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月と太陽の出ぬ間に

月と太陽の出ぬ間に 

序章  

―・・・夢を見た。

それはとても幸せで
だけどそれはとても残酷で。

だれも来ないような、小さな公園
砂場しかないような、とても小さな公園。

そこはもう子供に捨てられた、廃れた公園。

削れて不細工な顔になった、可愛かったはずの、熊の石像。

そんな、限られた時間と、限られた場所で。

――・・・ぼくときみは、あるいていた。
てをつなぐと、きみのてはつめたくて。
「ゆーくんのおててはあたたかいね」って。

でもちがうんだよ。

きみのてがつめたいんだって、ぼくはいいたかった。

きみとぼくはちいさなてとてをつないで。ちいさなぼうけんをする。
すなにてをいれて、あなをほって。
たからさがしをするんだって。

きみがうごくのがにがてだからって、ぼくがたくさんすなをほるんだ。
そして、みつけるのは。
きみのちいさなて。

「あ。ゆーくんのおててだ!」

そういってきみはぼくのてをにぎってくる
つめたいけれど・・・あたたかくて。

――悠君!そろそろ晩ごはんよー!

「あ・・・おかあさんのこえ・・・ 。」
おかあさんの声は。ぼくたちのお別れのあいず。

「ごめんね、そろそろいかなきゃ・・・。」
「うん、またあした、ねっ?」
「うんっ。」

そう言って、きみはわらってゆびきりをする。
ゆびきりげんま~うそついたらはりせんぼんのーますっ。

―ゆびきったっ。

これがおわかれのあいず。
またあえるようにって。

そう・・・また会えるように・・・。

―― これは・・・夢・・・?

だとしたら・・・なんて嫌な夢だろう。
こんなにも・・・中途半端だ。

――


「・・・―こら、成瀬。」
「ん・・・んぁ・・・?」
「んぁ・・・?。じゃない、今何の時間だと思ってる。」
「何って・・・はっ!」

目を開くと、そこは絵画や不気味な像が置いてある、美術室。
顔を上げる俺を囲むように、笑うクラスメイト達。
授業中でありながら、絵の具の筆を持ちながら器用に寝ていたようだ。

・・・いや、それよりも。
あの夢は、何だったのだろうか?。
どこか懐かしいような・・・そうでないような。

「―聞いてるか?成瀬悠斗。」
「いでっ。」

担任であり、美術を教える柊先生に、俺は頭を小突かれた。
この人は美人だというのに、クールな性格のせいで台無しになっている。
とはいえ、本人はそんな事は毛ほども気にしていないのだから、余計だ。
貰い手が心配である。

「全く、まだボーっとしてるようなら、お前の顔に絵の具を塗りつけて紙にくっつけてやるぞ?」
「そんな漁師のような事をしなくても起きてますよ・・・」
「よろしい、また寝てるようなら今度こそお前の言う魚拓にしてやるからな。」
「・・・へい・・・。」

そう忠告して、柊先生は俺の席から離れていった。
ほかの授業ではなんとか寝ていられるというのに、この人の授業だけはおちおち寝ていられない。
そもそも時刻は12時、元から寝る時間などではない。
だが、俺にはそんな事は関係無い。
眠いから寝る、これは摂理だ。

「最近よく寝るなぁ悠。」
「・・・ん・・・いたのか直助。」
「僕は直太だ・・・。」
「なおたって呼びにくいんだよなぁ、直助のほうが愛嬌あるぜ?」
「お断りです・・・。」

俺の隣の席から何気の無い会話をふっかけてきた、この相手は土野直太。
俺は呼びにくいから直助と呼ぶことにしている。
顔はいいのだが、面食いであることから女性からは不人気な可哀想な奴だ。
もっとも、自業自得だが。

「そういえば直助、今日も中抜けには参加しないのかい。」
「ふっ・・・中抜けなんて時代はもう古い・・・これからは健康的に最後まで授業を受けるのさ・・・。」
「・・・さいですか。」

授業を最後まで健康的に受けることで何か身体的な+要素があるのだろうか
それを言うなら、「最後まで授業を受けて一日を健康的に過ごす」、という気がする。

―午後1時05分、学校裏門。

「・・・さて、今なら行けるか。」

―自分で言うのは何だが、俺はこの学校では希少種、世間で言う「不良」である。
春歐高校、緑と山が主に多いこの田舎風の町で、もっとも大きな学校である。
学力レベルもそれなりに高く、まぁどこにでもある優秀な学校とも一言で言える。
勿論、優秀な学校なので、優秀な生徒が多いためか、どこか不良という存在は肩身が狭いようで。
俺もこうやって隠れて学校を抜け出さなければいけない。

