スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

季節外れのベロペロネ



―ごめんな、姫子。

真っ白な中で、母ちゃんの謝る声が聞こえた。
何故だろうか、とても悲しい声。
泣いているような、悲しい声で。

何でそんな声を出すの?
そう聞きたくても、声は出なくて。

―駄目な母ちゃん、許して。

そんな事無いのに、母ちゃんはダメなんかじゃないのに。
どんどん遠くなる声を、ただ聞いているしか出来なくて。

『いかないで』

自分の耳にしか聞こえない声で、ウチはそう叫んでいた。
もっとたくさん、話したい。
たくさん聞きたい事が、あるのに。
夢の中でしか、会えないのに。

季節外れのベロペロネ 第四話

『父にも色々』




「―ちゃん。」
「・・・ん・・・ぅ?」
「―姫子、起きろー。」
「・・・うぇ?」
「・・・おはよう、お嬢様。」
「・・・おはよう・・・?」
「・・・よくお眠りで。」

時刻は午前11時。
つまり、3時間程、コイツは寝ていたと言う事になる。
気合を入れて着たは良いが寝不足でダウンとは、子供らしいと言えば子供らしいが。
さすがにこのままは困る、と言う事で、俺達はついに眠り姫こと、姫子を起こす事にした。

・・・ついに、とは言うが、俺としては寝始めから起こすつもりだった。
内職とは言え仕事は仕事、これで食ってる人も居るし、俺等もそのクチだ。
職場に来て3時間居眠りとか、仕事を舐めてるとしか思えないし、引っ叩いてでも起こそうと考えもした。
しかし、姉ちゃんが『可愛い寝顔』と言ってそのままにしておいた結果、この時間である。

子供一人が仕事しなくて何だ、と言われるかも知れないが、何せ、仕事は3人分前提だ。
まぁ、正確に言えば2.5人分だけれど、それでも二人でやるには少々骨が折れる訳で。
何より、自分で言い出した事なのだから、しっかりしてくれなければ、こっちは遊ぶ時間も割いてまで仕事に勤しまなければならないのだ。
と言う事で、御起床願ったのだが。

「・・・んー・・・あれ?・・・ここどこ?」
「・・・駄目だコリャ。」
「ちょ、ちょっと寝すぎちゃったかなぁ・・・。」
「姉ちゃんが甘やかすからだよ、もー・・・。」
「あははー・・・。」

起きたはいいが、目覚めが悪いらしい。
ぼーっとした顔で辺りを見渡した挙句、このセリフ。
さすがにこれでは仕事も出来ない、俺は呆れ、姉ちゃんは苦笑い。
強がっても子供は子供、歳相応に可愛いモノである。
珍しい姫子が見れただけヨシとしよう。

とりあえず、目覚めに濃い目のコーヒーでも入れてやるか。
姫子が苦いのが苦手なのを知りつつ、俺は台所へと向かおうと立ち上がった。
その時の事だ。

―ピンポーン。

こんな時間に珍しい、来客の合図。
新聞はもう間に合ってるし、勧誘が来る様な所でも無い。
コータ辺りが暇になって来たか、大学時代の友人辺りか。
まぁ考えたって仕方ない。

こういうのは先に立った者負けだ、コタツに入ったまま出る気配の無い姉をチラりと見た後、俺はそのまま玄関へと駆け込み、勢い良くドアを開けた。
そして、すぐに後悔する。

「―ごきげんよう愛しい娘達!パパが着てやったぞ!!」
「げっ・・・!」

もう少し、良く考えておくべきだった、と。




「お父さん!来る時はいつも電話してって言ってるでしょ!家族とは言え迎える準備ってモノが・・・。」
「はっはっは、梨花はいつでも優しい子だなぁ、でも大丈夫!パパはどんな家だとしても何時だって住む準備万端さぁ!」
「はいはい、何度それでお母さんと喧嘩になったか考えてみてくれ・・・。」
「瑠花ぁ・・・それが聞いてくれよ・・・ママな・・・お前らの所に行くのもっと控えろってい言うんだ・・・。」
「当たり前だろ・・・月何回着てるよアンタ・・・?」
「そうだよ・・・私達だっていい大人なんだから・・・心配なのは解るけどさ。」

