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季節外れのベロペロネ

「・・・おーい、起きろー。」
「・・・・・・うぅ・・・後5分・・・。」
「さっさと起きんかいっ!!」
「ごふぁ!?!?」

今日もまた、目覚めの挨拶、鉄拳だ。
一句作った所で、今日は始まった。
・・・いや、そんな朝はねーから。

「・・・お前さ、どーして毎度俺に跨って、その上鉄拳で起こす訳・・・?」
「なんや、優しく『あなた、朝よん』とでも言って欲しいんか?」
「お前ソレ・・・自分で言ってて恥ずかしくね?」
「・・・はん!大体コータが中々起きんからアカンのや!」
「中々・・・ってお前な・・・まだ6時だろうが・・・。」

姫子の歓迎会が終わってから数十日、毎日は驚くほど平凡に、されど騒がしく進んでいた。
姫子が此処に着てからもう1ヶ月は経つのだろうか。
正直数えていないし、数えたくも無い。

「ええやないか、早起きは3文の得言うし。」
「早く起きて3文拾えても、現代じゃ3文は使えんだろうが・・・。」
「もーちっちゃいやっちゃな・・・。」
「って言うか時間の問題じゃねぇよ、お前が鉄拳で起こすのが問題なんだよ、腹殴られた所為でこちとら毎朝うん○が出るんだぞ。」
「女の子の前でうん言うなや!!」
「いや、お前を女の子だと思ってねぇから。」
「んなぁっ!?」

漫才めいたやり取りも、もはや日常の一部だろうか。
ここまでテンポがいいと、もはや心地よくすらある。
そう思う自分が居るのは何だか複雑な心境だが。
コイツの居る生活にほぼ慣れてしまったのも事実であり、最近コイツによって与えられた恩恵を考えると。

「とりあえずメシにすっぞ・・・御飯でいいな?」
「おうっ!うちも手伝う!」
「・・・折角だけど遠慮します。」
「なうっ!?」

その程度なら、まぁいいかと思ってしまうのだ。

―第二話「いつもの。」

「・・・で?今度は何が出来たんだ・・・?」
「見て解るやろ、鯖の塩焼きや。」
「・・・いや、どの辺が?」
「・・・シルエットで解るやろ!?」
「シルエットでしか解らない鯖の塩焼きって何だよ。」

恩恵その1。
料理の材料が増える。
どうやら料理をする楽しみを覚えたらしい姫子は、こうして積極的に食材を買ってきては、自身で調理する。
余った分は俺が使ってもいい様なので、実質材料費がお得になっているのである。
おかずが一つ増えると言うのもありがたい。
・・・が、現在の所成功率5%未満。
5%である一度の成功もただの刺身用の切り身を切ったサーモンの刺身である。

今回もどうやら失敗のようで、目の前には真っ黒になった鯖の塩焼き(でいいらしい)。
・・・でもあえて恩恵だとフォローしておこう。

「・・・皮を剥げば食えなくも無いしな・・・。」
「せや、焦げ目は体に悪いからな、ちゃんと剥げな。」
「焦げ目を作らない努力もしてくれ。」
「う・・・うっさいわボケ!前回より少しはマシになったやろが!?」
「・・・どの辺が?」
「端っこ、まだ焦げ目が薄い!」
「・・・確かに、前回より1ミリはマシだな。」

よく見れば、真っ黒な鯖の端っこだけは、微弱ながら魚の色をしていた。
・・・成功率が上がるにはどのくらいの時間が必要だろうか。
とはいえまぁ、中までコゲて居ないだけ、数日で随分進歩したと言う事だが。
任せたのが鯖だけで本当に良かった、皮の無い鯖を口に運びながらそんな事を思う俺。
皮は無くても、やはり鯖は美味かった。

――午前7時20分。

「オイコータ、もっと気合入れて掃除出来へんのか?」
「・・・へーい。」
「返事は『オス!』やろ!?」
「いつからお前の中で掃除は青春のスポーツみたいなモノになったんだ・・・?」

食事を終え、これまたいつもの掃除。
相変わらず得意気な顔でテキパキとこなしていく姫子。
おかげで俺はとても楽である。

「コラァ!ホコリ一つ逃がすな!」
「痛いっ!?」

だが、熱が入りすぎている所為か、こうなるのがたまにキズだ。
コイツにとってこのアパート周りの掃除は、かなり重要な仕事になっているらしく。
手を抜いているように見えると、箒の先っちょでアッパーをかましてくる。
・・・やはり格闘ゲームがお好きらしい。
良い子はマネしないように。

「あらあら、姫ちゃん、掃除道具は暴力に使う道具じゃないですよ?」
「あ・・・柚子さん、だってコータのヤツサボって・・・。」
「サボってねぇ、ゆっくりやりたいだけだ・・・。」
「うっさい!お前のペースが遅すぎてイラつくんやっ!」
「痛い!持つ部分で人の尻を突く・・・ぎゃぁああ!!」
「あらあら・・・。―姫ちゃん、例えコータさんがサボってたとしても、暴力を振るっちゃだーめ、いいですか?」
「・・・はーい。」
「・・・お・・・俺サボってないんですけどー・・・。」
「あら?」
「・・・いや、いいです。」

不意打ちの様に現れ、天然を炸裂させるこの方もまた、俺にとっては日常に等しい、当たり前の存在なのだろうか。
満面の笑みで柚子さんはペコリと頭を下げた。
いつもは様子を見に来る事も無いのだが、それ程俺達が騒がしかったと言う事だろう。
喧嘩しながら掃除してる様なもんだしな。
むしろ、よく住民達は何も言わないものだと思う。

「・・・ところで、どうしたんですか?」
「ああ、はい、実は掃除を終わったらちょっと姫ちゃんをお借りしたくて、もうすぐ終わる頃かなぁと。」
「・・・うちに?」
「あ、もちろんコータさんにも許可を頂かないとね。」
「いや、どーぞ幾らでも連れてって下さい。」
「まぁまぁそう言わずに~。」
「はぁ・・・まぁ話を聞くだけなら。」
「はいっ。」

どうしてまぁ、この人はこんなに笑顔が眩しいのか。
俺や姫子が満面の笑みをしても、絶対にこうはならないであろう。
・・・というか、完全にもう保護者扱いですか。

「―姫ちゃん、もし良かったら、空いた時間でお勉強する気は無いかしら?」
「べ・・・勉強・・・ですか?」
「そう・・・だって姫ちゃん、学校に行ってないでしょ?」
「そりゃまぁ・・・そうやけど・・・学校に行くと館の連中にバレてまうから・・・行ける状態やないし。」
「うん、だからね、勉強が遅れないようにって思うの。」
「・・・で、でも柚子さんが大変じゃ・・・。」
「・・・成る程、柚子さんなら適任だな。」
「でしょうっ!?さすがコータさんっ。」
「ふ、二人で納得して・・・ウチにも説明してや!」
「姫子は知らないんだっけか、柚子さんな、週に2回、近所の子供達に勉強会を開いてやってるんだよ。」
「・・・そ、そうだったんか・・・。」

予想通りの表情をする姫子。
俺も当初は驚いたものだ。
言っては悪いが、イメージとはまるで違うのだから。
まぁ、教える相手は子供だし、小学生1~3年生から幼稚園児の場合もあるわけだから、そういう意味では絵になるかもしれない。

「これでも昔は教師を目指してたんだから、お勉強についてはだいじょうぶっ!」
「・・・で、でも・・・うち・・・。」
「・・・心の準備が出来たら、家に戻るって決めたんでしょ?」
「柚子さん・・・。」
「その為の準備だってしなくちゃっ、お父さんとの事にだけ集中できるように、ね?」
「・・・解ったわ・・・考えとく。」
「そーこなくっちゃ~っ」

突然の申し出も首を縦にさせられる柚子スマイル。
どんな不良も彼女を前には頭が下がる、かもしれない。

「あ・・・でも柚子さん、うちが勉強するには中学の教科書も必要かも・・・。」
「・・・へ?」
「何言ってるんだよ姫子、お前まだ小学6年・・・。」
「・・・コータ、ウチの事アホかて思ってるやろ・・・?」
「いや、年齢的にも中学レベルはやってねぇだろ。」
「ハン、ウチはコレでも学年ではトッポの成績やったんやぞ!」
「・・・ソレを言うならトップな、優等生?」
「うっさい!今のは噛んだんやっ!!」

普段の会話能力とお嬢様育ちを考えれば、まぁなんとなくありそうな設定だが。
それでも非常識な部分が多い為か、俺はそんな姫子の優等生発言には内心驚いていた。
会話能力はともかく(と言うかソレも俺に対してのみだし)常識や一般知識に関しては年齢のままなのだから。
・・・むしろ年齢以下?
後で聞く話になるが、姫子は柚子さんの提案を複雑な表情で受けたらしい。
少なからず、アイツの中で何かしら決意的なモノが固まってきていると言う事なのだろうが。

――

午前8時。
とても冬とは思えない快晴、真夏のような太陽。
窓からでも解る、それは焼き付ける様で。
姫子はいつもの如く瑞希家へと向かい、家はようやく落ち着きを取り戻す。

・・・いや、今やそうでもないか。
辺りを見渡しながら、溜息を付く俺。
その理由が、姫子による恩恵その2である。

以前半壊したこの我が家、説得を終え、誠さんが去っていった3日後には完全復旧を果たしたのだが。
その際プレゼントされたタンスやテーブル、家具類が、明らかにこの家の空気にそぐわないのである。
落ち着かないとでも言おうか。
とりあえず、想像してみてくれ。
今まで木造の落ち着いたタンスやテーブル達が。
キラキラとした装飾付きの家具になって帰ってくる様・・・。

太陽光も混じって、これがまたとてつもなく眩しいのだ。
更に事細かく説明するのであれば、割れた皿やコップは王室にでもあるかのような綺麗な模様が付いて帰ってきたわけで。
むしろこれを売ればお金になるんじゃないかと。
さすがに良心と後の事を考えてそれは出来ないが・・・間違いなく俺のなけなしの給料よりは高いだろう。

恩恵といえば恩恵なのだが、もう少し安そうなものでも良かっただろう。
まぁ、そんな事は間違っても、決して言えないワケで。
要するに慣れろ、と言う話だろう。

地面に倒れこみ、天井を見上げる俺。
電灯まで最新式になっているのはいいかもしれない。
見た目的にも気にならないし。
シャンデリラなんて着たらどうしようかと思ったが。

・・・さて、今日は仕事(バイト)も休みだし、何をしたものか。
小説を書く・・・気分ではない。
かといってゲームをやろうとも思わない。

―何故だか、今日はダルかった。

いや、この倦怠感も、実際いつもの事なのだが。
今日はそれとは、何かが違ったのだ。
一段と、特別にダルい、とでも言おうか。

・・・まぁ原因は解っているのだが。
さて、どうしたものか。
家事する時間になるまで、このままずっと寝てるのもいいかもしれない。

――ピンポーン。

・・・却下ですかそうですか。
まるで俺が眠るの許さないかのようになる呼び鈴の音。
飛び起きて、俺は扉を開けた。
呼び鈴を鳴らす辺りは、間違いなく桜さんではない。

「はーい。」

そう思って扉を開けたのがいけなかったのか。

「いやっほ~。」
「・・・どうも。」

扉の先には桜さんが居た。

「・・・あれ?なにその顔?」
「いや・・・なんていうか。」
「はっはーん、ひょっとしてチャイム鳴らしたから私じゃないと思ったんだなー?」
「・・・ごもっともで。」
「失礼だな~、私だってチャイムくらい鳴らすよ~、コータの家だから鳴らさないだけ!」
「・・・。」

にゃっはっは、と自慢げに笑いながら、主の許可を無いままに家に上がりこんできた桜さん。
どうやら今日は仕事も休みのようだ。
相変わらずの寒そうな格好で、酒瓶片手に堂々と進入するその姿には、まるで迷いが無い。
もはや自分の家とでも思っているのだろう。