―それなりに高い学校の柵。
正門も裏門も柵で覆われ、普段は見張りも居るためなかなか出られないのだが。
今の時間は職員も外に出ていることがあるため、結構な確立で外に出れる。
裏門をこっそり覗き、人がいないのを確認して、俺は中抜けに成功した。

――

少し回り道をして、いつもの帰路を歩く。
こうして毎日をサボったり、サボらなかったり。
なんら変わらない毎日、なんら疑問に思わなかった日常。

だったと言うのに、最近の俺は、どうにもそんな事が気になり始めているらしい。
周りは段々と就職活動や大学を考え始め。
クラスの中でもよく大学の案内や、紹介を見ている奴を見る。
よくそんな1年先のことを考えられるなぁと、そう思いながらも。
それが羨ましいとも思ってしまっていたのだ。

だからだろうか、ワケもなくイライラとするのは。
我ながららしくないことに思考を回していたら、いつのまにか知らない道に迷い込んでいた。
空は雲がもわもわと怪しげに動いて、今にも雨が降りそうだというのに。
方向音痴が何も考えずに歩くモノではないな・・・。

後味の悪い夢は見るし、イライラさせられるし、道には迷うし雨には降られるわで。
最悪の一日か、思わず俺は呟いていた。

―今日は厄日か。

そんな、もうどこであるかもわからない、憂鬱な道中を歩いていた。
まさに、そんな時。

―にゃー。

「にー。」

・・・猫の鳴き声に混じって、明らかに女の子と判断できる声が聞こえてきた。

「にー!」
・・・―にゃー。
「・・・ぷーっ」

・・・一体何の宗教だろうか。
いや、それよりも。
・・・どこかで聞いた気がする。
そんな筈は無い。
覚えてる限りの俺の知り合いに、こんな鳴き声の奴は居なかった。
そう、居なかった筈なんだ。

だと言うのに、突然沸いた興味心は、俺を自然と声の方向へ歩かせていた。

序章、続く。


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月と太陽の出ぬ間に


序章「猫少女」


―・・・ニャー。
―ににっ・・・。

声の方向を元に歩いた先、そこには公園があった。
砂場しかないような、貧相な公園。
今時こんな公園が残っているのは、取り壊す金すらないからだろうか。
ご老人方が休憩にでも使う場所にはなりそうだが、とても子供が遊ぶには物足りなさを感じる。

―そう、まるであの夢のような・・・貧相さだ。
とはいえ、俺にこの公園に見覚えなど無い。
やはりアレは他人の夢なのだろう。
考えるのが面倒になった俺は、そういうことにした。
それよりも、俺は目の前で起こっているこの状況のほうが、今の俺には気になって仕方ないのだ。

―栗色で方に届かない程度のショートヘアーを風に舞わせ、綺麗な顔立ちに、整ったスタイル、ピンクのサンダルに黒のワンピース、なんとも夏先取りの格好をした、年上の様な空気を感じさせる、そんな女性が。
信じられるだろうか、目つきの悪い子猫と同じ格好で、真剣に見つめ合っているのだ。

正確に言うなれば、4本足の体勢で角度が頭から斜め25度くらい?だろうか
いや、こんな長々しい解説をしている場合ではない気がする、異様な光景。

とりあえずいろんな意味で偉業だ、この女性。
ああ違う、偉業の偉じゃない、異常の異だ。

「にーっ。」
―フーッ!!

と、眺めていると、俺に気づいたのか、それとも彼女を怖がってなのか、子猫は逃げ出してしまった。

「にー・・・、どうしてだろう・・・。」
「皆と仲良くすれば、きっと楽しいのにー。」

・・・そして猫も居なくなると、ついに女性は独り言を始めてしまう。
脳の辺りがよろしくないのか、それとも、コレは俺にツッコんでくれという一種のサインなのか。
・・・そんなわけは無いのだろうが、初対面に対して脳が、などと思うのも途轍もなく失礼で、俺はそう解釈する事にした。

「一人で居ても・・・寂しいだけなのに。」
「・・・一人でも寂しくない奴も居るさ。」
「ににっ?」

故に、ついにツッコみを入れてしまった俺が、そこには居た。
断じてナンパではない。
ツッコまずには居られなかった、としか言えない。
しかも、明らかにツッコんだ内容は間違いである。
これではただの反論、要するに会話参加への意思表示で。

