灰色、裏地花柄で厚手のパーカー、デニムスカート、ニーソックス、名前とは反対に控えめなファッションの姫子は、ご機嫌な様子で箒を振り回している。
一体何がご機嫌かは知らないが、昨日の苦労を考えると、どこか腹ただしい。
まぁ、不可抗力、同じ被害者を今更怒る気にはならないが。

「・・・ほんと、こー見ると子供だなぁお前は。」
「なんやて!?桜のねーちゃんと比べるなや!」
「・・・誰がスタイルの話をした、内面だ内面。」
「なんだ・・・んなもん、今年で12や、当たり前やろ~。」
「へぇ、子供って自覚はあんのな、てっきり背伸びでもしたい年頃かと思ったが。」
「・・・じゃぁ逆に聞くけど、コータは大人の自覚ってのあんねんか?」
「んー、あると言えばあるし、無いといえば無いんじゃねぇ?」
「なんやねんそれ、ちゅーとはんぱなやっちゃな。」
「俺みたいな歳になると自分が大人か子供かわかんなくなるの。」
「・・・優柔不断なだけとちゃう?」
「そうなりたくなる時期もあるってこった、覚えとけ。」
「ふーん・・・何か良く解らんわ。」
「そもそも、大人と子供は年齢で分類できねぇよ、やけに大人びたガキが居れば、夢ばっかもつ大人も居る、その中間的な存在も居るってだけの話だ。」
「・・・なんか、コータがマジメな話するとキモいわ・・・。」
「俺はそんなにお茶らけたイメージか?馬鹿キャラか?貧乏キャラか?」
「あははー。」
「・・・歯ぁ食いしばれ・・・修正してやる!!」

―・・・と、こんな感じで和みつつ、遊んでやりつつも、互いのコミュニケーションを高めながら30分ほど、アパートを掃除して回った。
むしろ遊ばれてる?
・・・気にしない。
まぁ、お金の話のおかげか、機嫌も良いので喧嘩にならないのが幸いだろう。
・・・明日には元通りだろうが。

―そんな掃除も一通り終り、柚子さんへの報告を終えた俺達は、そのままとある場所へと向かった。

とは言え、とある場所、と言う程、驚かす様な所ではない。
姫子が今後、暇潰し&金稼ぎ、として御用立ちになるであろう、その部屋へと向かうだけ。
つまり、またもアパートの中である。
よくよく考えると、本当にこのアパートは個性的な住居人が多いと思う。
これから会う奴も、そんな一人、いや、二人だ。

「・・・ホントにここに稼げる場があんねんな・・・?」
「まぁ、交渉次第だが、多分うまくいくだろ。」
「・・・交渉?」

ドアの前で、緊張する姫子はまた面白い顔で、俺は思わず笑いそうになる。
さっきまでアレだけはしゃいでたと言うのに、この代わり様は如何程か。
コレが噂のギャップ萌えか?
あー面白い面白い。

「さっさとチャイム鳴らし!」

そんな俺の内心の笑いに気づいたのか、キッと睨んでくる姫子。
俺は笑いを堪えつつ、ドアノブに手をかけ、扉を開く。

「あ、おい!、チャイムならさんでええん!?」
「あいつら、チャイム鳴らしても出ねぇからな・・・―おーい、居るだろー。」

驚きの声を上げる姫子の質問に答えつつ、俺は二人を呼ぶ。
・・・が。
―・・・しーん。

反応も無く、人が居る気がしない。
姫子は首を右往左往し、『いるんか?いないんか?』と小声で言いながら、俺の裾を引っ張っていた。

「いるん!?いないん!?」
「落ち着けっての、・・・耳を傾けてみろ。」
「耳・・・み・・・み・・・み?。」

部屋の奥のほうに向かって耳を傾ける姫子。
そうしなくても、静かな朝の部屋の中だ、問題無く聞こえるが。

―カチ、カチカチ。
それは、何かを打つ音。

パソコンのキーボード音にも似ているが、ソレよりも小さい、何かの機械のボタンを、連続で押しているような音だ。
とはいえ、俺はその正体を知っている訳だが。
ソレを知らない姫子は、なんや!?と荒ぶる鷹のポーズ。