・・・この人ほど悩まない生き方が出来たらどんなにいいことか。
今更追い出す事も出来ない(追い出す気も起きない)俺は、もはや慣れた様にどうぞ、と招き入れていた。

「うひゃー、やけに家具がゴージャスになったねぇ~。」
「・・・そこにはもう触れんでやってください、つーかそのリアクション何度目ですか。」
「あっはっは!まぁいいじゃん、姫ちゃんも元気になったし、家も元に戻って!」
「終わりよければ全てヨシとは言いますけどね・・・良すぎるのも問題だと言う事が良く解りました。」
「そうそう、そんなわけで飲もう!」
「・・・どういうわけで飲みに発展するんですか?」
「うるしゃい!のめ~!」

・・・こちらも相変わらず会話が噛み合わないもので。
桜さんは笑う場面でも無いところでケラケラと笑っていた。
まったく、こっちは悩める青年まっしぐらだというのに。
そんなに笑われては、こっちも笑わなきゃいけない気になるじゃないか。
何とか今日こそはお帰り願おう。

・・・成功率は0%。
まずは向けられたコップを受け取り拒否する俺。

「今日は飲む気分じゃないんでご勘弁を・・・。」
「ありゃ、なになに?元気ない顔してるとは思ったけど悩み事~?」
「・・・そんな所です。」
「テンション上げてかないと解決する悩みも解決しないぜ~?」
「・・・通常時でも桜さんのテンションには付いていけませんけどね・・・。」
「むぅ、なんだいなんだい、そういう悩みは話すが一番!お姉さんに相談してみんしゃいっ!!」
「いや・・・悩みって言う程の悩みでは・・・。」
「いいから飲もうぜ、ちょっとお酒が入ると口も進むというし。」
「い、いやだから飲む気分じゃ・・・。」
「私の酒を飲めないコータなんてコータじゃないもん!」
「ウボァ!?」

はい、見事失敗。
力ずくで酒を飲ませる桜さんに、俺が抵抗できるはずも無く。

「解りました!解りましたから強制的に酒を口に入れるのやめて!軽いトラウマ!」
「ほーれほーれ、たーんのみーんしゃい~♪」
「ウボァヴァヴァヴァ!!?」

奇声と共に、朝から酒を飲むという非常識な行為を共にすることとなった。
・・・コレもまた、ある種日常の一部なのだろうか?
飲まれながら、そんな事を思う俺だった。

――それから、なんだかんだ30分ほど・・・。

「―で?何に悩んでたのさ~?」
「・・・ここまで飲ませてから聞きますか・・・?」
「ごめんごめん~、何か楽しくなっちゃって~。」

他愛の無い話をしながら酒を飲み続けた辺りで、桜さんは思い出した様に切り出してきた。
この時点での俺の飲酒量、ビール缶4本に日本酒半瓶。
朝に飲む量では無い。

・・・相談するなら飲む前にして欲しかったものだが。
この時の俺にはツッコむ気力すら無かった。
酒が入った所為か、余計にブルーになっていたからだ。
とはいえ、ここまで来て(酔い的な意味でも)話さないなんて選択肢、俺には出てこなかったワケで。

「・・・俺もそろそろ変わらなきゃなぁって思うんですよね。」
ついつい口を滑らせてしまったのである。

「?・・・変わるって、何を~?」
「・・・ほら、俺今バイトじゃないっスか。」
「あー、そういえばそだね~。」
「バイトで適当に稼いで、趣味を楽しんで、適当に生きて、今の生活に何の不満が無いのも事実なんですけど・・・その、いつまでもそのままじゃ居られないじゃないッスか、いつかは仕事に就いて、働かなきゃいけない。」
「ふむふむ。」
「姫子を見て思ったんですよね、悔しいんですけど。―自己改革って言いましょうか、そういうのが、そろそろ、俺にも必要なんじゃないかって・・・ね。」

そう、自己改革。
いきなり改革、目に見えた変化が欲しいとまでは言わないが、就職に少しでも触れ、ソレに対して慣れていく必要はあると思うのだ。
同級生だった連中はどんどん就職していくし、自分のやりたい事に向けて歩き始めている。
言わば、俺は出遅れたランナーで。
まぁ、後者で言うなら俺もそれに属するといえばそうなのだが、そいつらとも違い、危機感が無い。
現状で何となく満足してしまっている俺は「最悪なれなくてもいい。」などと考えている。
それをどうにかしたいのが、言わば現状の目標であろう。

・・・ここまで自己分析が出来てるなら、と思う人も居るかも知れないが、人間満足を得てしまうと、そこから踏み出す事に対して、勇気と言うステータスが必要になるのだ。
つまるところ、俺はそんなきっかけを桜さんに求めてしまった訳で。

「・・・・・・。」
「さ、桜さん・・・?」
「こ・・・。」
「・・・こ?」
「・・・コータらしくねぇ~~~~っ!!!!」
「―は?」

・・・そんな人の必死の相談に対し、桜さんはこの返答、そして大爆笑だった。
ああ、やはり言わなければ良かった。
ええ、酔っ払いをあてにした俺が馬鹿でございやした。
後悔の念が一挙に襲い掛かる。
そんな俺の心境など知らずに、ゲラゲラと笑う桜さん。

「じ・・・自己改革って・・・あっははは!!」
「・・・あのー・・・。」
「コータらしくなくて笑いが・・・あっははは!私の腹筋フルブレイクっ・・・!!」

本当に腹筋がよじれるんじゃないかと言わんばかりに、彼女は数秒ずっと笑っていた。
これが他人同士のお隣さんだったのならどんなに迷惑だろうか。
そうでなくてもこっちはそんな反応に泣きそうだと言うのに・・・。

「・・・そこまで笑わなくてもいいんじゃ・・・。」
「あっはっは・・・いやぁごめんごめん・・・だってコータがそんな事言うなんて誰も思わないじゃん~?」
「・・・そりゃ自分でもこんな相談をするとは思ってませんでしたけどね・・・しかも酔っ払いに。」
「あーだめだめ、こういうのは経験者にどんどん相談しなきゃ、就職活動は相談からって位だよ。」
「・・・急にまじめになりますね・・・。」
「だって今日はそれほど飲んでないも~ん。」
「俺の倍は飲んでおいて言いますか・・・。」
「えー?コータの倍程度ならたいした事無いじゃないかっ!」
「まぁ・・・そーっスね・・・。」
「うんうん!」

確かに、この人にとってビール缶は水に等しい。
倍飲んだところで酔いは変わらないだろう。

「とにかくっ!そんなのコータらしくない!」
「・・・つまり俺は一生バイトと・・・?」
「そーじゃない!なんていうか、うーん、就職活動は地道だから、今すぐになれるもんじゃないし、就職したってその働き先が自分に合わない事なんてザラなんだよ、だから~。」
「・・・だから?」
「コータがそれを志したなら、後はコータのペースで焦らずやってけばいいのさ!就活は忍耐だ!」
「・・・忍耐・・・ですか。」
「っていうか、就職するかしないかなんて悩む事じゃない!悩むのは活動してから!」
「・・・う、何か胸に痛いお言葉・・・。」
「あはは~・・・。―なんてね、コータは小説家にもなりたいんだもの、だからそこから悩んでるんだよね。」
「・・・桜さん・・・。」
「だーいじょうぶ、コータが就職できなくてもしなくても、私が養ってあげるし!遠慮なく夢を追え若者~!」
「・・・いや、遠慮しときます。」
「え~!今凄くいいこと言ったのに~・・・」
「・・・ええ、良い事は言ってましたね・・・一歩前くらい・・・。」

結局、その後は相談らしい事もせず、飲んでばかりだった。
まぁ、元々期待はしていなかった事を考えると、ありがたいお言葉が貰えた方ではあろうか。

・・・だが、よくよく考えてみるとだ。

何よりありがたいのは、そんな俺に対しても、気兼ね無く飲みに誘ってくれる、この人の存在なのかもしれない。
・・・酒の量はともかく。

第二話 続く。
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季節外れのベロペロネ

「・・・いい加減帰ってくれませんかねぇ・・・。」
「・・・もっとぉ~もっともってこぃ~・・・。」
「夢の中でも飲んでらっしゃる・・・。」
「こーた~・・・裸踊り~・・・あはは~・・・。」
「・・・・・・夢の中の俺は変態か?」
「そうそう~・・・へんたい~・・・。」
「答えないでください。」

へそ丸出しかつ大の字に眠り、親父臭いいびき声を上げながら、夢の中でまでお祭り騒ぎの桜さんに、色気など皆無。
もしこの親父臭い眠り方に何かこう、熱くなるものを感じるのなら、それは素直に眼科をお勧めするよ。
原型が可愛いだけに、これほど勿体無い人も居ないであろう。

―・・・さて、時刻は10時弱。
ゴミを片付けたはいいが、全く起きない桜さん。
休日のこの人ほどだらけ切った生活を送ってる人が居るものか。
飲んでは寝て飲んでは寝てを繰り返すその様はまるで猫である。

これからどうするかな。
桜さんはまず起きないので家に運ぶとして、その後の話だ。
とりあえず酔いを醒ますために寝るとしようか。
こんなぐわんぐわん状態では外にも出れん。

・・・アレ?前にもこんなパターンありませんでしたっけ?
うん、間違い無くあったよ。
前どころの話じゃないし。

―そもそも、桜さんが来て、飲んで帰ったその後の俺の疲労感は異常なものであり、他の何かが出来るような状態ではないワケで。
そりゃ寝たくもなるさ、人間だもの。
解って欲しいよ。

・・・しかし、やはり寝るのは勿体無いとも毎度思うワケで。
昨日の流れからして、ここは就職活動?
否、それは今現在やると自殺行為と読める。
当然、小説も書けんし、外にも出れんし。

アレ?寝るしかなくね?
なるほど、これはつまり運命か。
よし寝よう直ぐ寝よう。
と、その前に桜さんを運ばなければならないか。

「・・・よいしょっと。」
「・・・ぅん~・・・。」
「・・・これで起きないのが凄いよな、よく考えると。」

若干ぐらつく身体に力を入れ、お姫様抱っこで持ち上げる俺。
これが俺的に一番楽な持ち方なので断じて誤解はしないで欲しい。

・・・それにしても、相変わらずあれだけ飲み食いしてるとは思えない程、変動しない軽さ。
こちとらその飲み食いに付き合って去年は4キロも太ったのだ。
このまま酒付き合いが続けば・・・かの有名なメタリックボディ(?)にでもなってしまうのではないのだろうか。
・・・メタリックボディ?
まぁともかく、桜さんの酒癖はどうにかして直したいものだ。
無理だ、と自問即答が帰ってきた気がする。

―そんなこんなで桜さんを運び終え、平穏を取り戻した我が家。
安心からか、ずっしりと重く圧し掛かる眠気。
これは寝るべきだろう。
布団に倒れこみ、俺は瞳を閉じた。
こんな飲んだくれな姿を親に見られでもしたら、さぞ叱られるであろう。
おお、怖い怖い・・・。

――2時間後。

「・・・恐ろしい程何も無かった・・・これが夢じゃないかと思うほどに・・・っ!」
「うぉう・・・!」

時刻は12時半。
大げさな独り言を言いながら飛び起きる俺が居た。

俺の場合、プチ宴会後寝る=来訪者、と言うパターンが何故か頻繁にあるのでビクビクしていたが、どうやらあちら(って何だ?)もワンパターンでは無いらしい。
というか、毎度そんなパターンで来られたらそのうち死ぬ、寝不足とアルコール過剰摂取の影響で寿命ガリガリ削られてゆっくり死ぬ。
しかし、何事も無いのは本当に助る話で。