そんな俺の存在に気づいた女性は、丸い瞳できょとんとこちらを見つめてきた。
言わずとも、こちらに疑問を抱いているのが解る。
色々問いたいのはこっちなのだが。
どう考えてもツッコみの内容を変えられる状況では無く、俺はそのまま会話を試みる事に。

「大体、今の子猫は寂しそうにしてたのか?一人になりたくなかったのか?」
「うーんと、『別に寂しくない』ってー。」
「それじゃ、そいつに無理やり、一人になっちゃだめーなんて言えないだろ?」
「そうなの?」
「そうなの。」

気づけば、我ながらアホらしいほど真面目に反論をしていた。
目をキョトンとさせて、俺の話を聞くその子は、どう見ても幼い子供そのもの。
いや、子供だとか大人だとか、そんな事を置いておくにしてもだ。
そんな反論に真面目に応えるこの子は間違いなく変人である。
害は、どう見ても無さそうだが。

・・・しかしながら、その変人相手に会話が成立してしまった俺も、十分変人と言う事になるのだろうか?
いや、俺は至って普通、ノーマルな高校生であって、ソレは無い。
コレは本当に気まぐれで、まぐれだと、今でもそう思っている。

「にー・・・一人は寂しいの。」
「寂しくない奴も居る。」
「だーれ?」
「俺。」
「にー。皆と仲良くしなさーいっ」
「別に寂しくない。」
「にー・・・素直じゃないっ」
「ありがとさん。」
「どういたしましてー・・・って、ほめてないっ!」
「ああ、ほめてないな。」

だが、なぜだかは知らないが、こうして話してみると面白い奴なのかもしれない。
変人は変人でも、中身は子供の様で、ヘタなノリツッコミも、ついつい笑えてしまう。
奴、は失礼かもしれないが、この精神年齢だと、コレで妥当にも思える。
見た目と中身のギャップにその精神年齢の低さは余計に感じられるのが現状であり。
これが見た目の通りだったのなら、逆に怖いからだ。
そういう意味では良かったのかもしれない、のか?

そんな、不思議とスムーズに進む、子供の様な猫語女性との会話に、若干楽しみを感じ始めた時だ。

―ゴロゴロ・・・。

何かの合図のように、変人への道を歩まんとする俺を引き止めるかの様に、雨雲が鳴り出したのは。

「雨か・・・、これだと猫も雨宿りして出てこないな。」
「あ、ほんとだー・・・。」
「傘、持ってきてないだろ?―猫も家に帰るし、お前も早く帰ったほうが良いぞ。」
「うん、今日はもう帰るねーっ。」
「ああ。」

と、砂を払って背中を向ける少女。
さすがに車の下に隠れるなんて事はしないらしく、帰る様だ。
ようやく終わるか、と安堵する俺。
だが、その油断が命取りだったと言おうか。

「・・・―あっ!」
「・・・?」

少女は急にこちらに視線を戻し。

「にっ!」
「なっ・・・!?」
あろうことか、ずいっ、とこちらに急接近してきた。
顔が近い、顔が近いぞ。

―精神年齢に合わない綺麗な顔立ちでこう近距離でじーっと見られる。
もちろんそんなものに慣れている訳はないので、照れるものは照れる。
通常なら驚くが当然の反応だ。

「・・・。」
「・・・。」

―そして数秒、そんな状態で女性は俺を見つめ続けた後。

「・・・な、何だよ?」
「ああっ、気づかなかったー。」
「・・・は・・・?」

閃いたように、右手のひらにもう片方の手をぽん、とグーでたたく。
良くある、そうだ!と何かが閃いた時のポーズ。

一体何を考え、閃いたのか、一人勝手に納得するように、少女はそう呟いて、全く話が読めない状態の俺の手をぎゅっと両手で握る、そして。

「―はじめまして、それと、お久しぶりっ・・・。」

その言葉と満面の笑みを残して、彼女はいそいそと走り去って行ってしまった。

―気づかなかった?久しぶり?