詳しく解説するには俺の表現力が足らないが、とにかく警戒してるポーズである。
内容はご想像にお任せする。

「んな格好しなくても何も無いって。―おーい、居るんだろー!?」
「だだだって、何か不気味やん!無音の中にカタカタカタって!」
「安心しろ、ただのコントローラーのボタンを押してる音だって。」
「ぼ、ぼたん?」

過剰に驚く姫子は尚面白い、俺はニヤニヤと笑いながら、再び奥に居る二人を大声で呼ぶ。
すると、ようやく反応があった。

「―はいはい、どちらっさま~・・・って、康太じゃんか!!」

出てくるなり、ビックリとした顔で迎えたのは、一人の女。
男にも見える短すぎる黒のショートヘアーに、銀ピアス。
少し凛々しい顔をしているから、尚更男っぽく見えるが、一応女性である。
だが、ボサボサになった髪に水色のパジャマ姿は、お客様の前に出す様な格好ではない。
そんなだらしない格好で現れたコイツの名は『瑞希瑠花(みずき るか)』
花とは付いているものの、この姿では明らかに名前負けである。

「おっす、遊びに来たぞ、後ついでに頼み事も含めて。」
「新作は貸さないぜ!?」
「今は忙しくてそれどころじゃねーの、貧乏暇無し、今日はちょっと用があってさ。」
「用って、その子の紹介?」
「・・・。」
「おーおー・・・相変らずだんまりだ、でも可愛いねぇ・・・じゅるり。」

姫子を見るなり舌を鳴らす瑠花。
そういえばその系統のゲームも持っていたっけか。

「はいはい、今日はそんな姫子についての用があるんだよ、梨花も居るか?」
「居るぜー、今ちょーどラスボスでさー!燃えちゃってる所、見てく?」
「お、見てく見てく。」

と、男友達の部屋同然に軽々と上がっていく俺。
だが、姫子の足は何故か動かなかった。

「・・・どうした姫子?」
「な、なぁコータ、さっきから話が全然解らんのだけど・・・ラスボスって・・・うちの働き先の話は?」
「ああ・・・まぁとりあえず入ろうぜ、説明はその後っと。」
「・・・あ、ああ。」

もはや全くワケの解らない、と言わんばかりにクエッションを連続させる姫子の手を引き、俺は部屋の奥へと移動する。
言わずとも、見れば解るのだ。
まぁ、働き云々とは別の話だが。

「―・・・な、・・・なんやこれ・・・!?」
「おー、俺が始めて見た時と同じリアクションだな。」
「まぁー、誰でも驚くよなー。」

納得する二人に対して、目を丸くするほか無い姫子。
ソレもそのはず、ゴチャゴチャとした部屋を入ってすぐに目に入るのが、巨大なテレビなのだから。
映るのは、これまた巨大なゲーム画面、そして、更に大きく見える、怪物のようなもの。
そんなテレビの前では、一人の女性が拳銃の形をしたコントローラーを手に持ち、何度もボタンを押していた。
まぁ要するに、ゲーム中である。

「―そこ!」
黒いロングヘアーをなびかせながら、女は恐ろしい速さでボタンを連打する。
だが、早いだけではない、その命中精度もハンパ無く、打った弾は全て敵の弱点に命中するのだから、恐ろしい。
そして、数秒もせず、本当のガンマンに見えるほどの見事な銃(コントローラー)使いで、画面内の巨大な敵を倒していた。