「な、なんや奇声を上げて・・・ビックリしたやんか・・・。」
「・・・あれ、おかえり?」
「何で疑問系やねん・・・まぁただいま。」

コイツが帰ってきている事が、この時の俺には何かの予兆としか思えなかった。

「・・・何で居るの?」
「何でって、もうお昼時やん、昼飯。」
「・・・いつも向こうで食ってるじゃねぇか。」
「今日は何か親父さんが着てるみたいでな、邪魔か思って帰ってきた。」
「・・・さいですか。」
「何やその顔、帰ってくんなって顔してるで。」
「どんな顔だよ、いやまぁその通りだけど。」
「ゴミ袋見たで、また桜の姉ちゃんか?」
「そーだよ・・・だから昼飯は自分で作れ・・・俺はもう一眠りするわ。」
「そんなことよりおうどんたべたーい。」
「話聞けよ。」

起きて早々目に飛び込んだのは、そんな俺と視線を合わせること無くゲームに熱中する姫子の姿だった。
最近は積極的に手伝う癖に、多分ゲームから手を離したくないからであろうか、その場から動く気配がまるで無い。
本当にお嬢様だったというのに、その様はもはやゲーマー姉妹の三女状態。

とは言え、どちらにせよ、それなりの音量でゲームをカチカチやられては眠れもしない。
・・・仕方ない。
深い溜息をしつつ、俺は体を起し、台所へと歩いて行った。
確かに、酒とつまみだけでは腹が減る。
腹の虫を鳴らしながら使えそうな食材を探す。
そして、まず一言。

「うどんねぇぞ。」
「なんやて!?」
「・・・そんなに衝撃を受ける事か?」
「うどんが食べたいー・・・。」
「気色悪く言っても駄目。」
「今のが気色悪いやて!?どう聞いても美少女やろが!?眼科と耳鼻科行けアホンダラッ!!」
「はいはい・・・とりあえずそんなに食いたきゃコンビニでも行って買って来い・・・。」
「待っ・・・これ全クリしてから・・・っ!」
「あー、そこは隠しパーツ使った方が楽だぞ?」
「そんな汚いもんにウチは頼ら・・・なーっ!?」
「・・・ご愁傷様です。」

爆発音と共に散る画面向こうのプレイヤー。
今日はメカアクションゲームである。
ばらばらに散るメタボリックなメカに、奇声を上げる姫子(おじょうさま)。
何とも可笑しな図である。

「・・・・・・うどん買ってくる・・・。」
「あいよ。」
「・・・金くれへんの?」
「ねーよ。」
「・・・コータの童貞~~~~!!!!!」

だから少女らしからぬ発言をするなと。
そう言おうと口を開くも既に遅く、姫子はだらしない格好のまま、外に飛び出していった。
・・・サイフ忘れちゃ居ないだろうか。
追おうにも体は言う事聞かないし、怒るには気力が足りない。
とりあえず、お湯を沸かすか。
二度目の溜息と同時に、俺は両手鍋に水を入れ始めた。

――約5分後。

「・・・あのさぁ、姫子。」
「なんや?」
「お前さ・・・生粋のアホだろ?」
「何で!?」

満足げな顔で帰ってきた姫子を、俺は呆れ返った表情で迎えていた。
それもそのはず、帰ってきた姫子が手に持っていたのは。

「物事には何事も加減ってものがあってだな・・・そして食品には賞味期限というものが在ってだな・・・?」
「・・・で?」
「何をどう考えたらうどん(3玉入り)を6袋も買う必要があるんだ?」
「んなもん、一日一袋や、賞味期限だってしっとる!1週間以内に食べきればいいんや!」
「お前は自分だけに飽き足らず、俺にまでうどん生活を押し付けるつもりか・・・?」

そう、LLサイズの袋がいっぱいになる程のうどん郡。
バイトをやっていると解るかもしれないが、一箱分である。
・・・大人買い?

「別にええやんウチの金やし、コータには食わせんもん。」
「・・・じゃあ誰が料理するんだ?」
「スイマセン作ってください!」
「アーアーキコエナーイ。」

そうは言いながらもうどんを受け取り、調理を開始してやる優しい俺様。
まぁ、お湯の入った鍋に放り投げるだけで出来上がりというお手軽料理に、調理も何も無いのだが。
それで美味いのだからうどんの発明者は凄い。
特に熱々うどんを器に入れて醤油と卵を入れて、かき混ぜる瞬間は涎もの。
安い、早い、美味いと、まさに一人暮らし男性の強い味方である。

―そんな、調理時間およそ5分で完成したぶっかけうどんを、なんとものの5分足らずで、しかも2玉も、ありがたみも無く平らげた姫子は、満足げに腹を叩き「やっぱ冬はあったかうどんやなぁ」と呟くのだった。
此処でうどんを食わせた覚えも無いし、買ってやった覚えも無いので、恐らくあの姉妹の影響だろうか。
・・・安価な好物が出来て良かったとは言えるかもしれない。

無論、俺も悩みを忘れ、おいしく頂いた。
うどん生活をしろと言われれば戸惑うが、そばかうどんかと聞かれたらうどん派である。
ぶっかけうどんに心まで癒されるとは、そろそろ俺のストレスも末期だろうかと思う、今日この頃。

やはり最近ストレス解消をしてない所為だろう。
・・・丁度酔いも冷めてきたし、久しぶりに行くかな。
自分の食器を台所に置いた後、俺は着替えを始めた。

「んぁ?どこに行くん?」

当然、それに気づかない筈も無い姫子は、食器を放置したまま(片付けろと)何事かと尋ねてくる。
気づけば、こいつの前で着替えるのにも抵抗が無くなって来たな。

「ゲーセン、とりあえず気分転換にな。」
「ゲーセン?」
「ゲームセンター。」
「そんなのは知っとるわ!コータがゲーセンに行く事に驚いただけや!」
「ん、普通にゲーセン位行くさ、最近行ってなかっただけで、バイト仲間とも普通に行くし、一人でも行くし。―と言う訳で行ってくる。」
「待って、ウチも行く!」

ゲーセン、と言う言葉に表情を変えて飛びついた姫子。
本当に三女化してるなコイツ。

「・・・えー。」
「何でそんな嫌な顔するんっ!?」
「あそこ知り合いとかも居るんだよ、お前連れ込んでロリコンだのなんだの言われたらと思うと・・・。」
「普通に居候です、とか言うたるからっ!」
「いや、それが普通に困るっつーてんの・・・。」

どうやら、どうしても行きたいらしい、涙目で訴えてくる姫子。
そもそもお前が居候である事が、既に色々と大問題だと言う事を忘れてはいませんか?
ああ、まだ頭痛い。

「・・・そんなに行きたいのか?」
「行きたい行きたい、アーケードのゲームがやりたいんや!」
「・・・前々から思ってたが、ゲームに目覚めすぎ、向こうで相当遊んでるんじゃないか・・・?」
「ギク・・・で、でもちゃんと働いてるから問題あらへんっ!」
「・・・まぁ、向こうが良いってなら良いんだけどな。」
「んじゃ早くゲーセンに行こうっ!」
「その良いじゃねぇよ?誰が連れてくって言った?」
「ついてくったらついてく!」
「いかん。」
「いく!」
「いかんて。」
「いーくーんーやっ!」
「・・・。」

お互い睨み合う事数分。
どう言っても行くとしか答えない姫子の我侭に、俺は首を縦にする他に無く、あっさりと折られたのであった。

――

「―うーん・・・随分ちっちゃなゲーセンやなぁ。」
「・・・。」
「・・・なんや、まだ怒ってるんか?」
「・・・お前は本当に加減を覚えた方が良いぞ・・・あー腰が痛い・・・。」
「それはもう謝ったやん!・・・と言うかウチは悪くあらへんし。」
「んじゃ先に帰る。」
「やーん!ソレはアカン!午後5時になったら係員に帰らされるやん!」
「オイ、午後5時まで遊ぶ気かコラ?」

アパートから徒歩20分ほど、駅近くにあるゲームセンターの中に入るなり、文句を漏らす姫子。
実力行使までして連れて来させて、その言い様は至極腹が立つんだが・・・。
花柄ワンピースに麦わら帽子と、らしくなく可愛らしい格好なのが余計に腹立つ。

・・・ちなみに実力行使と言うのは、プロレスゲームでの海老反り固めを真似た技を俺に掛けやがった事である。
痛いとかそんなレベルじゃない。
絶対背が伸びたであろう程に反られたのだ。
良い子は真似しないでね!

「つーか、この田舎町のゲーセンにムチャな注文はするなよ、そりゃまぁ、規模は小さいが、最新のゲームはある、ご希望には添えられるだろうさ。」
「べ、別に文句はあらへん、ただ・・・中がこんなに小さいゲーセンを知らなかったんや!」
「ああさいですか。」

さすがはお嬢様、行ってるゲーセンの規模も違うか。
・・・・・・いや、そもそも待った。
恐る恐る俺は聞いてみる。

「・・・お前、ゲーセンに行った経験は?」
「暇があれば誠に付き合わせて行ってたわ、一番暇が潰せるし、飽きへん。」
「ああ、さいですか・・・。」

最近見ていなかった所為か、忘れていた。
見慣れないものや言葉を見聞きすると、首を傾げる姫子のリアクション。
そして、ゲーセンに対してソレが無く。
つまりコイツ、ゲームに目覚めたのではなく、最初からゲーム好きだったと言う訳だ。

「・・・しかし、誠さんも大変だな、想像するだけで苦労が解る。」
「む、別に嫌々連れて行ったりはしとらんわボケ、むしろ誠の方が楽しんでた位やし。」
「・・・意外すぎる。」
「良く・・・とも行ってたしな。」
「?・・・今なんて言った?」
「な、何でも無い、ほら、遊ぼうやっ!」
「ちょっ!?引っ張るなっての!」

ゲーセンで熱中するお嬢様とメイド。
想像しただけで相当目立つであろう、特に後者。

よほど楽しみにしていたのか、待ちきれない様子で俺の手を引く姫子。
そしてホイホイと連れて行かれる俺。
父と娘か?
ますます保護者っぽくなってきてしまっているのが気になるが、そこをツッコまないで欲しい。
俺自身痛いほどに良く解ってるのだから。

・・・にしても、父と娘、か。
どうしてコイツの親父はコイツに嫌われているのだろうか。
しかも尋常ではない拒絶っぷりと来たものだ。
だが気になるのは、誠さんの発言と様子から取れた、そんな拒絶っぷりからは考えられない程の、誠さんの信用っぷり。
コイツの勝手な都合で嫌っているだけなのか、それとも本当に何かやらかしらロクでもない父親なのか。
実の所、そこら辺の謎は深まるばかりだったりする。

「あったあった、これがやりたかったんや!」
「・・・まーた乙女らしくないゲームを。」
「うっさい!乙女だってメカメカしいのが好きだったりするんや!」
「さいですか・・・。」

そんな思考を走らせながら、姫子に連れられ着いた先は、対戦ゲームコーナーにある、とあるメカメカしいメカアクションゲームの前(メカメカしい?)。
・・・と言うか、それはつい30分前に姫子がやっていたゲームと同じものなワケで。
俺もカセット版でなら馴染みの、と言うか極め済みのゲームだ。

「・・・わざわざ家で出来るゲームをこっちでやりますか。」
「ふん、甘いなぁコータは、アーケードでしか楽しめない操作感っちゅうもんが解らん。」
「ホントにこのマセガキは・・・。」
「さぁさぁ良く見とき!ウチの腕前!」
「へいへい。」

俺のツッコみに対し、自慢げに答えつつ椅子に腰を掛け、100円玉を入れ、レバーを握り、ボタンを押す姫子。
確かにその動作一つ一つには迷いが無く、相当に手馴れている。
たまにしか行かない俺なんかよりよっぽど通っているだろう。
・・・曲りなりにもお嬢様だよな、コイツ。
全く面影も無いが。
そうこう言っているウチに、姫子はゲームを開始、スムーズに機体を選び、戦闘画面に入る。

「その機体で大丈夫なのか?コスト高い癖に相当な紙装甲だぞ?」
「当たらなければどうと言う事はあらへんっ!!」
「・・・ツッコまんぞ。」

姫子が選んだ機体は、赤くて速い高機動低装甲の二足歩行メカ。
・・・中身はご想像にお任せします。
とにかくすっごい速いよ!