余りに突然の言葉に、俺は何一つ反応も出来ず、その背中を見送る事しか出来なかった。
・・・と言うより、その時点で、考える方に脳が全部行っていたと言うべきだろうか。

久しぶりって事は、どこかで会ったってことか?
だとしたら、覚えてると思うのだが・・・。
・・・自分で言うのはアレだが、俺は女性との会話が極端に少ないためか、女性との会った記憶は結構なこと覚えているつもりだ。

いや、女性云々だけに限らず、記憶力においては忘れっぽいと言われた事は無いし、俺自身も8年や9年前でも、昨日の事のように思い出せる自身はある。
だとしたら、彼女は・・・?
どうにもスッキリしない、俺は意地でも思い出すべく、頭を高速回転させんとする。
だが。

ぽつ・・・ぽつ、ぽつ。
「ッ・・・ホントに振り出してきやがった・・・!」

これまた謀ったかの様なタイミングでの、降雨。
傘も無い俺は、防ぐ術も無い。
要するに、あの雷雲は本当に合図だったワケか。

だとしたら、早く帰らなければ。
家の雷は、もう手遅れだが。
ホンモノの雷に打たれては洒落にならない。

考え事は後にしよう、思考回路の回転を止め、俺もいそいそと帰らんとした。
・・・のだが。
この時、重大な事実に気づく。

「・・・アイツに、帰り道聞くんだった・・・。」

そう、ここは俺の知らない公園で。
俺は、方向音痴なのだ。

序章、続く。

月と太陽の出ぬ間に

序章「雷妹とダンボールと・・・」

「兄さん・・・おかえりなさい?」
「・・・た・・・ただいま。」
「随分と・・・いい濡れ具合ですことねぇ・・・。」

ずぶ濡れの俺を迎えたのは、ぴくぴくと顔を歪みかけていながらも笑顔を守ろうとする妹の七海だった。
黄シャツに短パンとラフな格好の上にエプロンと家庭的な格好。
とはいえ、ソレ自体は別に珍しい格好ではなく、毎日食事を担当してる彼女にとっては仕事服のようなもの。
ああ、そこにはなんら問題無い。

だが、そんな彼女が手に持っているのは包丁。
いつもなら、包丁は置いて帰りを迎える彼女も、今日ばかりは違うようで。
ちなみに現在時刻は6時半。
下校時刻などすでに過ぎているわけで。

こころなしか、綺麗なロングヘアーがどこぞの戦闘民族が如く全部上に逆立ちそうである。
・・・つまり、殺る気満々。

「―言い訳はありますか?無いですよね?授業サボって飛び出しておいて、帰ってくるのが全授業受け、生徒会の仕事を終えた私より遅いとなったら、言い訳なんてありませんよねぇ?」

説明しよう、このお堅い口調に恐ろしく礼儀正しいこのお方は成瀬悠斗、つまり俺の妹、成瀬七海(ななみ)だ。
口調に反して、童顔で少し子供っぽい性格だが、成績優秀運動神経抜群クラスの人気者と、俺とは正反対のいい子ちゃんだ。

最大の特徴はその怒った時の凶暴さ、それと言ったらもう泣く子も黙る鬼のような形相で・・・。
というか、今まさにその鬼の形相一歩手前である。

「・・・七海、せめて俺の言い訳を聞いてはくれないか?」
「見苦しい言い訳でなければ、どうぞ。」
「・・・美人女性の先生に猫言語を教わっててな。」
「・・・は?」
「んで猫言語塾から帰ろうとしたら帰り道が解らなくて、雨に打たれて現在に至るのであった、チャンチャン。」
「・・・。」
「・・・マジだぞ?」
「兄さん・・・頭大丈夫ですか・・・?」
「・・・幻覚が見えて・・・七海の顔が鬼の顔にぶっ―!」

右レフトがクリーンヒット。
吐く、これは吐く。

「嘘を言わないで!」
「後半は嘘だが(多分)前半は本当だ・・・!」

・・・手本らしき猫とのやり取りを見ただけだが。

「・・・とにかく兄さん、今日はご飯抜きですからそのつもりで。」
「う・・・今日もかよ。」
「当然です、兄さんが中抜けを続ける限りはご飯抜けも続きますからね。」
「うう・・・七海はお兄さんのことを信じてくれないのか・・・本当に猫言語を習ったと言うのに・・・。」
「へぇ、じゃあやってみてください、猫言語で『こんにちわ』って。」
「・・・・・・にー。」
「・・・可哀想に、兄さん。」

哀れみの言葉をいただいたが、七海の顔は今すぐにでも笑いたいといったご様子だ。
我ながらも今のはミステイクだと思う。
恥ずかしい、心底恥ずかしい。

「まぁ、直太さんと仲良くご飯でも食べてきてくださいな、もちろん自費ですけど。」
「あいつ最近夕方から連絡繋がらないんだよなぁ、授業も最後まで熱心に受けていくし。」
「へぇ・・・兄さんも見習ったらいいわ。」
「アイツに見習うのだけは勘弁だ。」
「それだけ兄さんが不真面目なんですよ?もう少し自覚を持ってですね―。」
「へいへい、だいぶ前から解ってるよ、俺はやれば出来る子なんだから。」
「・・・それだけ言えるならそのやれる部分を伸ばして下さい、勿体無い。」