さて、上がりこんで早々、コタツに入り込んできたこの男について、どう説明するべきか。
突然現れたコイツに驚くまでもなく、俺と、多分姉ちゃんも、思考を回転させた。
いや、こんなもん、もう説明するまでも無く解るだろうし、俺等だってそう思うのだが。

「こ、これでも相当に抑えているつもりなのだけどなぁ・・・。」
「あー・・・解ったから泣かないでようっとーしい・・・。」
「今言った!うっとーしいって言った!梨花ぁ!瑠花がパパのことうっとーしいって言った!!」
「あーもう・・・お父さん泣かさないでよ瑠花・・・ただでさえうるさいんだから・・・。」
「梨花ちゃん!?」
「・・・えーと、誰?」

それでも、姫子が驚き顔でこう聞くのは他でも無い、目の前の涙目になりながら、子供の様に訴える人物が、一家の柱であるなどと、思えなかったのだろう。
ああ、俺達もそう思う。
しかし、事実は事実。

細身な身体に眼鏡が良く似合う童顔、スーツ姿にさわやかショートヘアーと、オッサンに見えないこのオッサンが、俺こと瑞希瑠花、姉ちゃんこと梨花の父、瑞希大地(だいち)であり。
「「・・・恥ずかしながら、父です。」」
結局、姫子にありのままを伝えた後、俺と姉ちゃんは大きな溜め息を付くのであった。

「あれ?二人とも、今、誰に僕の事を紹介したんだい?」
「気付いて無いのかよ!?・・・ここに居るだろ、ここに。」
「・・・え?」

そんな娘の心境など知る由も無く、どうやらようやく姫子の存在に気付いたらしく、その方へと視線を向ける父。
娘の事になると隣の女の子も見えないとは、相変わらずの娘一筋。

「・・・。」
「ど、どうも・・・初めまして・・・。」
「・・・り・・・梨花・・・瑠花?」
「ど、どうしたのお父さん・・・。」
「ま、まだ結婚も認めてないのに・・・どっちの子だ!?」
「・・・あー・・・。」

いや、ここまで来るともはや病気だろうか、それも末期の。
ありもしない事を真剣に話す父を前に、俺はそんな事を思い、納得した。

「お父さん・・・この子今11歳よ?子供なワケないでしょ・・・。」
「そ・・・そうか・・・いやしかし、バツイチの男が連れてきた子供とも・・・。」
「無いです。」
「は、はい・・・。」

それでも答えてあげる姉ちゃんは、やっぱり優しいと思う。
俺だったら、答える気にもならない。

「前に話したでしょ?アパートに新しく入ってきた子・・・姫子ちゃん。」
「ああ・・・ああ成る程!あの姫子ちゃんか!」

どうやら理解したらしい、納得した表情を見せる父。
そして。

「初めまして!君が姫子ちゃんだね!?」
「は・・・はい、そうですけど・・・。」
「話には聞いてるよ!娘達が世話になってる様で・・・この瑞希大地、父としてお礼を言うよ!」
「は・・・はぁ・・・。」
「ははは、緊張しなくていいよ、自分の父親だとでも思って話してくれたまえ!」
「・・・。」

ようやくと言うべきか、始まった自己紹介。
ハイテンションな喋りっぷりが何とも面倒臭く、姫子もこれには反応に困っているらしい、此方へ視線を向けて。ヘルプを求めてきた。
仕方ないので助けてやるとしよう。

「はいはい、自己紹介もここまでにしてくれよ父ちゃん、見ての通り今仕事中なんだ、向こうでゲームやってるか、向こうで大人しく座ってるか、どっちかで頼むぜ。」
「むぅ・・・仕事中に来てしまったか・・・それはすまん!お詫びに何か手伝おうか!?」
「「いいです!!」」

それも今気付いたのかよ、と思いつつ俺はソレを口に留めた。
これ以上話が続くのも面倒だし、何より、仕事が進んでいないのが問題だからだ。
『手伝うー!』と言う父を無理やりゲームが並ぶエリアに置き、俺達は再び作業を始めた。