―そして、ゲーム開始。
・・・からの3分足らずで、赤いメカを自在に操り、楽々敵を全滅、一面をクリア。

「準備運動は終わりや!」
更に上がるテンションと共に、二面をクリア。
「弱い弱いっ!」
こんな感じに、良くゲームを喋りながらやる人って居るよね。
姫子もそのようで、度々独り言を言いながらも三面、四面をクリア。
「あ・・・明らかに家でやるより上手い。」
「前のシリーズもやってたからな、相手が同じタイプのメカならこのくらい余裕や。」

こちらに喋る余裕もありまくりの様子で、敵を一騎当千の勢いで斬りまくり、五面をクリア。
その腕前には俺も口をあんぐりとさせていた。

―そして。

「さぁ、ラストステージ!」
やってきたのはあっと言う間のラストステージ。
ここまで一度の被弾も無く来た姫子。

「どうせ余裕なんだろ?」
「でもラスボスはいつでも緊張するもんや。」
「成る程。」

ちなみに、ラスボスは巨大かつ武装豊富な要塞型のメカ。
今までの人間型や飛行型とは全く違う、ラスボス専用のメカというヤツ。
アクションゲームでは定番である。
現れたボスに対し、表情を真剣にする姫子。

「―いっくでぇっ!」
気合の入った一言と共に、レバーを前に押す。
光を噴出し、飛ぶ赤い機体。
そんな、敵との戦いが始まる、一番盛り上がる所で。
ゲーム画面は、止まった。

「―・・・へ!?」
驚きの声を上げる姫子、しかしそれも数秒、画面を見て納得する。
「・・・人のプレイを邪魔するなんて良い度胸やんか・・・。」
「挑戦者、乱入か。」

切り替わった画面には、新たな敵の姿と、先ほどとは異なるフィールド。
つまりは、姫子の座るゲームの正面にある、これと同じゲームを誰かがプレイ開始し、乱入する事を選んだと言う事。
加えて驚きなのは、乱入したその相手も、コイツと同じ、赤い機体だと言う事。

「馬鹿にされてるみたいで腹立つ!・・・乱入したからにはぎったんぎったんにしたるっ!!」
「そんなデカい声で言うと向こうに聞こえるぞー?」
「うっさい!・・・見ときぃ・・・コテンパンにしたるからなぁ・・・!」

そんな突然の乱入者に怒りを露わにする姫子。
その目は本気も本気、本気と書いてマジと読む。
ラスボスまで無傷だった姫子に、謎の挑戦者。

何となく勝敗を決め付けていた俺だが。
―試合開始直後、そんな予想とは全く別の展開が待っていた。

戦闘開始と共に飛び出す、姫子の機体。
敵を直ぐに発見、あっという間の臨戦態勢。

「くらえっ!」

互いの距離はかなり近く、レーザーブレードが当たるほどの近接距離。
当然、この時姫子が選んだ攻撃方法は、レーザーブレードによる近接攻撃。
射程は悲しいほど短いが、当たれば致命傷を与えられるこの武器が、高機動高火力、低装甲のこの機体のメインとも言えようか。
そしてこの距離なら、なんら問題無く当たる。
相手も何故か反応できなかったのか、棒立ち状態。
先手を打った姫子の勝ちか、と思った俺。

―だが。
姫子機がブレードを振ろうとした、その直後。
なんと突然、機体が轟音を上げて爆発したのだ。

「―なっ!?」
「・・・この距離でバズーカ!?」

二人揃って口をあんぐり。
爆発の正体は、敵のバズーカ。
高威力だが弾速も遅く弾数も少ないしリロードも遅い爆発兵器。
だが驚くべきはバズーカの存在ではなく、その使用方法。
バズーカは爆発兵器、故に近接で使えば自身も大爆発で大ダメージを受ける、言わば遠距離武器においての切り札、姫子が射撃武器に選択したマシンガンとは相性も悪い。
そんな武器を、乱入した機体はマシンガンと同じ距離で、迷わず撃って来たのだ。
しかし、ダメージが大きいのは姫子も同じ。
むしろ、カウンターによる直撃を受けたそのダメージは悲惨である。
・・・いい加減語りが長いよ。

「くっ・・・もう耐久力が・・・!」

痛そうな顔をする姫子。
ゲームする人の中で良く居るよな、プレイヤーがやられると自分も痛がるヤツ。
だが、敵は容赦無い。
ピンチを告げるアラーム、バズーカを構え、高速で迫る敵。

「また真正面!?・・・これ以上やらせるわけ・・・無いやろぉ!」

マシンガンを持ち、ソレを迎える姫子機体。
近距離での撃ち合いなら、マシンガンの方が分がある。
何故なら、バズーカの弾は射撃で破壊可能なのだ。
案の定、近距離で二発目のバズーカを放ってきた相手機。
待ってました、と言わんばかりに、マシンガンを構え、弾を破壊する姫子機。
轟音を立て爆発した弾、煙で見えなくなる目前。

「これで終いやっ!」
ブレードに武器を持ち替え、迷わず煙の中へ飛び込む姫子機。
そう、それがいけなかった。

「・・・居ない!?」

煙の晴れた先に、敵の姿は無い。
おかしい、姫子はレーダーに目を向ける。
敵の位置を記すレーダーに見えたのは、自身の青い点の後ろに見える、赤い点。
敵は背後に居た。

―ザンッ!!

現れたと同時に、背中から胴を斬られ、倒れ、爆発する姫子機。
画面に出るLOSE(敗北)の文字。

「・・・負けた・・・?」
「煙に紛れ込むなんて事出来るんだな・・・勉強になった。」

信じられない、と言わんばかりに画面を見つめる姫子。
まぁ、今のは熱くなりすぎてレーダーを見てなかったのも悪いが。
それでも、姫子も腕前としては上級者だろう、少なからずアーケード限定で俺より上手い。
・・・相手は一体どれ程のゲーマーなのやら。

「―やぁやぁ~、楽しかったよー。」
「「!?」」

そんな、余りに圧倒的展開の短期決戦に唖然としていた俺と姫子の耳に、聞き覚えの無い声が聞こえた。
それは、乱入してきたゲーム機の方からの声。
飾り気の無い、弾んだ女性の声。
声の方向へ向くと、そこに居たのは確かに女性だった。

赤褐色のショートヘアーに耳ピアスを付けた、整った顔立ちに、猫の様な瞳。
年代で言えば俺と同世代、20台だろうか。
そんな彼女がゲーム機からひょっこりと顔を出して、大手を振ってこちらを見ていた。
・・・女性ゲーマーって普通に居るのか?

第二話 続く。
 

季節外れのベロペロネ

前回までのあらすじ。

1:いつもの(以下略)
2:ゲーセン。
3:当たらなければどうと言う事は無い!

いろんな名言を残したあの人だが、このセリフほど世に広まったモノは無かろう。
でも当たったらダメなんですよね。
で、当たりすぎて負けた姫子ですが。

「・・・。」
「・・・おーい、向こうさん挨拶してるぞ。」
「・・・。」
「・・・おーい。」
「ま・・・ま・・・。」
「・・・ま?」
「まけたぁああああああ!!!」

当たりすぎてどうにかなってしまったらしい。
コイツの悔しさのこもった叫びは、店中に響いたそうな。

――第二話「突然変異万歳?」

「―いやぁごめんごめん、まさかラスボスをやりたかったとは思わなくてさぁ。」
「・・・いや・・・うん・・・ええんや・・・。」
「よほどあの巨大ロボットと戦いたかったのな、お前。」
「べ・・・別にちゃう・・・巨大ロボットがかっこいいから・・・久しぶりに見たかったとか、そんなんちゃう・・・アーケード限定のラスボスだから余計にとか・・・そんなんちゃうから・・・。」
「うわぁ凄く気にしてる・・・。」

さて、所変わって、ここはセンターの隅っこにある、休憩所も兼ねた飲料売り場。
ベンチでちょこんと座り込み、顔を俯かせる姫子に、困ったなぁと苦笑いをする女性。
ゲーム如きでここまで落ち込む辺りは子供らしい、まぁ毎度ゲームで負けるこうなるので、決して珍しい光景ではないが。
むしろ、乱入上等のゲーセンで、謝った上にジュースまで奢ってやっているこの女性の方がよっぽどレアである。
・・・しかし、最近の女子の中ではメカゲーでも流行っているのだろうか。
それにしたって、とてもメカゲー好きには見えない。

黒の刺繍入りデニムに、白シャツに茶色のジャケット。
どこか男っぽい格好と雰囲気を持つ彼女だが、ファッション面では桜さんといい勝負をするのではないだろうか。
普通にゲーセンに居ても可笑しくは無いのだが、メカゲーをやる人には見えない。
人は見かけてでなんとやら、とは言うが。

「・・・というかスイマセン、ジュースまで奢って貰って、明らかにこっちが悪いのに・・・。」
「あ~、いいのいいの、意図的に勝負仕掛けたのは私だし?」
「・・・うちは普通に一人プレイしたかったのに・・・。」
「ごめんってばぁ~。」
「お前なぁ・・・いい加減機嫌直せよ。」
「うっさい!大体コータが言わないのが悪いんや!一人プレイ専用の台があるって先に言ってくれれば・・・。」
「自信満々に座るお前の姿を見たら何とも言えなくね?そもそもお前探す素振りも無かっただろうが。」
「う・・・。」

反論をするも一瞬で折られ、再び肩を落とす姫子。
大方負けないとでも思っていたのだろう、あれだけ自信満々な顔をしていたのだから。
自業自得とは言え、何ともお気の毒。
だが、そう思ったのも束の間。

「まぁまぁ、この際、もう一回プレイすればいいじゃん、見た感じラスボスまで楽勝だろうし。」
「・・・。」
「ゲーム代はお兄さんが払ってくれるし、むしろ二度プレイ出来てお得だよ?」
「・・・はい?」
「ホント・・・?」
「何でそういう話になってるの!?」

このお姉さんは一体何を言っているのか、気づけば、その被害は俺にまで飛び火していた。
・・・何で見ていただけの俺が姫子の為に100円ちゃんを使わねばならんのか。
当然、反論せんとする俺。
しかし、この時点で、既に選択肢は絞られていた様で。

「ホントホント、ねぇお兄さん?」
「・・・・・・嫌ですよ?」
「君に拒否権は無い!」
「・・・えーと、嫌ですよ?」
「返事はー?」
「・・・・・・。」
「返事は~?」
「・・・はい・・・。」
「よろしいっ。」

桜さんに似た圧力を前に、俺は首を縦にせざるを得なかったのだ。
・・・女って怖い。
そう改めて心に刻む(刻まれる)俺であった。

――そんなこんなで30分後。

「・・・クリア出来た!」
「おっめでとう~っ!」
「・・・おめでとう。」

一人プレイ用の台にて、改めてストーリーモードをクリアし、歓喜する姫子。
もはや実況する意味は無いのでカットさせていただきました。
いいえ、する気も起きないんです。
そして何故か一緒に喜んでいるお姉さん。
一緒に手を繋いでピョンピョンと跳ねていらっしゃるのだが、いつまで付いてくるつもりだろう。

「ノーコンクリアとはやるねぇ、被弾も少なめだし、相当やり込んでるだろ~?」
「まぁな、このシリーズ好きやから~。」
「うんうん、この年齢でメカゲーやってるのも驚いたけど、上手だからお姉さん尚更びっくり。」
「でもお姉さんの方が強いやん!うち一撃も当てれなかった。」
「やぁね~、私くらいの年齢になると何でもそつなくこなしちゃうのさ~。」
「すごい!お姉さんすごい!」

テンションが変な方向に高まっているからだろうか、姫子が若干キャラ崩れしている。
戻って来い姫子、お前は人のボケと冗談を冷静にツッコむ様なキャラだったはずだ。
そんなハイテンションに飛びながらすごいすごい言うような子じゃないのよ!うちの姫子は!。
・・・いや、ウチの子じゃねぇけど。
しかしこのお姉さん、ノリノリである。

「ねぇねぇ、話から察するに、君らこのゲーセンに来るのは初めてだよね?」
「せやね、ここら辺に来たのも最近や。」
「俺は地元だからたまに来てるけどね。」
「ふむふむ、まぁいいや!私今日、兄貴にフラれて一人さびしく遊んでてさ、丁度良いからここを案内させてよ、狭いけど!」
「え・・・いいん?」
「同じ愛機同士の仲じゃないか、喜んで案内させてもらうよっ!」
「・・・少佐~っ!」

満面の笑みで握手を求める女性と、感動でもしたのか、泣きながらその手を握る姫子。
何故か出会って30分で生まれた友情。
アパートで最初にしたあの緊張感溢れる自己紹介は一体何だったのかと、そう思うほどのノリの良さである。
・・・少佐?