結局、頑張りも虚しく、呆れ顔で説教を貰うだけに終わってしまった。
昔からコイツは世話好きの説教好きだ。

・・・というか、いつまで手に包丁を持っているのだろうか。
恐いからやめて欲しい。

「まぁ、一人でさびしく食べてきてくださいな、はい、コレ傘。」
「・・・やけに小さいんですけど。」
「気にしない気にしない。さ、いってらっしゃい?」
「いってきまーす、って待てよ、せめて服を着替えさせてくれ・・・。」
「あははー。」

ああ、どうやら家に上げる気も無い様だ。
にこやかな笑顔の中にちょっとした悪意を感じる辺り、気のせいではないだろう。

「・・・このまま外に追い出すつもりだったのか。」
「いやだなぁ、そんなことするわけないじゃないですか?」
「恐るべし・・・やっぱりお―」

ドズッ!

今度は黄金の左レフトが炸裂。
モロで俺のみぞおちにクリティカルヒット、普段聞かない様な鈍い音が響く。
これはマジで吐くと思った。

「何か言いました?」
「な・・・なんでも無いっス・・・。」
「そうですか、それじゃ、着替えを持ってきますから待っていてください。」

そう言って釘を刺した後、俺に近場にあったタオルを投げてから、俺の部屋がある2階へと駆け込んで行った。
みぞおち殴っておいて更に『動くな』とは、よほど入れたくないに違いない。
・・・しかし、逆らえば家に上がれないどころか、このまま追い出されるやも知れない俺は、素直に待つしかなかった。

何故そうまでたかが妹に逆らえないのかと言えば、母親の居ない我が家での炊事洗濯、家事事情において全てを纏めているのがこの妹だから。
今となっては母よりも料理上手なコイツも、そんな自分の立場を理解してか、気づけばこんな上下関係が出来ていて。
この性格の悪さと暴力性が無ければ引く手数多だっただろう、我が妹ながら悲しい奴だ。

「兄さーん、着替えはこんなんでいいでしょうか?」
「お、おう、ありがとう。」

間も無く、2階から降りてきた七海はもっさりと外着1式持ってきてくれた。
・・・のだが。

「では、いきまーす。」
「・・・え?」

バサッ、バサッ、バサッ、バサッ、パサッ、ゴッ!

意味不明な合図をした直後だった、バスタオルから始まって、シャツ、Gパン、パンツ、靴下、そしてベルトが、とてもリズム良く飛んできたのだ。
しかも命中精度が恐ろしいことに、全部俺の顔面へ。
・・・もはや言うまでも無い事だが、投げて来たらしい。

「・・・七海・・・狙ったろ?」
「いいえ、ベルト以外はただ全力で投げました。」
・・・ベルトは狙ったんだな。
スナイパーですかアンタは。
「さすが大鬼・・・桃太郎もお手上げだぜ・・・。」
「・・・何か?」

満面の笑みとは裏腹に、ビリビリと殺気が伝わってくる。
その手には世界地図の分厚い本。
まさに鬼が手に持つ棍棒とやらか。
こんな笑顔な鬼が本当に居たら、桃太郎でも勝てはしないだろう。

「・・・すいません。」
「さっさと着替えていってらっしゃい?」
「はい・・・。」

逆らえば飯抜きなのはいつもだが、今の七海に逆らうと命(タマ)を抜かれそうだ。
七海の機嫌の悪さを感じ取った俺はおとなしく従い、素直に外出することにした。
もちろん、着替えることは出来たのだが。
せめてもう少しゆっくりしたかったものである。

――・・・ザー、ザー・・・。

雨が降り続ける外を、早速一人歩き出す俺。
食べに行くにしてもどこへ行こう。

考えるまでも無く、商店街しかなかった。
こんな何にも無い場所だし、そこら辺の食事処しか知らない俺に、選択肢は無かった。
・・・しかし、商店街までもう少し時間がある。

思考することも無くなったそんな時、俺はふと、さっきの女性の事を思い出した。
変な口調に変な態度、おまけに思わせぶりなあの言葉。
途切れていた思考を、俺は再び回し始める事にしよう。