「いやったぁ!全クリ!!」
「・・・。」
「・・・もはや声も出ないか・・・。」

余りの急な展開に頭が付いていかないのだろう、姫子はただ呆然とその状況を眺めている。
あんぐりを口を開けているのがまた面白い。

「―相変らずのゲーマーっぷりだな、梨花。」
「あ、少女監禁罪の康太君だ。」
「ちゃうわ!・・・大体あれは桜さんがだな・・・。」
「冗談だってば~、んなもんあの場に居た皆解ってるって。」

耳のヘッドホンを外し、ようやく対話可能状態。
女は額の汗をふき取りながら、冗談を交えて笑った。
早朝からゲームに勤しむこの暇人の名は『瑞希梨花(みずき りか)』。
何となくご想像は付くだろうが、瑠花の姉である。
とはいえ、双子なので年齢の差は無い。
性格と見た目的にはこっちの方が大人ではあるが、格好は二人ともだらしないので、顔・髪型以外に大差は無い。

さっきのガンコントローラーを華麗に捌いていた人間とは思えないほどである(服に目を向けたらいけない)。
そんな説明も加え、もう言わなくても解るかも知れないが、一応言っておくと、彼女は、いや、彼女達姉妹は、ガンゲームだけではなく、ありとあらゆるゲームをやり尽くす、言わばゲーマー姉妹なのである。
俺も遊びたい時には何かとお世話になる、アパートの住民にとって、ここは小さなゲームセンターの様な場所だ。

「それで、わざわざ早朝から尋ねて来るなんて、何か用があるんじゃないの?」
「そういうこった、ほら、姫子、ご挨拶。」
「う・・・!」

急に話を振られたのがいけなかったのか、姫子はビクリと肩を揺らし、二人を交互に見始めた。
口だけは達者な筈なのだが、やはり人見知りの気があるのだろうか、朝とは全くの別人である。

「こー間近で見ると普通に美少女だなぁ、コータが襲わないか心配だ。」
「ねーよ。」
「え、えーと・・・そのー・・・。」
「ホント、漫画のヒロインみたいに可愛いよねぇ。―と、改めて紹介しようかしら、私は梨花、こっちが瑠花ね・・・よろしく、姫ちゃん。」
「え、えっと、よろしゅうに・・・。」

ぎこちないながらも、挨拶とお辞儀をする姫子、そんな姿に梨花も瑠花も可愛いと一言漏らす。
ああ、俺の前でもこんなあどけなさならまだ救いがあったものを・・・。

「それで、用件って言うのは?」
「この子に内職の仕事を少し分けてやってくれないかとな。」
「・・・マジか?」
「至ってマジだ。」
「・・・まさかアンタ、いくら自分の家が貧乏だからって居候にまで働かせるつもり!?」

何となく予想は出来ただけに、腹の立つ反応を見せるゲーマー姉妹。
しかしながら、ここは姫子(家計)の為、抑えねばならない場面、俺は二人に待ったを掛けながら、続ける。

「話は最後まで聞け・・・こいつの小遣い稼ぎの為だよ、知っての通り我が家は貧乏、俺のバイト代だけじゃコイツに多く小遣いはやれんし、こいつ自体暇を持て余してるんだ、いい暇潰しの相手にもなってやれると思ってな。」
「・・・あの康太がそこまで考えてウチに来るなんて・・・信じられない・・・。」
「だよなぁ、普段はパソゲー貸してくれだのゲームやらしてくれだの集って来るだけだってのに。」
「最近はそんな暇もねぇよ・・・マジで火車だからな、家計が。」
「またなの・・・?」
「おたくらみたいに家賃ハーフ&ハーフにはならないの、純正100%なの・・・親の仕送りだって額が違うだろうが。」
「まぁねぇ~。」
「―・・・な、なぁコータ、まだ話が全然飲み込めないんやけど・・・うちはなんの手伝いをすればいいんか・・・?」
「ん、ああ・・・。」

勝手に話を進める3人に、姫子の疑問は最高潮、もはや頭も目もクエッションだらけ。
内職と言う言葉も知らないであろう上に、突然ゲーマーの家に連れてこられては理解できる訳も無いな。
このままでも面白いが、さすがにかわいそうなので、本題に入ってあげることにしよう。