―結局、謎の・・・否、変な女性が仲間に加わったまま、姫子のゲーセン冒険は勝手に始まった。
姫子の旅費、何故か俺持ちで。

「さぁ~じゃんじゃん行くよ~!」
「お~!」

二階も存在しない狭いゲーセンだが、ゲームの密集度は高く、ゲームの数も実は割りと多いこのゲーセン。
女性はスキップ走りで姫子を連れ回し、ありとあらゆるゲームをプレイさせた。

例えばダンスゲーム、例えばレースゲーム、例えばシューティングゲーム、その他諸々、そのプレイ数は俺のサイフと俺が硬貨との別れに心苦しくなる程。
多くを解説しているとキリが無いのでプレイしている姿はご想像にお任せするが、一言言うとすれば、普通のゲーム少年が美少女になっただけの話である。
自分にもそんな時期があったなぁ、と言う懐かしい気分になれます。

・・・え?それじゃ面白みが無い?
俺としてはキリが無いと言うか、何の面白みも無い状況ばかりで解説を放棄したいワケですが。
そもそも面白みを期待するなと。
女の子二人がゲームできゃっきゃっ言ってるのをおっさん臭い男が見てるだけだぞ?
おっさん臭い言うな。

「ねぇねぇ姫ちゃん、次はあれ、あれをやろう!」
「ちょ・・・待って・・・ちょっと休憩―」
「駄目駄目!今日は夕方まで遊ぶの~!!」
「えぇえええ・・・?」

そんなこんなで激しく遊びながらも、まったく勢いが止まらない変な女性。
さすがの姫子もどうやら勢い負けしているご様子である。
もはや案内と言うより、一緒に遊んでいる、の方が正しいだろう。
多分、元からそのつもりだったのだろうが。
・・・俺、完っ全に蚊帳の外だなぁ。
もはや俺の思考は、今日の夕飯の献立へ向けて働いていた。

「・・・なぁ姉ちゃん・・・これは・・・。」
「うん?見ての通りのガンアクションゲームだよ?知ってるでしょ?」
「し・・・知ってるけど・・・知ってるけど・・・や・・・やややや・・・ややや・・・?」
「やるのか?と問いたいワケだな。」

もうゲーセンを一周はしたであろう俺達が次に辿り付いたのは、ガンアクションゲームの前。
つい1時間前まではノリノリだった姫子も、ノンストップで続く連戦に疲労の顔。
加えてここに来てからの顔は、更に青ざめている。

「大丈夫大丈夫~、経験者じゃなくても私が居るから楽しく出来るよ~、さぁ中に入った入った~!」
「ちょちょちょちょ・・・ま、まだやるとは一言も!」
「問答無用~♪」
「ぎゃぁああああ!!!」

そんな姫子の心境は当然の如くあの人にも伝わった様で、楽しそうな顔がより一層楽しそうになった。
否、あくどい顔になったと言う方が解り易いだろうか。
叫びも空しく、姫子は黒いカーテンの中へと入っていった。

ちなみに、ガンアクションゲームの名前は「ゾンビパラダイス」
外国で良くあるゾンビゲームの類である。
以前見せた拒絶反応と同等ではないかと思うほどの嫌がりっぷりを見せる姫子。
まさかまさかで、こんな所だけ女の子らしい様だ、コイツは。
しかも、今回は相手が悪かった様で。

「右から来るぞ!気をつけろ!」
「みみみぎ!?右!?なんかきたぁあああ!?」

程無くして聞こえるは、乙女らしい姫子の絶叫。
どうやら、強制的にプレイ開始させられたらしい。
それにしても、とても普段の姫子とは思えない程の乙女っぷりである。

「次は左!構えて構えて~!」
「ひ・・・ひだ・・・ひ・・・きも・・・気持ち悪いぃーっ!!」

銃声と同時に聞こえる、敵と姫子の断末魔。
そして時間差で聞こえてくるのは、面白くて仕方ないと言わんばかりに笑うお姉さんの声。
・・・明らかに狙って連れて来たな。
まるで男女のデートである。
音声のみだけしかお伝えできないのが非常に残念だが、想像するのに苦労はしないであろう。
と言うか君ら、声がかなり漏れているぞ。
おじさん方がビックリしてらっしゃる。

「ほら、上から来るぞ!ボスが来るぞ~!?」
「う・・・上・・・ひっ・・・虫!虫は無理!しかもデカいぃーーー!?」
「撃たなきゃ食べられちゃうよ~?」
「い・・・いやだぁあああっ!虫は無視!無視させてー!!」

お嬢様の貴重なマジビビリ。
カーテンをチラりと覗いてみると、予想通りの顔があった。
普段怖い者知らずな癖に・・・意外すぎる弱点である。
何とも面白いビビリ顔に、俺はさりげなく笑ってやった。
散々人のマネーを吸い取ったバチとしては軽いもんであろう。

「こな・・・来ないでぇぇええええ!!!」
なお絶叫する姫子。
このゲームは俺でさえ心臓に悪いと思うレベルだ、無理も無い。

「あっははははは~!!」
むしろ、その隣で笑いながらプレイしてるお姉さんのレベルが高すぎであろう。
本当に何者なのやら。
とりあえず、小学生後半の姫子には軽いトラウマになるであろうから、夢に出ない事を一応祈っておいてやるとしよう。

――更に30分後。

「―あー楽しかったっ!ねー姫子ちゃん?」
「・・・・・・楽しかった・・・です・・・。」
「あらら・・・さすがにアレは辛かった?」
「そりゃぁもう・・・ウチああいうの苦手やから・・・。」
「いつもは怖いもんなんて何も無さそうにしてるのにな。」
「うっさい!ウチだって年頃の乙女やっ!・・・苦手なものくらいあるわ・・・。」

黒いカーテンを出た姫子の顔は、まるで別人のようにげっそりとしていた。
これ以上細くなったらスケルトンにでもなってしまうのではないだろうか。
美少女も骨になってしまえば他と同じだろうなぁ。

「次は何に行こうかなぁ・・・と言いたいけど、面白そうなのはほぼ全部回っちゃったんだよねぇ。」
「・・・なんだかんだ2時間近くは遊んでましたからね。―と言うか俺のサイフがもうヤバイです、勘弁してください。」
「えー、お兄ちゃんなんだから妹の金ぐらい持つ余裕はあるでしょー?」
「・・・えーとですね・・・まずそこから説明しないといけないのですが。」
「ウチはコイツの妹ちゃうで、血なんてつながっとらん。」
「え?兄妹じゃないの!?」
「アッサリバラしやがって・・・って、そう見えるんですか?」
「だって似てるじゃん、自分らで気づかない?」
「「・・・全く。」」
「どこぞの兄妹みたいな反応するなぁ君ら・・・。」

またもどこかで聞いた様な言葉。
・・・決して顔は似てないのだが、どうにも俺と姫子は血縁に見られるらしい、マジで勘弁してくれ。
コイツが俺の事お兄ちゃん、なんて呼んでくれたなら少しは似てる事を喜べたかもしれないが。
夢の中でもまずありえない話である。

「まぁ、実の所私も用事を思い出したからこれから行こうかと思うし、丁度良いからお開きにしよっか。」
「用事?」
「そ、うちの可愛い彼女とデートなのさ。」
「・・・えーと、姉ちゃん、女だよね?」
「世界は広いのさ、姫ちゃん・・・。」
「・・・お、女の子同士?」
「あはは、冗談冗談~。―んじゃ、今日は楽しかったよ、ありがとね~!」

どうやら勘弁してもらえるらしい、女性はそう言って、そのまま出口まで駆け始めた。
本当に何もかも突然に動く人である。
しかしサイフは生き延びた、ボーダーラインギリギリに。

「あ、そういえば私の名前教えて無かった。―私は『神崎空』、また遊ぼうね姫ちゃん!」
「・・・神崎?」
「そう、君と同じ所で働いてる神崎の妹だよ~、春日井康太君?」
「・・・マジですか・・・。」
「兄貴がお世話になってます、それじゃぁね~♪」

そんな俺の心情を知ってか知らずか、最後にニヤリと笑って、嵐は去って行った。
残ったのは、硬貨の空になった俺のサイフと、何故彼女が俺を知っていると言う謎。
いやまぁ、後者は何となく解るのだが。
しかし、本当に可愛い妹だったとは、あいつめ。
・・・間接的にもかつ上げをしてきた、その中身はともかく。

「なんだ、知り合いだったん?」
「いや、初対面・・・。」
「ふぅん、また会いたいなぁ。」
「・・・今度からはお前一人で行け・・・もう俺は嫌だ・・・。」
「なんで?楽しかったやん?」
「お前はな・・・俺は硬貨達と悲しい別れを告げただけの2時間だったんだぞ・・・。」
「・・・何か・・・ごめん・・・。」
「いいよ・・・あのお姉さんに逆らえなかった俺も悪いから・・・いいよ・・・。」
「マジ泣きすんなや・・・うどんあげるから・・・。」
「ありがとう・・・。」

今回の出費。
100円玉11枚(良くあったなそんなに)。
ゲーセンで一切遊ぶ事無く過ぎていった時間。

収穫。
女の子らしい姫子の貴重な一面(いらない)。
大変貴重な姫子の慰めのお言葉。

・・・ふと時計を見ると、時刻は4時。
もう直ぐ夕方。

酷く一日を無駄に過ごしたのではないか、そう思うと、俺は余計に涙が止まらないのであった。

第二話 続く。

季節外れのベロペロネ


前回までのあらすじ。

1:ゲーセン探検。
2:100円玉×11とのあまりに突然な別れ。
3:神崎(妹)があらわれた!

余りに大きすぎた11人の犠牲に、俺はただ涙するだけだった。
お前らの犠牲、忘れないぜ。
いつかまた生まれ変わって会える日まで・・・。

「グッバイお頭・・・。」
「誰だよお頭って・・・。」

―そんな悲劇から翌日、現在バイトの時間。
いつものサボれる時間に、いつもの搬入口、俺は神崎に昨日の出来事を愚痴っていた。
と言うか、こいつの妹の脅しで俺の11人の英雄は犠牲になったのだから、兄であるコイツにも責任はあるんだ、きっと。

第二話「ギャップっていいよね」

「―と言うわけで千百円になりまーす。」
「どう言う訳で俺がお前に支払いをせにゃならんのだ・・・。」
「だってお前の妹が俺のお金を・・・!」
「・・・そんな訴えるような顔で言うな、つーか話聞く限りじゃお前だって楽しんでるんじゃねぇか、ゲーム全くやってねぇけど。」
「そりゃあ、姫子の面白い顔を山ほど見れたり、妹さんのダンスに見とれてたり、微笑ましいやり取りを見てたり、そりゃぁ目の保養にはなりましたよ、一応。」
「・・・ホンットに見てただけなんだな・・・。」
「そうだよ・・・そんな事に気づいたから泣いちまったんだよ・・・。」
「・・・いやゴメン、聞いた俺が悪かった、だから泣くなよ・・・。」
「じゃぁ・・・金くれ・・・。」
「断る。」
「ですよねー。」

事情を話しても、涙ながらに語っても、結局彼はお金をくれなかった。
いや、解っては居た事だが。
彼はツッコみ役、ノッてくれるはずも無い。
・・・え?そもそも要求する相手を間違ってる?