後ろで犬の様な視線を感じるのが難点だが、正面で騒がれるよりは百万倍マシだろう。

「何か、変な父ちゃんやな。」

後ろをチラりと見ながら、姫子は呟く。
気付けば、眠気は完全に取れたらしい、まぁ当然と言えば当然だが。

「だろ・・・世界一変な親父だぜ。」

あんな五月蝿いのがハイテンションで現れれば、嫌でも眼が覚めるし、最悪夢に出る。
たまに、本当にたまにだが、父親のチェンジを願った事もあったモノだ。
愛されてるって自覚はあっても、時にはそれが鬱陶しいと思う事だってあるから。

「でも、あんな父ちゃんが良かったな。」
「・・・え?」

だからだろう、そんな姫子の一言は、俺の耳に良く通った。




「・・・ふぅ。」

綾さんが出て行ってから、約3時間、時刻は11時半。
綾さんが居たのは大体30分ほどだろう、思う程時間は取られず、疲れる事無く、俺は執筆する事が出来ていた。
無音の中、黙々とキーボードを打っては考え、考えは打って、物語を作っていく。
いつもより集中出来ているとさえ言ってもいいだろう、順調な作業。

だと言うのに、俺の気分は晴れない。
胸に得体の知れない不快感が宿ったまま、離れやしない。
それを誤魔化す為に作業に没頭した、と言っても過言ではないだろう。

ああ、原因は解っているんだ。
だからこそ、解決のしようも無い事も解っていて、俺を余計に憂鬱な気分にさせる。

そりゃ遅かれ早かれ、俺も姫子も、いつかは知る事だったかも知れない。
これが姫子が家出し、此処に来るに至った、全部の始まりだとしたら、知らなきゃいけない事になるだろうから。

でも、今知る必要は無かったんだ。
もっと後で、出来ればアイツと同じタイミングで知っておきたかった。
自分で言うのは難だが、俺は嘘が上手ではないし、誤魔化すのも上手くない。
だから正直な話、その時が来るまでの間、この事を隠し通せる自信が、無いからだ。

今は居ない新聞記者をほんの少しだけ恨みながら、俺は椅子の背に体重を掛けて、深い溜め息を付いた。

第四話 続く。
スポンサーサイト

季節外れのベロペロネ

「・・・えーと、本当にええの?」
「うん、断っても聞かないだろうし、良いんじゃねぇかな。」
「そうね、っていうかそんなに気を使わなくても大丈夫よ、姫ちゃん。」
「そうだとも!全部僕のおごりだ、今日一日は僕がパパだ!遠慮無く甘えたまえ!」
「・・・あんな感じだし?」
「・・・せやね・・・。」

午後1時、仕事もひと段落、と言う事で昼食。
家族水入らずを邪魔しちゃ悪いと思って、最初は断った。
けど、確かにそんな感じでも無くて、結局お言葉に甘える事にした。
そう、したのだけれど。

「それにしても・・・多くね?」
「・・・多いね。」
「多いで・・・。」
「いやまぁ、一度や二度の話じゃないから驚かないけどさ・・・。」

真ん中の寿司に始まり、ピザ、フライドチキン、オードブル、デザード・・・etc。
気合の入れ方が、違う。
これからパーティでも始めるのかと言われる様な、そんな並び方で置かれた豪華な食事を前に、見ているだけでお腹いっぱいになりそうだった。
さすがのこれには姉ちゃん達も呆れ顔。

「はっはっは、安心しろ娘達よ、パパは昔ブラックホール大地と呼ばれた男だ・・・遠慮なく残せ!好きなものだけを食えばいい!」
「余計気を使うよソレ・・・。」
「ってか何そのカッコわるいネーミング・・・。」
「はっはっは!好きに笑うがいい・・・その代わり全部食べたらパパにチューな!」
「結局ソレが目的かい・・・。」

対して、全く気にしていない様子で、大笑いをする大地さん。
ここまで来ると、バカって言うより、すごい。
それこそ、誠と張り合えそうなくらい。
世話好きな彼女の事を思い出しながら、ウチはつい笑ってしまっていた。

「それじゃ!いただきます!!」
「「「いただきまーす」」」

・・・ううん、笑ったのは、きっとそれだけが理由じゃない。
一緒の机で、家族みんなで、ご飯を食べる。
そんな当たり前の事が、嬉しくて。
嬉しすぎて、笑ってるんだ。

第四話「来客の多い日」




『・・・―もしもし、海原ですが。』
「あ、桜さんか・・・良かった、咲一さんが出たらどうしようかと・・・。」
『コータ!?』
「そんなに驚く事ですかね・・・電話番号教えたのそっちでしょ。」
『あはは・・・そうなんだけど、そっちから掛けてくれるとは思わなくて、さ。』

