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太陽と向日葵 -san of san- (ちょこっと修正版

―あなたは、遠い。

こんなにも姿はハッキリと見えるのに、どんなにその身体を伸ばそうと、その距離は変わらない。
遠くて、遠すぎて、手を伸ばす事さえ諦めてしまいそうな程に。
もっとも、近づいて触れたとしても、焼き焦げて灰すら残るまいが。

だからあなたは孤独に在る。
何者も傷つけぬ様、焦がしてしまわぬ様、遠く在るのあ。

―そんなあなたに、私は恋をした。

だから灰になっても構わない、どこまでも身体を伸ばして、あなたに近づこうと思う。
それが例え、あなたを悲しませる結果だとしても。

―だからもっと光を下さい。
少しずつでいい、あなたに届く様に。

太陽と向日葵
-san of san-

――序章。

「・・・何でこんな夏に着ちまったんだろうなぁ。」

我此処に在りと言わんばかりの太陽が、眩い光を照らしながら、僕を見下ろす。
・・・いや、太陽は僕の事など見ても居ないのだろうが。

男は畑しかない、草だらけの道を歩きながら、そんな意味不明な自己険悪に襲われていた。
しかし、そんな気分にもなると言うものだ。
何せ、男は全てを棄てて着たのだから。

長年勤めていた仕事も辞めた。
恋人とも別れた。
携帯のアドレスも、全て消した。
家族とは、元々縁を切ってる。
マンションも出て来た。
金まではいかなかったが、それ以外の全ては棄ててきたつもりだ。

つまるところ、今の僕には何も無い。
否、何も要らなかった。
何も無いのが、良かった。
言わば、この田舎町と同じだ。

何も無い、彼にとってはそれが素晴らしかった。
都会の喧騒も、上っ面を合わせて付き合うだけの友人も、五月蝿い上司も、その他もろもろ、此処には無い。
在るのは草木に山、畑、何処までも蒼しかない空、風と草の揺れる音だけが鳴る、静かな世界。
そんな清々しさを考えれば、自己険悪な気分も直ぐに晴れた。

・・・しかし、本当に何も無い所だ。
獣道の辺りを見渡しながら、男は思う。
日本の原風景とでも言おうか、都会と比べるとタイムスリップでもして来たかの様だ。
テレビで見るのとは全く違う、想像以上、圧倒される存在感。
自分の、いや、人間の小ささが良く解る。

さして風景の興味の無い男だったが、都会からのこの大自然。
そう感じるのも無理はなく、男はしばらく、そんな自然に見惚れていた。

『何も考えず』ただ大自然を前に立ち尽くす。
それこそが、男のやりたかった事。
その為だけに、全てを棄てて此処に着た。

端から見れば、何て可笑しい考え。
変人どころか、狂人だ。
勿論、後悔が無い訳ではない、あったからこその自己険悪だろう。
ただ、それ以上に、男はこの魅力には勝てなかったのだ。

そういう意味で、男は目的を既に果していた。
勿論、達成感など無い。
何せ、ただ逃げてきただけなのだから。
しかし、清々しい気分ではあった。

出来る事なら、ずっとこうして、何も考えずに生きて居たい。
そんな夢を見てしまいそうな程に。

とはいえ、夢は夢で。
どこへ居ようと、何かを考え、しなくては、人は生きていけない。
本当に何も考えないなんて事は、出来ない。
生きている以上は、何かを考え、何かに悩まされて生きる。
考えるのを止めるには、その脳を止めるしかない。
つまりは、死ぬと言う事だ。

しかし生憎、僕はまだ世間で言う所の若造であり、寿命を全うするとしたら何十年とある。
どれだけの時間を潰せば終わるかも解らない人生を、考え、悩みながら生きていかなければいけない。

・・・そして、今も。
無心で居られたのはほんの数秒。
また、考えている。

いっそ植物にでもなってしまいたいものだ。
風に揺れる木々を前に、男は羨ましく思いながら、溜息を一つ漏らした。

「―あの~。」
「・・・え?」

そんな、自分の世界に入り込んで居た所為だろう。
男は聞こえた声に、初めてその存在に気づいた。
振り向いた先に居たのは、一人の女性。

「こんにちわ~。」
「・・・こ、こんにちわ。」

栗色の長い髪を風に揺らしながら、此方に微笑む女性。
20代前半、もしくは20ちょうど位かもしれない、まだ少女としての幼さが残っている。
頭に付けた麦わら帽子、波を立てる白いワンピースが、そんな『少女っぽさ』に拍車を掛けていた。

地元の子だろうか?
いや、それはともかく。

「あの・・・何か?」

―今の一部始終が見られていたとすると、不審者扱いされているかもしれない。
かれこれ10分以上はずっと森を見ていたのだ、端から見れば怪しい以外の何者ではない。
かと言って、いきなり『怪しいものじゃございません』などとお決まりを言うのは余計に怪しくなる。