「・・・あれなら妹呼んでやろうか?・・・話し合いにすらならないと思うが。」
「・・・いつもああなのか?」
「言い出したら聞かないわ、自分が可愛いの解ってるから色目使うわで・・・お前もどうせ強請られたんだろ?」
「大・正・解。」
「はぁ・・・お前、女性に耐性あるんじゃねぇの?」
「いや・・・何と言うか、桜さんと同じ属性を感じてな、本能が逆らえんかったというか・・・。」
「もっと情けねぇじゃねぇか・・・。」
「妹に養われるお兄ちゃんよりはマシでござんす。」
「オイコラ・・・確かに養われてるのは認めるが・・・あいつみたいな性格なのと一緒に暮らすと色々大変なんだよ・・・普段からああなんだから。」
「・・・あー。」
「・・・お互い苦労人というヤツだろ。」
「「・・・はぁ。」」

タバコ片手に、壁に背を付け、深く、ふかーい溜息を漏らす男二人。
どうやら、俺もこいつも同じく同居人に苦労する身だったらしい。
家賃も払ってくれて食事も作ってくれるならまだマシだろうが・・・。
あんな超元気な妹が居たら家でも落ち着けないであろう。

・・・俺も人の事はこれっぽっちも言えないが。
ゲームに熱中するお嬢様の居候に、酒を持ち込んで飲み騒ぐ隣人。
この環境で落ち着ける人は是非集中方法を教えて欲しい。

「しっかし困るよなぁ・・・こっちは静かに寝たい日だってあるのにさ。」
「だよなぁ・・・俺なんか昨日風邪引いてるのに酒飲まされてさ・・・。」
「桜さんは本当美人なのにそこら辺が勿体無いな・・・。」
「うむ・・・そこら辺考えると可哀想ですらある。」
「まぁ本人がいいならいいんだろうけどさ・・・ってかまだお前は良いな、俺なんて身内がアレだから・・・。」
「可愛い妹で良いじゃないか、しかも料理も出来るんだろ?家賃も半分払ってもらってるワケだし。」
「それらを全て差し引いてもあの騒がしさは困―。」
「―私も、お兄ちゃんみたいな仕事サボり魔が居ると困っちゃうなぁ~?」
「「―!?」」

憂鬱な気分になっていた俺と神埼の愚痴会話を遮るように聞こえたのは、聞き覚えのある女性の声。
まだ記憶に真新しい、と言うか昨日の話である。
男二人の間に挟まるように、空さんは居た。

「やっほー、揃ってサボりとは仲がいいねぇ~。」
「・・・・・・な、何で居るんだお前、ここ従業員専用だぞ・・・?」
「何で、じゃないよ兄貴、また洗濯物入れないでバイト出たでしょ、洗い物もしてないしさー。」
「ギクり・・・いやまぁ、それはだな、バンド仲間とバンドの練習をしてたらつい時間が無くなってだ。」
「その言い訳二日前に使ったばっかだよ?」
「なぬ!?」
「冗談。」
「ちょっ!?」
「そうそう、用件だったっけ。―ちょっと康太君にね~?」
「・・・俺にっスか・・・ってかここ従業員用・・・。」
「そうだよねぇ、お客さんにも見られないからサボるには丁度いいねぇ~、バイト時代は良くやった良くやった。」
「はぁ・・・。」

どこからともなく現れ、ニコリと笑ってこちらを見る空さん。
従業員以外立ち入り禁止のこの場所にどうしているかは、もはや問うまい。
しかしまぁ、どうして俺の周りにはこうもいいタイミングで現れる人ばかりいらっしゃるのか。
とは言え、そんな事を口に出せるワケも無い俺は、苦笑いで返すのだった。

「昨日は本当に楽しかったよ、ありがとねぇ~。」
「いえいえ・・・こちらこそ・・・というか、ソレを言いに来たんですか?」
「そそ、そのついでにこの馬鹿兄貴にお届けモノをね。」
「馬鹿とは何だ馬鹿とは。」
「馬鹿だから馬鹿っつってるのだよ兄君、はいこれ。」

一転、呆れ顔で兄を見る妹(空さん)。
その手に持っているのは、風呂敷に包まれた四角い物体。
弁当だろうか、その形からソレが差し入れである事が解る。
神崎もそれがなんであるかを理解したのか、「あ」と口を開く。

「今日はナイトもあるっしょ?休憩時間にでも食べてって弁当作っておいたのに。」
「あー・・・。」
「・・・弁当要らない?」
「すまん、要る。」
「すみません、でしょ?」
「・・・すみません、要ります。」
「はいどーぞ。」
「・・・ども。」
「もう、手間かけさせないでよね、お兄ちゃん?」
「・・・。」

ばーかばーかと言いながら弁当を渡す妹に、何も言い返せない兄。
漫画の中だけとは思ったが、こういう兄妹ってホントに居るんだな。
妹が兄の上に立ち主導権を握る図と言うよりは、妹がもはや親のような感じにも見えるが・・・。

「ほら、さっさと仕事に戻った戻った、でないと課長さんに言いつけちゃうぞ?」
「おま・・・それは勘弁しろよ・・・。」
「だったらさっさと行く、働け働けーい!」

空さんが鞭を振るう様な挙動を見せた瞬間、走り出す神崎(兄)。
・・・人間以下の扱いか?
少しばかりアイツの私生活に興味が沸いた気がする。
それにしてもこの妹、楽しそうだ。

「・・・いつもこんな感じなんですか?」
「そうそう、忘れっぽいしサボり癖はあるし、手のかかる兄を持つと苦労するものだねぇ。」
「・・・いや、アイツの事じゃなくて。」
「―あ!そうそう、店員さん店員さん、今ちょっとウチの連れがとある商品の場所が解らなくて困ってるんだ、助けてあげてくれない?」
「・・・・・・それ、最初に言うべきじゃないっスかね?」
「・・・てへ。」
「・・・。」

しっかりしてるのか抜けてるのか、何とも掴み所の無い人である。
会いたくない発言をしてから24時間もせぬまま再会を果たした俺は、泣く泣くそんな彼女の案内で、店の中へと戻るのであった。
課長へのチクりだけは勘弁だし。

――そんなこんなで店内、人がそれなりの勢いで流れる食品コーナー。

「で、その困ってる人はどこへ?」
「うーん、ここら辺で待たせてた筈なんだけどなぁ・・・。」
「・・・特徴は?」
「身長170ちょいで紫の髪、ポニーテールで・・・って最近ロングにしたんだっけか。」
「・・・ええと、男?」
「失礼な、可愛らしい女の子ですよ、言ったでしょ?彼女だってさ。」
「・・・マジですか。」
「マジマジ。―あ、ほら、あそこに居た。」
「・・・あそこ?」

空さんが指差す先、そこには確かに、紫の髪をした人物の後姿があった。
身長170はどうやら本当らしく、髪色もあってか、主婦達の中でも一段と目立っている。
・・・俺の身長よりは小さいが、女子の中で170となるとやはり大きい。
というか、本当に女子か?
一瞬は疑う俺、だがしかし。

「おーい、風華~!」

空さんの声に振り向いたその顔に、俺の疑いは一瞬で地球の反対側へと吹っ飛んだ。

「・・・空・・・どこに行ってたの・・・?」
「いやぁ、昨日話題に出した男の子にお礼を言いたくてさ~、ついつい長話に。」
「もう・・・子供じゃないんだから・・・勝手に消えないでね。」
「・・・空さん?待たせてたんじゃないんですか?」
「で、こちらがその人でね、春日井康太君。」
「・・・ど、どうも(まるで聞いちゃいねぇ・・・)。」
「・・・あ・・・。」

こちらに歩み寄ってきたのは、確かに女性だった。
しかも、普通に美人である。
艶のあるロングヘアーに銀のピアスを付けた、人形の様に整った凛々しい顔。
黒のダウンコートに黒のデニムと、何とも男っぽい服装。
その鋭い目も相まって、遠目から見たら美男子に見えなくも無いであろうが、近くで見れば、あらビックリ、文句の付けようも無い美女である。
だが、そんな凛々しい風貌と雰囲気とは反対に、彼女は至極女性らしく、畏まって頭を下げていた。

「そ・・・その・・・すみません・・・空が迷惑をかけたようで・・・。」
「い?・・・いえいえ・・・こちらも身内が世話になりまして・・・。」

・・・なんだ、この異様な緊張感は。
お見合いか?お見合いなのか?
空さんの友達にしてはあまりに礼儀正しすぎる目の前の美女に驚いた俺は、そんな彼女のペースに飲まれていた。
いやまぁ、初対面同士だからこれで普通なのだが。
俺の周りにはこんな人が居ないから、異様に感じたのだろう、うん。

「あー、いやいや、そんな合わせなくていいんだよ康太君、この子初対面相手だと毎度こうだから。」
「いや、間違ってないとも思いますけど・・・むしろ空さんが初対面に軽す―。」
「ほらほら、二人とも自己紹介忘れてる。」
「あ・・・ごめんなさい。」
「・・・。」

そんな普通に耐えられない御様子で、自己紹介を急かす空さん。
・・・というか、本当に神崎の妹か?テンションの度合いが別次元である
そしてこの人は人の話を聞く気がまるで無い。

「・・・ええと、始めまして・・・柳野風華(やなぎのふうか)です・・・どうぞよろしく。」
「ど・・・どうも・・・春日井康太です・・・よろしく。」
「はいはい、良く出来ました~。」

ぱちぱちー、と楽しそうに両手を叩く空さんに、顔を真っ赤にする風華さん。
・・・良く考えたら、なんで客が沢山居るこの食品コーナーで、しかも見合って自己紹介なんてしてるの俺達?
ああ、考えたら恥ずかしくなってきた。

「・・・空・・・遊んでるでしょ・・・?」
同じく、そんな状況に気づいたのだろう、風華さんはツッコみを入れる。
「あ、バレた?」
そして当然の様な顔で返す空さん。
ホント何だこの人。
「・・・そもそも自己紹介の意味が。」
「いやいや、これから商品案内するに当たってお互いの事を知り合ってだね・・・。」
「ぜ、全然関係ない・・・。」
「全くと言って良いほど必要が無い・・・。」
「まぁ、うん、意味は無いけどね、ノリと勢い?」
「「・・・。」」

集まる視線、ケラケラと笑う外野。
時既に遅しと言うヤツか、結局俺は痛い視線を感じながら、同じ被害者である風華さんの探し物を探す事となった。
神崎、俺が悪かった。
確かにこの性質は、見た目の可愛さを差し引いても救いきれないモノがある・・・。
指を立てて「GJ!」と叫ぶ空さんを見て、俺は心の中で神崎に謝っていた。

――食品コーナー、とある棚前。

「あ・・・ここにあったんだ、バルサミコ酢。」
「ほらー、やっぱり見落としてたんじゃん、調味料コーナーなんて探してるから。」
「う・・・ごめん・・・。」
「まぁ・・・ここは解り辛いっスから。」

俺が案内した先は、お酢がズラりと並ぶ棚の前。
その隅っこに、お求めの品はあった。

「・・・バルサミコ酢・・・調味料以外で使った事無かったからなぁ・・・。」
小さなお酢の瓶を手に取る風華さん。
バルサミコ酢と書かれたソレを数秒眺め、かごに入れた。