「お久しぶり。」

・・・そう、この言葉が、どうにも気になって仕方ないのだ。
小さなころ生き別れになった初恋同士・・・とか。
あるわけねえ。
実は隠れた姉と弟です、とか。

さすがにそんなドラマのような設定も無いだろう・・・。
直太なら飛んで喜ぶあの出会いも。
俺にとってはただ謎が残るばかり。
結論も出ぬまま、俺は考えるのを止めてしまった。
考える意味も無い、そんな気がしたのだ。
何せ、知らず知らずにあの公園へ行った俺に、二度と彼女と会う機会など、多分無いからだ。

「・・・今日は大降りだな。」

―辺りはまだすっかり暗くなって、電灯の光だけが雨の激しさを物語る。
まだ6時40分だというのに、随分と暗く感じるものだ。

傘で視界が悪くなり、なおさら歩きにくい。
とはいえ、この雨にこんな時間帯では、人も歩いては居ないだろうが。
この地域は言うなれば田舎だし、ヤンキーが歩くには少し寂しい場所だ。
遊ぶ場所も遠く、メシを食う場所もまだ遠い。
静かなのも、悪くはない。
むしろ好きな方。

そんな、雨音ももう聞き慣れた道中。

―にー。

ふと、聞き覚えのある声が耳に入った気がした。
雨音の所為で聞き取りにくかったが、幻聴にしては、聞こえが良すぎた。
猫の鳴きマネをする女性の声。

―アイツしか、居ない。
確信に近い感覚を持ちつつ、俺は声が聞こえた方へと、視線を向けた。
すると。

体育座りで、傘を何かに差してあげている、女性の姿。
よく見ると、傘の下はダンボールのようだが。

いや、もっとよく見るべきはその女性。
猫の鳴きマネをする声、そしてあの栗色の髪。
もはや考えるまでも鳴く、俺はすぐにそれが誰であるかを理解していた。
そう、あの猫語を話す女性(少女でも可)。

雨でずぶ濡れなその横顔は、どこか悲しさを思わせる姿でありながらも、美しい印象を得てしまう。
本当、中身はあんなガキだというのに、勿体無い美人。
「・・・あ!」

そんな俺の視線に、女性もこちらに気づいたのか、傘を置いて振り向き、大手を振る。
とても嬉しそうな笑顔で。

彼女は、もうどれだけそこに傘を挿し続けたのだろう。
良く見れば、彼女の服は既にずぶ濡れで、もはや傘などあっても無くても同じだった。
だが、女性は寒さなどまるで感じていないのか、苦しい様子も見せず、満面の笑み。
雨などまるで、最初から受け入れているかのように。

そんな様子に、少しだけ不気味さと不思議な感覚を覚えながらも、俺は気づけば手を振り返していた。

序章、続く。

月と太陽の出ぬ間に


序章「再会?」

さて・・・どうこの状況を説明しようか。
いや、そもそもどうしてこんな状況になっているのかを、誰かに説明してもらいたい位だ。

俺の隣には、もう二度と会うまいと思ったあの少女が、雨でずぶ濡れになった姿で、ニコリと笑っている。
警戒心と言うモノを知らないのか、それとも、俺だからなのか、本当に子供の様な、満面の笑み。
・・・ああ、もはや何故ここに居るのかは聞くまい。
偶然が二度ある事など、良くある話。
そう考えれば、事は難しくないだろう。

問題は、何故俺に対して、何故こうも親しげにするのかと言う事。
そして、何故傘を差さないのかと言う事。

「あ、言い忘れてた!さっきの人こんばんわー。」
「さっきの人って・・・と言うか、俺とアンタがあったのは午後1時ちょいだぞ、夕方じゃない。」
「夕方だって午後だよー?」
「いや・・・いい・・・って、ちげえ!・・・どうしてそんなに濡れてるんだよ?」
「えっと、傘が無かったのだっ。」
「・・・いや、そこにあるじゃん、さっき手に持ってただろ・・・コレ。」

とにかく、これ以上雨に打たせるのは見ているこっちとしては気分が良くない。
俺はその傘を持たせんと、置いてある小さなピンクの傘を手に取ろうとする。
しかし。

「だめっ。」
「うおっ!?」

傘を持とうと伸ばした俺の手を握り、否定の意を示す少女。
声が出たのは驚き以外に他ならない。
そう、彼女は自分からこの雨に濡れていると言う事だ。

「だめって何でだよ、風邪引いちまうだろ・・・?」
「私はいいのだ、でもこの子達が風邪を引いちゃうのー。」
「・・・子達?。」

そう指を指すと、そこには、先ほどのダンボール。
中には、2匹の子猫が、小さく鳴いていた。
体長はおよそ12~3cm、まだとても幼い、目が開いたばかりくらいの猫だろう。
そんな小さな身体でこの雨の中、身を晒されたのなら、風邪なんかでは済まないかもしれない。
放っておけなかったのだろうか。
・・・ああ、きっとそうなんだろう。
今日が初対面だが、なんとなく世間知らずなオーラも流れているのが解るし、それが傘を差していた理由なら、何となく俺も納得してしまえた。
コイツ、人が良すぎる。