―気付けば、俺は電話の前に立ち、桜さんの実家の電話番号を打ち込んでいた。
気を紛らわせたいだけなら、ずっとパソコンにでも向かってればいいのに、何故か。
きっと、誰かと話したかったのかも知れない。
それとなくでいい、なんとなくでいいから、少しでも吐き出したかったのかも知れない。

かといって、誰かの所に行く気にもなれなくて。
そんなところに、丁度良く彼女の電話番号があって。
ほら、電話なら直ぐだしさ?

・・・とまぁ、それっぽく並べてみるが、誤魔化せるはずも無く。
相手に関しては、多分、一番話せると思ったのだ。

「・・・そういえば・・・お母さんの手術、大丈夫でしたか?」
『あ・・・うん!そういえば言い忘れてたね・・・うん、大丈夫、成功したよ。』
「そうですか・・・良かったですね。」
『元々難しくない手術だったらしいけどね・・・ありがと。』

そういえばって何だそういえばって。
などと自分にツッコみを入れるのは、この電話を切った後の話。
いや、お母様の安否が気になっていたのもまた事実ではあるのだが。
今聞く事だったか?と言う話、多分NOである。

『・・・それで、どうしたの?』
「え?」
『え?って・・・まさかそれを聞く為に電話した訳じゃないでしょ?』
「・・・あー・・・。」

しかしそこは桜さん、用件がそこではない事は理解しているご様子。

『しかも、何か元気なくない?』
「・・・そうですかね?」
『うん、声のトーンが低いって言うのかな・・・うん、低いんだと思う。』
「・・・。」
『さぁさ、話してごらんよ、お姉さんが答えてあげるからさ?』

本当、エスパーかアンタは。
もう何度同じ事を思ったであろうか。
とは言え、ありがたい事には変わりは無い。
情けない、とは思いつつ俺は甘える事にした。

「・・・例えばの話ですけど。」
『・・・例えば?』
「・・・例えば、そいつが知りたかった事が、そいつにとって、キツい結果になるとして・・・それを俺はうっかり知ってしまって。」
『・・・』
「その場合・・・俺は、それを教えるべきでしょうか。」

我ながら、なんとも解りやすかったのだろうと思う。
俺自身、そんなに友達は多い方じゃないし、こんな重い話を持ってる奴なんて、いやしない。
つまるところ、バラしてる様なモノなのだ。
もう少し例えらしい例えがあったものだろうよ、と言って後悔する、物書きの卵。

『うーん・・・難しいけど・・・私だったら言えないかな。』
「理由は?」
『そういうのってさ、ひょっこり現れた第三者が事実を教えちゃったとしても、ショックだけが先回りして・・・多分、辛いだけだよ。』
「・・・。」
『だからね、そういう事はその子自身で知るべきだと思う、例え知っていたとしても、見守ってあげる・・・それが第三者に出来る事、かな。』

結局は、自分が痛い目見るのが嫌なだけかもしれないけどね、付け足して、苦笑い(多分そんな顔してる)をする桜さん。
まるで、自分の事でも言っているかの様な、そんな気がした。
とは言え、その理由を聞ける筈も無く、俺はそれを口の中で留める。

『でも、どうするかはコータ自身で決めてね。』
「俺が、ですか。」
『うん、私の言う事全部鵜呑みにして、それで失敗したら何か罪悪感あるじゃん?』
「あー・・・ですね。」

でもすいません、多分そのまんま使います。
だって、納得しちゃったし。
などと内心こっちが罪悪感を感じつつ、俺は『ありがとうございます』と続けた。

『・・・やっぱり、コータは優しいね。』
「いやいや・・・桜さんの言う通り、自分が痛い目見るのが嫌なだけですよ、どうやったら面倒ごとにならないか・ってね。」
『・・・それでも、私はそう思ってるもの、だって―。』
「・・・だって?」
『ううん、なんでもない!それよりもさ聞いてよコータ、あの親父ったらさ―。』