「さっすが店員さん、助かったねぇ~。」
「・・・この一本のバルサミコ酢の為に相当恥ずかしい思いをしたけど・・・。」
「全くで・・・。」
「まぁまぁ、旅は道連れ。終わり良ければなんとやらとも言いますし、ほらほら、仕事してるフリしてないと、カメラ越しにサボって女の子とほっつき歩いてるのがバレちゃうよ?」
「「・・・誰がそういう事態を作ったと・・・。」」
「あはは~。」
「もう・・・私だけならともかく・・・知り合ったばかりの人を巻き込まないでね・・・。」
「ごめんごめん、何か彼は成瀬君と似ててさ、つい彼と話す感じに。」
「・・・似てる・・・?」
「顔?こんなヒゲ面が似合いそうな顔じゃないけど、まぁ後は雰囲気がかな。」
「ヒゲ面って空・・・失礼だよ。」
「・・・いや・・・言われ慣れてるんでいいっス・・・。」

全く反省の色が無い空さんに、呆れ顔の風花さん。
しかし何とも、この二人は正反対なのに並んで歩くのが良く似合う。
なんと言うべきだろうか、隣を歩いているのが当たり前で。
要するに、セットというヤツだろうか。
酒=桜さんの様な、多分そんな感じ。
・・・しかし、並んで歩いてる姿はまるでカップルの様である。

「って、もう探し物は終わりじゃないんですか?」
「ごめんなさい、実はもう一つあって・・・お願いしていいかな・・・?」
「まぁ・・・普通に仕事だから良いですけど、何でしょう?」
「クレヨンなんだけど、二階の雑貨コーナーにも見なかったから、どこかなぁって風花と話してたんだよ。」
「クレヨン・・・・・・クレヨン?」

『クレヨン』
そう言われて直ぐに思い出すのは、お馬鹿な幼稚園児が活躍(?)するあのアニメの方ではないだろうか。
鉛筆より短く太く、10台以降は使う事が無くなる、幼稚園児御用達の落書き道具。
確かに俺も子供の頃は良くアレで遊んだもので、実家の倉庫でも漁ればボロボロなクレヨンが出てくるであろう。
・・・良く食べようとしたなぁアレ、茶色いの、かりんとうと間違えて。
一瞬忘れながらも、俺の脳内は余計な記憶と共にそれを思い出した。
そして、同時に出てくる疑問。

「風花さん、お子さんでも居るんですか?」
「!?!?・・・な・・・ななな・・・なんでそうなるの・・・?」
「い、いや、クレヨンって言ったら子供の遊び道具ですし。」
「まぁ、一般的に大人が使いそうなイメージは無いよねぇ。」
「・・・でも私が使うの・・・これで絵本を書くから。」
「絵本・・・ですか。」
「何を隠そう、風華は今売れっ子の絵本作家なのだ~ってね?」
「う・・・売れっ子って・・・。」
「あらあら、もう何作も出版してる癖に何を言うのかしら~?」
「は・・・恥ずかしいから止めて・・・。」
「もう風ちゃんったら~、かーわいい~。」
「・・・。」

どうやら、と言うか初対面数秒で何となく解ってはいたが、風花さんは相当な恥かしがり屋のご様子。
最初のイメージは一体何だったのか、さっきから赤面してる顔しか見てない気がする。
何だこの、見た目と内面が一致しない破壊的なギャップ。
絵本ってのもまた乙女っぽい。
・・・と言うかだ。

「絵本を出してるって・・・普通に凄い事じゃないですか。」
「そ・・・そんな事無いよ、たまたま親の紹介でやった仕事が、偉い人の目に留まったってだけで・・・。」
「雑誌にも載ってる癖に?」
「余計な事言わない・・・インタビューだって相当緊張したんだから・・・。」
「・・・もはや別次元の話だな・・・。」

売れっ子と言うからには、それなりの知名度なのだろうか。
いや、そうでないにしても、自分の出した本が売れると言うだけで、それは凄い事だろう。
少なくとも、本すら出せない俺には、そう感じられた。

「今や彼女の絵本を手に夜を過ごしてる子供が居るわけだから、凄い話だよねぇ。」
「そ・・・そんなに話を大きくしないでよ・・・余計に恥かしい・・・。」
「・・・でも、普通に凄い事っスよ、本の世界ってのは狭き門ですから・・・絵本であれ何であれ・・・今も売れてるなんて。」

そう、漫画だろうが小説だろうが、本の世界は本当に狭き門だ。
売れなきゃそこまでだし、売れてもそれなりじゃ食っていけない。
要するに、売れようが売れなかろうが、茨の道。
そんな道を彼女は歩き、今売れっ子と言う位置に居ると言うわけなのだから。
ジャンルは違えど、この時、俺はそれに憧れのような物すら感じていた。

「・・・もしかして、春日井君も絵本書いてる人?」
「いや、俺は小説家・・・志望でいいのか。」
「へぇ・・・長い文章は私には書けないな・・・それだって凄い事じゃない。」
「長ければ良いってモンじゃないっスよ、どんなに長く書いても伝わらなきゃ意味が無いですから。」
「・・・まぁ、そうだね。」
「俺の小説なんてそんな趣味みたいなレベルで、下手の横好きっスから、そういう人が別次元に、ね。」

何せ、彼女のような成功例はほんの一握りだ。
失敗例は星の数ほど居る。
俺も言うなればそんな例の一つ。
いや、俺の場合は挑戦すらしていないのだから、それ以下かもしれない。
と、内心ネガティブな心境になりつつあった俺だったのだが。

「・・・でも、私は絵が好きだったからここまで来れた。」
「・・・え?」

その言葉に、つい声を上げた。
まるで、俺に対する励ましの様な言葉。
いや、多分そうなのだろうな。
俺に優しい笑みを送る柳野さんに、そんな思いを感じた。

「要するに、君と似たようなもん、コイツの場合は下手じゃないけどね。」
「・・・初めて描いた絵本に、感動してくれた人達が居たから、かな・・・絵が好きなだけで、取り柄の無い私でも、誰かの役に立てるんだって。」
「・・・それで、絵本作家に?」
「うん、やっぱり絵を描くのが好きで・・・好きな事を仕事に出来るって、楽しいに決まってるって思ってさ・・・実際、理想的な仕事場だったし。」
「・・・好きだから・・・ですか。」
「うん、好きだから、描き続けられるものでしょ?」

好きな事、趣味をそのまま仕事に。
それは、当時の小説家のみを志してた俺の思想そのものであり、在り来たりだが、誰もが願う事。
だからだろう、語る風華さんの目は、どこか子供の様に見えた。

「まぁ・・・絵が好きで、偶然絵本の話が来て、きっかけと努力があったとは言え、それで作家になっちゃったってのはホント凄い事だけどねぇ・・・アンタが天才なのは事実だよ。」
「て・・・天才は言いすぎだよ・・・。」
「普通の段取りじゃありえんでしょ、アンタの場合無名からだし、スカウトだし、彼の言う通り、好きなだけじゃやってけない狭き門なんだからさ。」
「う・・・。」
「・・・この自信の無ささえ補えれば、もっと良くなるんだけどねぇ・・・。」
「本質を直すのは難しいよ・・・私空みたいに図太い神経無いし・・・。」
「なにおう!?私のどこが図太いんだ!?」
「「・・・もう色々と。」」
「がーん・・・。」

――その後、クレヨンの場所へと案内するまでは、彼女の絵本の話題で持ちきりだった。
今月末には新作も出すらしく、クレヨンはその為の練習用なのだとか。
天才で努力も出来るのだから、彼女が絵本作家になれたのも納得してしまう。
そして、絵が好きだったからこそ、彼女はここまで続けられているワケで。

・・・俺は、モノを書くのは好きだ。
だが、それだけでは小説家にはなれない。
好きであることは原動力でしかない、努力も才能も、きっかけもきっと要る。

『私は絵が好きだったから、ここまで来れた』
だとして、俺はどこまで、小説が好きなのだろうか?
俺が努力をしたとして、どこまでいけるのだろうか?
彼女らと別れた後も、バイトが終わった夜の帰り道も、俺はずっとそんな事ばかりを考えていた。

第二話 続く。
 

季節外れのベロペロネ


―なぁ姫。
・・・なんや、人が気持ち良く寝てるっちゅうのに。

―将来の夢はなんや?
将来の夢やて・・・んなもん。

―・・・うち、お母さんみたいな人になりたい。
―母ちゃんみたいな?またおもろい事言うなぁこの子。
―ホンマやもん!お母さんみたいになりたいんや!

・・・この声は・・・うち?
突然に聞こえた自分の声に、うちは目を開ける。
すると、その先には、やっぱりうちが居た。
いや、正しくは、小さな頃のうち。
いつもの夕焼けが綺麗な散歩道を、とても楽しそうに歩く自分。
そして、その隣を歩くのが。

―おもろい所はもう、ウチとそっくりや。
満面の笑みで微笑む、母ちゃん。
・・・ああ、とするとこれは夢なんやな。
夢なのに、あの手の暖かさを感じるなんて、変な話。
まるで見送るように、姫子は二人の背中をじっと見ていた。
小さくなって、消えていくまで、ずっと。

―第二話「母の面影」

「―・・・わお。」
「・・・んっ・・・。」
「・・・おはよう。」
「・・・・・・ここはどこや?」
「は?見ての通りだと思うが。」
「・・・ああ、ウチの家・・・か。」
「どこがお前の家だ?俺の家だろ。」

―時刻は午後11時。
悩める青年こと、春日井康太こと俺が自宅へ帰った後、すぐさま待っていたのは、風邪で倒れた姫子の看病だった。
しかも、おとなしく寝てればいいものを、タオルを取り替えようとした途端に起きやがった。
目と目が合う瞬間なんとやらの状況、相手が相手だけにロマンスは無いが。

「・・・なんか頭重い、熱い。」
「そりゃそうだ、風邪引いてるんだからな。」
「・・・今何かしようとしたやろ。」
「見ての通りタオルを変えてやろうとしたんだが。」
「・・・ホントやろな・・・ボタン一つ開いてるけど・・・。」
「自分の寝相の悪さをいい加減自覚しろ、そして俺はいつまでロリコン扱いやねん。」

・・・さて、いきなりすぎるとか思う人々の為にあえて説明すると、この馬鹿は昨日の夜、このクソ寒い冬に腹を丸出しで寝ていて、この様である。
本当にそれだけの至って普通な理由である。
こいつの寝相は相当に異常だが。
そりゃ風邪も引く。

「・・・今何時?」
「午後11時。」
「・・・コータがバイト行ったのを見送った後寝たから・・・あれ?」
「・・・時間も解らなくなるほど寝ぼけてるのか?」
「・・・いや・・・一瞬『なんでコータがおるんやろ』おもて。」
「・・・こりゃ重症だな・・・。」
「ちゃうわ!夢を見てただ・・・け・・・っくしゅっ。」
「おま、人の目の前で!」

そんな言葉も空しく、放たれるくしゃみと、その勢いで放たれるタオルの二重攻撃。
俺は華麗にくしゃみを回避しつつ、額から飛んだ熱いタオルもキャッチ、そして水の入ったタライに入れると言う、自分でも驚きのファインプレイで切り抜けて見せた。
どうやら風邪はそれなりに重いらしい、顔もまだ赤いし、頭の方も少々やられている様だ。
起きたばかりなのもあるだろう、まだ目がしょぼしょぼとしている。
時間が時間だけに無理も無いだろう、子供の寝る時間はとっくに過ぎているのだから。