「・・・なるほど、傘を差さない理由は解った・・・だが・・・家で飼えるのか?」
「ううん、飼えないのだ。」
「・・・っ、何も考えてなかったのか・・・。」
「そうなるのかなっ?」
「・・・。」

あははー、と苦笑いする少女。
アバウトというかなんと言うか。
後のことを考えてない辺りは本当に子供だ、この子は。

確かに午後見た時は、人形のように整った童顔美人で、少し化粧をすればモデルにさえ見えるほどで。
・・・口調を除けば年上のお姉さんだったはずなのだが。
だが今はどうだろう、この無計画さは、まるでペットを飼いたいと急に言い出すガキとなんら遜色無い程に見える。
ついでに言えば、その特徴ある口調が更に子供っぽさに拍車を掛けているとも。

そんな脳内論議の結果、俺は『この子』を同い年の扱いにする事にしていた。
初対面のアレは、きっと気のせいだ。
きっと同年代からも幼いなんて言われているに違いない。
もはや女性とは呼べない、そう思ったからだ。

「・・・というかそれなら、傘を置いて帰ればいいじゃないか、わざわざここに居る必要なんて無いんだぞ?」
「・・・??なんでー?」
「何でーって・・・飼えないってんなら、傘を置いてやる以外できることが無いじゃんか、わざわざアンタがずぶ濡れになってまでここに座ってる必要なんて無いんだよ。」
「???」

目をぱちくりさせて「なんでー?」と言わんばかりに俺を見てくる。
どうやら雨が止むまでここに居座る気だったらしい。
いや、或いはそれ以上?
・・・やりかねない。

「あ、なるほどっ、傘を置いて家に帰ればいいんだよ、って事かっ。」
「・・・やっと理解したのか・・・。」
「うんっ、でも、やっぱ帰れないや。」
「どうしてだよ?」
「この子達が寂しくなるもの。」
「・・・呆れた奴、ホントに風邪引くぞお前・・・。」

ここまで人が良いと、尊敬云々よりまず注意すらしたくなるものらしい。
そんな余りのお人好しに対し、俺の口からは思わず本音が出ていた。

「にー、呆れられたのだー。」
「・・・一応聞くけど、自覚、無いだろ?」
「・・・無い?」
「ああ、無いな。」
「そっかー。」

だが、雨なんて当たり前に受け止めて、まるで雨なんて無いかのように笑う奴だ。
言った所で、帰りもしないだろう。

「・・・それで・・・このまま子猫とお喋りしてるつもりか?」
「うん、雨が・・・止むまで。」
「・・・お前・・・。」

だが、俺はこの時、なんとなく、この子をこのまま雨に濡れされるのが嫌だと思った。
明確な理由は未だに解らない。

―ただ。
笑っていたコイツの顔が、何故か一瞬曇ったのが、俺には解った。
それが、放っておけなかったのかも知れない。

「―・・・ほれ、傘。」
「ににっ?」

俺は自身が持っていた傘を、半ば強引ながら彼女の手に持たせていた。
またずぶ濡れになって、妹に叱られる、そんな事を解っていながら、面倒だと解っていながら。
ドラマじゃあるまいし、我ながららしくないことをしたと思う。

「・・・いーの?」
「気休めかもしれないけどな。」
「うん、ありがとっ。」

とてもうれしそうに、傘を振り回す少女。
そんなんじゃまた濡れるだろうが(元々ずぶ濡れだが)
そんな俺の心配をよそに、彼女は貰った傘を、自分が持っていた傘の下にいる子猫に見せて自慢をする。
猫にはそんな価値観など解るワケも無いが、小さく「ニャー」と返事をしていた。

「・・・ところで、その傘の御代代わりと言ってはアレだけど、一つ聞いていいか?」
「に、なぁに?」
「俺とアンタ、どこかで会った事があるのか?昔。」
「うん、とっても昔、だから・・・きっと覚えてないよっ。」
「・・・記憶力には結構自信があるんだけどな、名前、言ってみてくれるか?」
「わたしは~、ひなだよっ、太陽の陽に、小松菜の菜で、陽菜っ。」
「陽菜?・・・・・・すまん、やっぱり覚えてない。」
「あははー、仕方ないのだ、ずーっと前だからっ。」