したがって出た言葉がそれだった。
だが、そんな男の不安は全くの杞憂で。

「これ、落ちてましたよ~。」
「・・・あ。」

男も直ぐに、それに気づいた。
彼女の両手に在ったのは、無地の黒ハンカチ。
声を上げた理由は他でもない、それが自分のモノだと解ったからだ。
汗を拭いた時にでも落としたのだろうか。
この暑さで無くてもボケて居たのだから、無理は無いかもしれない。

「・・・ありがとう、まさか落としてたなんてね。」
「いえいえ、お気になさらずっ。」

満面の笑みで手渡す彼女は、なんとも眩しかった。
まるで嘘を知らない、無垢な子供の様で。
作り笑いじゃこうはいかないな。
サービス業に居た男には、それが良く解った。

「でも、一体何をしてらしたんですか?こんな所に10分近くも・・・。」
「・・・ひょっとして、僕がずっと突っ立てた辺りから?」
「・・・えーと、ですね~。」
「・・・・・・。」
「あ、もしかしてお邪魔でしたか!?なにやら溜息を付いたのでチャンスかと思いまして!」

そして同時に、ハンカチを拾ったのが彼女で良かった、と思った。
他人である事も理由ではあるが、彼女なら知る知らぬどちらにせよ、この事をほかの人間へ話さないであろうと思ったからだ。
勿論、根拠は無い、知らないフリかも知れない。
だが、確信に似た何かはあった。

「・・・いや、ちょうど道に迷っててね、地図も無かったからどうしようかと思ってた。」

とは言え、正直に話す意味も無く、男は嘘を付く事にした。
強ち嘘でもない嘘だし、いいと思った。
何せ、ようやく思い出したのだ。
自分が、旅館を探している事に。

「なるほどー、それで、目的地は旅館で?」
「・・・え、そうだけど・・・どうして?」
「お兄さん、観光ですよね?都会人っぽい服装してるし。」
「・・・それで解るのかい?」
「はい、だってほら、見ての通り、何もありませんから~。」
「・・・あー。」

そう、それ(目的)すら忘れてしまう程に、ここには何も無かったのだ。
まぁ、娯楽をしに着たわけではないからそれで良いのだが。

「うん、この流れだと案内せねばなりませぬな大将!」
「(大将・・・?)い、いいのかい?ハンカチ拾って貰っといて何か悪いな・・・。」
「いえいえ、旅は道連れなんとやらと言いますでしょう~。」
「・・・それは心強いお供で・・・。」
「お任せあれ!地元人の力をとくとお見せしましょう!」
「・・・。」

どうやら、彼女の中ではそういう流れになっているらしい。
自信満々の表情で言う彼女を前に、男は断ると言う選択肢は出せなかった。
何より、本気で迷っていた男にとって、それが一番都合が良かった。

それにしても、思った通りの人柄と言うべきか、困っているとは言え見知らぬ男を連れて前を歩くとは、疑う事を知らない。
まぁ、それだけ何も無い、平和な村だと言うのだろうが。
陽気にスキップを踏みながら、前へ歩き始める女性の背中を見ながら、男はそんな事を思った。

「あ、折角旅をご一緒するんですし、自己紹介しましょうか!」
「え・・あ・・・うん・・・。」

否、どちらにせよだ。

「私、向日葵、日向向日葵(ひなたひまわり)と言います、以後お見知りおきを!」
「ひなた・・・ひまわり・・・。」
「変な名前でしょ?」
「・・・変だね、確かに・・・って自分で言うかなそれ。」
「いえいえ、気にしてませんから。―それに、好きなんです、この名前。」
「好き?」
「はい!だってほら、凄く前向きでしょ?太陽に向かって背伸びしてる感じで~。」
「・・・。」

この子は、自分とはまるで別の生き物。
それが、名前の通り前向き見える彼女『日向向日葵』の最初の印象だった。

全てから逃げてきた、僕とは違う。
彼女はきっと、ずっと真っ直ぐ生きてきたのだろう。
勿論、彼女の事などまるで知らない、会ってまだ30分未満だ。
ただ、そんな気がした。

そう思えてしまう程、透明で真っ直ぐな目をしていたのだ。

「さぁ!次はそっちの番です!お名前どーぞ!」
「え・・・ああ・・・僕は英次、秋月英次(あきつきえいじ)・・・短い旅だけど、宜しく。」
「あきつきえいじ・・・うん、エージさんって呼びますね~。」
「・・・エージじゃない、え・い・じ、だ。」
「解ってますとも、でもこっちの方が呼びやすいと思いません?」
「・・・ああ、そう。」
「そうです!さぁ行きましょうエージさん!いざ旅館を目指して!」
「・・・おー。」

これが、僕こと秋月英次と、やたら明るい彼女、日向向日葵との出会いだった。
我ながら変な子に絡まれたモノだ、と思った。
まぁ、それも短い時間。

それが終われば、後は呆れる程長い時間を静かに過ごせるだろう。
だから今は、この騒がしさも楽しんでおこう。
再び前を歩く彼女、向日葵の鼻歌に耳を傾けながら、男、英次はその後を再び歩き始めた。

短いと思っていた、長い旅路を。

序章 終
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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