「瑠花、内職の仕事ってまだ残ってるか?」
「あるぜあるぜ~、お姉ちゃんのプレイ見てて全然やってないしな!」
「・・・それは威張る事じゃないな・・・。」

俺の言葉に、瑠花はがってんだー、と答え、ゴチャゴチャとした部屋の隅っこにある、小さな袋を持ち出し、コタツの上に置いた。
薄く見える袋の中身は、色のついた何か。
それだけでは恐らくモノが解らないだろう。

「・・・これは?」
「これからお前が教わる仕事だよ、内職って言うヤツだ。」
「ナイショク・・・?」
「そう!これが俺らの資金源だぜ~姫ちゃん。」

そう言って瑠花が見せたのは、完成品。
一体それが何のキャラクターかは特定できないが、恐らくは何らかのマスコットキャラクターだろう。
なにやら透き通ったピンク色の丸い生き物が可愛らしい顔をしたフィギュア。
一体どこに組み立てる要素があるのか?と言う質問はナシで。

「・・・って、いいのかお前ら?まだ肝心のYESかNOかを聞いてないんだが。」
「ああ・・・まぁ全部任せるワケじゃないしな、いいぜ?仕事中の話し相手が増えるなら大歓迎だしな~。」
「・・・やけにアッサリと、一応仕事だろ?それ。」
「一応じゃなくて本職だぜ?・・・でも、貧乏人の頼みとあれば聞かないわけにも行かない、・・・まぁ姫ちゃんが貧困しない程度には手伝わせてやるよ、良いメシ食わしてやりたいしな。」
「はいはい、貧乏人でわるぅござんしたね・・・。」
「・・・うちに出来るかな。」
「出来る出来る、覚えれば難しい事じゃないわ・・・よし、私もようやくゲーム終ったし、早速だけど、三人で一緒に仕事しよっか、覚えながらね?」
「・・・本当にええの?邪魔にならへん?なんか聞く限り大事なんやろ?」
「ならないならない、可愛子ちゃんなら大歓迎だし、これから同じアパートで暮らしてく仲間同士、コミュニケーションも取らないとね。」
「そうそう、こっちとしては遊び仲間が増えるに越した事は無いしな!んじゃ善は急げだ、さっそく作業しよーぜ!」
「おー!―あ、もうコータは帰っていいよ。」
「・・・へーい。」

―・・・こうして、余りに上手く行き過ぎた感はあるが、俺の思惑通りに、姫子は仕事へとありつけた。
仕事の手伝いで小遣いを稼ぎ、仕事が終ればゲームが出来る。
ゲームセンターと職場の二つの役割を果たしてくれる姉妹には大変感謝だ。

・・・もっとも、予想以上に安易に請け負ってくれたのは、俺の人望よりも姫子のビジュアルにあるだろうが。
そこは考えたら負けだと思う。
ただのブ男と美少女だ、見た目の話は言うまでも無い。
むしろ、俺の苦労がハーフになることを考えれば、そんな事気にならない。

―・・・と、そんなこんなで、俺は必死で教わる姫子に、夕飯までには帰るようにと言いつけ、一人先に自室へと戻る事にした。
折角なので、ゲームをやりたい所だったが、あんな集中してる女子三人の中で、俺だけゲームをやるのも空気的にどうだろうか。
そう思うと、ゲームなどやる気にはなれず、部屋を後にしたワケである。
なにより、今日は休日、小説を書きたい、うんと書きたい。

また静かな我が家で書けると思うと、何て嬉しい事なのだろう。
自然と俺の脚も軽やかだった。

―だが、思えば、このタイミングで家へ戻ろうとしたのがいけなかったのだろう。
俺はその途中、またもあの人に時間を食われる事となるのだった。

誰かって?。
・・・言いたくない。

次回をお楽しみに!
・・・はぁ。

第一話 続く。
プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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