なにやら意味深な言葉を残したまま、桜さんはその話題を切って、咲一さんへの愚痴を始めた。
愚痴とは言っても、それは他愛の無い話。
二人の仲が少しずつ戻り始めているのが解る様な、平和な喧嘩の一部始終。
こころなしか、愚痴を言っている筈の桜さんは、笑っている気がして。
聞こうとした言葉の続きを聞く事も忘れ、俺はそのまま耳を傾けていた。

・・・まぁ、正確に言えば『聞かなかった』が正しいか。
まさか、と期待してるみたいで嫌だしさ。




・・・結局、桜さんの愚痴(らしき何か)は一時間程続き、ようやく電話を切る事が出来た。
自分から電話しといて何だって話だが、これだけの時間が掛かったのは、流石に予想外である。
話す事自体は嫌いじゃないのだが、得意では無いからか、割と疲れる。

「・・・ふぅ。」

誰も居ない。
いや、元々俺以外誰も居ない部屋なのだが、それはさておき、一人溜め息を付く。

『見守ってあげる』

選択肢は決まった。
だが、問題は此処からだ。
アイツが帰る事を決めるまで、どれだけの時間があるかは解らないが、俺はその間、この秘密を守っていかなければならない。
アイツが知りたがっているであろうこの秘密を、アイツと隣り合わせで居る俺が、何食わぬ顔で知らんぷりを続けなければならないのだ。
教えてと言われても知らないと答え、ガキに嘘を付く。
それが果たして簡単かどうか、と言う事だ。

ああ、想像もしたくない。
あんな奴でもガキはガキ、しかももはや知らない顔、他人じゃない。
何より俺自身、アイツの事を嫌いじゃないと思ってしまっている。
生意気な口ばかり叩く意地っ張りな癖に、割と素直で。
歳の割には賢くて、でもどっか抜けてて。
何度後ろ向きになっても、最後にはちゃんと前向いて。

言えば言う程解る、俺は何だかんだ、姫子と言うガキが嫌いじゃない。
だからこそ、嘘を付くことに。隠し事をする事に罪悪感を感じてならない。
それが一番だって解りながらも、そんな感情を消せずに居る。

しかし『だったらどうする』と聞かれても、答えは無い。
結局、俺に分の悪い賭けをする勇気は無いのだ。

・・・アイツもまだ帰ってきてないってのに、ここでこんなに悩んでは、先が思いやられる。
何も難しい事を考えず、いつもの様に振舞えばいいんだ。
なるようになる、そう割り切って。

・・・よし、考えるの終わり。
時刻は既に午後1時前、もうすぐバイトの時間だ。

そう、頭の中にごちゃごちゃしたものを払い、俺はとりあえずシャワーを浴びようとお風呂場へ。

―ピンポーン♪

向かおうとした、矢先だった。
またもタイミング良く、鳴り響くこの音。
・・・ええい、この時間の無い時に。

「はーい、どちら様ですかー・・・?」

勧誘だろうが友人だろうが、とりあえずさっさとお引取り願おう。
もはやタイミングの良さにはツッコむまい、俺は早々とトビラの前へ向かい、覗き穴を見ることも無く開けた。
そのたった一つの動作をしなかった事で、この後驚かされる事になろうとは知らずに。

「―突然お邪魔して申し訳ありません・・・春日井康太様、でしょうか?」

・・・否、確かめた所で、結果は同じだったのかも知れない。
長く伸びた艶のある金の髪に、外国人なのか、柔らかな蒼い瞳が印象的。
顔もどこか日本人とは違う気がする、いや、日本人だと言われてしまえばそれまでだが、一つ解るのは、彼女が相当な美人だと言う事だ。

そんな美人が、何で俺の住所を知っていて、しかもわざわざ尋ねてきたのか。
当然、俺には面識が無い。
聞かずには居られまい、俺は質問に答えると共に聞く。
そして、直ぐに納得した。

「そうですが・・・あなたは?」
「・・・申し遅れました・・・―私は西城、西城葵(あおい)・・・西城姫子の母でございます。」

流暢な日本語で名乗ったそれは、聞き間違え様の無い、確かな言葉。
だが、俺は驚くよりも先に、こう思った。
今まで、どうして来なかったのか、と。

第四話 続く。
プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。