「・・・鼻・・・ティッシュどこや・・・。」
「ほらティッシュ、それとこれ付けて、起き上がらず大人しく寝てろ。」
「つめたっ!」

鼻をむずむずとさせながらティッシュ箱を探そうと起き上がらんとする姫子。
俺は仕返しの意味も込めて、勢い良く冷たいタオルをその額に貼り付け、姫子専用ベッド(元俺専用)に再び寝かせた。
・・・ちなみに言い忘れていたが、前々から姫子は床布団からベッドへと昇格している。
そして俺はその影響で床布団、文字通り、引きずり落とされたと言うワケで。
家主形無しもいい所だ。

「・・・もうちょっとあったかくしろやっ!」
そんな俺の優しさなど知らず、コイツは文句を言い続ける、この図太い神経にはもはや呆れを通り越して大物感すらある。
「あったかくしたら熱取れないだろーが。」
「それはせやけど・・・。」
「夕飯食って無いだろ、俺もこれからメシだからうどんでも作ってやる、どーせ腹が減って起きたんだろうし。」
「・・・。」
「・・・なんだよ、その顔。」
「・・・コータが優しい・・・!」
「お前の中で俺は病人にメシも食わせない鬼畜人か・・・?」

信じられない、と言わんばかりの顔でそんな事を言う姫子に若干ショックを受けつつ、俺は台所へと歩いていく。
・・・普段から優しくしている・・・とは思うのだが。
いや、絶対普段から俺は優しいお兄さんである。
間違いない。
今どこからか『気のせい』と言う声が聞こえた気もするが、んなもん気にしない。

――そんなこんなで10分後。

「はぁ~おなか一杯や・・・ごちそうさま~。」
「・・・おそまつさま。」
「しかし夜こんなに食ったら太ってしまうやないか・・・。」
「・・・とか言いながらうどん2玉食ってるじゃねぇか。」
「う・・・うっさい!せ、成長期なんや!」
「いやまぁそりゃそうだが。」

よほどお腹が空いてたのか、姫子は2玉もの玉子とじうどん(俺作)をわずか10分で食べ切ってしまった。
その食べっぷりからは、やはり気品も無ければお嬢様と呼ばれるオーラ的なものは一切感じられない。
元からそんな事は思ってない俺には、コレが自然な光景である事は事実なのだが、お嬢様だと言う事を念頭に入れておくと、これは何とも可笑しな光景に見える。

「うどんをあんな勢いで食べるお嬢様は、この世にお前一人だな。」
「そもそもお嬢様はうどん食べへんと思うけどなぁ・・・。」
「おおう、自覚があったのか・・・。」
「自覚くらいあるわい、家が家だけにな、飯でうどんが出た事なんて一度も無いし。」
「・・・まぁ想像が付かんな、お金持ちの家族がうどんを囲んでる姿は。」

汁までご丁寧に飲み干し、両手を合わせる姫子。
これを家族全員でやっていると考えると、ギャグにさえ思える。

「汁まで飲むとは・・・ホントにうどん好きなんだな。」
「おう、3食うどんでもええで、まだまだ一杯あるんやから。」
「それはさすがに勘弁・・・そこまで好きな理由がわからん。」
「何でや?うまいやんうどん。」
「・・・ホントにお嬢様かお前・・・?」
「育ちだけはな~。」
「自分で言いますか。」
「自分がお嬢様なんて考えた事はあらへんからな。」
「・・・さいですか。」
「あ~、お腹一杯食べたら眠くなってきた・・・。」

満足げに顔で腹をぽんぽんと叩き、そのまま再びベッドへと倒れこむ姫子。
・・・確かに、考えた事が無い奴でないと、こんな動作は出来ないな。
自然に感じるのはきっとその所為だ、俺は深く納得した。
好きでなったお嬢様ではない、と言う以前の発言もあったし。

「・・・幼稚園の頃な・・・風邪を引いた時、良く食わせて貰ってたんや、うどん。」
「?・・・急に何の話だよ。」
「うっさい。―うどんが好きな理由を話してやる言うねん、懐かしい話も添えてな。」
「懐かしいって言う程の歳を重ねてない気が・・・。」
「うっさい、だまってきけ。」
「へいへい・・・。」

再び額に冷えたタオルを置くと、今度は文句一つ言わず、代わりに何故か話を始めた姫子。
眠いんじゃないのか?とツッコもうとした俺だったが、今度こそ殴られそうだから止めた。
そして、俺が黙ったのを確認すると、掛け布団を肩の辺りまで掛け直し、姫子は続きを話し始めた。

「・・・母ちゃんがな、良く作ってくれたんや、消化にも良いし、温まるって。」
「・・・母ちゃん?」
「せや・・・優しくて強くて、誰にでも平等で、うちの憧れの人や。」
「・・・憧れ・・・。」

姫子からそんな言葉が出るなんて驚きだ、とつい出そうになったが、俺は急いで口を閉ざす。
そもそも、姫子が自分の事を話すなんて事のほうが、よっぽど驚きなのだから。

「館の中でも、色んな人から慕われとった、ウチも、そんな母ちゃんが大好きやった。」
「・・・。」
「・・・そんな母ちゃんの味に・・・少し似てたんや。」
「俺は早くもお袋の味を取得したワケか。」
「・・・まだまだや・・・似てるだけ、2ミリ程度な。」
「さいですか・・・。」
「ああ・・・アカン・・・もう寝る・・・おやすみ。」

と、恐ろしく短い昔話(?)を終え、姫子はそのまま瞳を閉じ、眠り始めた。
夢って・・・そういう事か。
俺はこの時何となく、姫子が突然昔話をした理由を理解していた。
何度も言っている気はするが、コイツはまだまだ子供なのだ。
父親はともかく、母親が恋しくもなるのだろう。
俺は姫子を起さぬ様に、静かに食器を片付け、着替えた後、何をするわけでもなく、死んだかのように眠りに付いた。

―今思えば、この姫子の昔話で、気づくべきだったと思う。
姫子が何故、『懐かしい』と言ったのかを。

――翌日、午前7時。

―ピンポーン。
目覚めの音になったのは、時計のタイマーではなく、来客のチャイムだった。
重い体を起こし、彼女はドアの前に立つ。

「はい。」
「―綾咲です、呼ばれて飛び出ましたよ~。」
「・・・貴女も人の都合を考えない性質ね・・・幾ら頼んだとは言え・・・速すぎ。」
「仕事は無駄に素早く、それが私のモットーですからっ!」
「・・・的確にって直しなさい、その部分。」

新聞記者の朝は早いとは言うが、何も休日の起床が早くなくてもいいものを。
とは言え、頼んだのはこちらだから、今更帰れとは言えない。
静香は文句を言いながらも、扉を開け、速すぎる来訪者を招いた。

「いやぁ、相変わらず寂しい部屋ですねぇ。」
「貴女の部屋が賑やか過ぎるだけ。」
「そうですかねぇ。」
「・・・まぁそれはともかく、調べた結果を教えてくれる?」
「ああ、はいはい、ここに招かれたのは久しぶりだったものですから、つい懐かしく、あっ、そうそう、ついでに今度の新作の話とか聞かせて貰えません?ネタにするので!」
「変わらないんだから・・・その自由気ままな性格。」
「えへへ~。」
「褒めてないわよ・・・もう眠いから早く。」
「・・・あ、昨日仕事でしたよね・・・出直しましょうか?」
「来る前に考えて欲しかったわね・・・・それ・・・。」

こちらもこちらで部屋に文句を言いながら、いそいそと上がり込み、部屋主より早く部屋の真ん中へと駆け込み、テーブルの前へと座った。
相変わらず遠慮を知らない子だ。
此処での場合、上には上が居るが。
とりあえず、コーヒーは出さない事にした。

「・・・まぁ、此処まで来たからには聞いてから寝るわ、どうだったの?」
「―当たりも当たりも大当たりです、古い新聞を調べたら出てきましたよ。」
「・・・普段新聞なんて読まないから不安だったけど、本当にあったのね。」
「それなりに貴重な資料なので持ち込む事は出来ませんでしたが、確かに静香さんの言う通りでした。」
「・・・。」
「資産家『西城勇次郎』氏の妻、西城平子、旧名荒城平子さん・・・いえ、今はもう旧名の方に戻っているでしょうから、荒城さん、と呼ぶべきでしょうか。」
「と言うと、やはり?」
「ええ、そして新聞は5年も前のものです・・・記事が正しければ、この二人は既に離婚してます。―親権がどちらに行ったかは解りませんが。」
「・・・そう。」
「・・・姫ちゃんの家出の理由は・・・これなんでしょうか?」
「多分違うと思うわ、これが理由ならその5年前に家出してるでしょ。」
「・・・そう、ですよね・・・。」
「けど・・・関係無いとも言い切れないわね。―理由にまで首を突っ込む気は無いけど。」

メモを手渡し、調べた内容を言い終えた後、彼女はどこか深刻そうな表情で、顔を俯かせた。
取材の為ならと、自身の感情を押さえ込む記者が多い中、感情にまっすぐな新聞記者は中々珍しい。
とはいえ、それではいけないのが記者の世界で、それが必ずしも良い事とは言えないが。
少なからず、一人位こんな記者が居てもいいものだとは思う。

「・・・それに、そこら辺の件はコータ君に全部任せてるのよ、彼は本格的に巻き込まれつつあるし。」
「助けないんですね・・・。」
「彼には良い刺激になるもの。」
「刺激・・・ですか?」
「最近色々と悩んでるみたいだし、女の子が頑張って前に進む姿を見てけば、何かしら感じる物もあるでしょう、一緒に成長して行けそうな気がする。」
「・・・何か静香さん、お母さんみたいですね~・・・。」
「もう自分が保護者の立場だと解ってるからね。」
「出来の悪い子供を持つと苦労するとか?親孝行して無さそうですもんねぇ康太君・・・。」
「誰もそうは言ってないけど・・・貴女は本当に発言に容赦が無いわね。」
「そうですかね?」

両目を?にして私に問い返す彼女の顔は、全く悪気などは無く、それは純粋な問い。
腹黒さはありながらも、彼女は俗に言う天然の部類だと私は思う。
発言も含め、彼女は色々常々真っ直ぐだし。
故に衝突しやすいが。

「まぁそれは置いといて・・・もう片方の件はどうしたの?」
「あー・・・さすがにプライバシーですので無理でしたね。」
「駄目元だったけど、諦め速いわね。」
「無茶言わないでくださいよ、こっちは探偵じゃないんですから・・・。」
「それもそうか・・・ありがと、とりあえず確認出来て助かったわ、気分スッキリ。」
「はい、こちらも興味深い情報を得られて何よりでした。―でも静香さん、一つ聞きたいんですけど。」
「何?」
「どうして、そこまでして平子さんに会いたいのですか?」
「・・・本当に容赦無く聞くわね、そう言う所は記者らしい。」
「すみません・・・でもちょっと興味があるのですよ、一小説家と一資産家の妻が、どういう経緯で知り合ったのかを。」
「・・・面白い話なんて何も無いわよ。―ただ。」
「ただ?」
「―私がデビューを果せたのは、あの人のおかげなのだから、そのお礼が言いたいだけ。」
「本当に・・・それだけですか?」
「本当に、それだけ。」

いや、細かく言うのであるのなら、それだけではないのだろうが。
私は眠気からか、細かく話すのを面倒臭がり、早々に彼女を追い出した。
気分がスッキリしたら、押さえ込んでいた眠気が爆発する様に襲い掛かってきたのだ。
それに抗う術など無く、私は直ぐに布団へと倒れこみ、眠りに付いた。

―消え行く意識の中で、過ぎる記憶は二つ。

まだ未熟だった私の背を押す優しい腕と。
足を挫いた私を叱り、立たせてくれた彼女の笑顔。
あれらが無かったのなら、今の私は此処には居ない。

・・・思えば見間違える事など無いのだ。
彼女の顔には、確かにあの人の面影が残っているのだから。

テレビが消える様に、私の意識は一人の少女の顔を最後に途絶えた。

第二話 続く。
 
プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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