俺の返答に、そう返して、少女、陽菜はまだまだ楽しそうに傘を振り回しながら、笑う。
覚えられて居なかったことは気にしていないのだろうか。
俺は多少なりとも覚えていないことを気にしているというのに・・・。

「・・・それじゃ、俺の名前はわかるのか?」
「ゆうと君?・・・下の名前は知らないのだっ」
「・・・あ、ああ、悠斗で合ってるな、上の名前は成瀬。」
「へー・・・なるせ~ゆうとっ。」
「なんでそんなリズム良く呼ぶ・・・・。」
「にはは~っ。」

しかしながら、よく考えると、こんなに女性と長く会話するのは初めてのような気がする。
とはいえ、そもそもその機会すら稀と言うか皆無なのだから、ある種当然なのだが。
何故だかは、当然知らない。
だが、午後会うまでは他人だったソイツに対して、自然と口はスムーズに動く。
午後に会った時もそうだった。
何故だかは知らない。
そう、知らないはずなんだ。

だと言うのに、俺はこの時、脳とは別のどこかが、陽菜に対して、確信に近い何かを感じ取っていた。

どこか懐かしさを持ったこいつと、どこかで会った事があるんだ、と。
世話を焼くのもきっとその所為だ、という事だろうか。
今だ曖昧ながらも、俺の心はどこか、再会を喜んでいる気がした。
雨に濡れる事さえ、忘れてしまいそうなほどに。

・・・とはいえ、肝心な事を忘れているわけではない。
ここに猫が居たら、コイツは延々と此処に居座りそうな気がしてならない、というか間違いなく居るだろう。
そこで、どうにかする為の案を、俺は陽菜にある提案した。
ここまで来たら、どの程度怒られようが同じだ。
ずぶ濡れの件の他に、もう一発大雷が落ちるやもしれない覚悟で。

「・・・うし、その猫、うちで飼うよ。」
「ええっ・・・だ、大丈夫なの?悠君家ねこ飼えるの?」
「昔は無理だったけどな、母親が猫アレルギーだったし。―でも今は平気だ、隠して飼えばバレやしない。」
「・・・で、でもっ。」
「いいから、お前も帰って、早く体を温めて寝ろ、これからもっと寒くなる・・・この夏に凍死なんて記事に書かれたら関わった俺まで恥ずかしいったらありゃしない。」
「うー・・・うん、わかったのだっ・・・。」
「よろしい。」

俺が取った選択、それはこの猫を拾う事。
幸い一軒家でアレルギーも居ない現在の我が家、つまり条件は整っている。
問題は・・・どうあの妹から隠すかと言う話だが。

「――あ、ねぇねぇ悠君っ。」
「ん?」
「・・・そのっ、たまにその子達に会いに行ってもいいよね?」
「あ?・・・ああ。いいけど。」
「わーいよかったっ、ありがとう~っ」

そんな俺の心情など知る訳も無いだろう、喜びを表現するかのように、俺の手をぎゅっと握り、左右に振る陽菜。
もはや女性とは呼ぶまい、そう思いつつ、そんな過剰に喜ぶ様子に、俺は溜息を漏らしつつ、満更でもなかった。
その手は、とても冷たく、死人の様。
だがそれとは対照的に笑顔は温かく感じられ、呆れながらも、こちらまで笑ってしまいそうになった。

「―んじゃ、俺はこいつら連れて帰るよ、お前も風邪引かないようにな。」
「はーいっ。」

みかん印のダンボールを持ち上げ、器用に傘を挿す俺。
帰り道もそう遠くない。
陽菜は相当うれしかったのか、俺が渡した傘を手に持ったまま離さない。
そんな姿に、傘を返せとは言えず、結果、俺は短い帰り道を、かわいらしいピンクの傘で帰る羽目となっていた。
・・・まぁ、七海の怒りを和らげるアイテムにはなりそう・・・か?。
いや、無い。
数秒での否定であった。

「それじゃ、またな。」
「うん、またねー。」

そして、留まる理由も無くなったお互いは、惜しむことなく別れを告げる。
俺は気づかぬうちに、自分が「また」と言っていたことに気づき、少し後悔した。
またこの面倒に付き合わばならないのか、と。
そう思いつつも、平凡でありながら退屈な今の日常が変わるのではないか、とそれを少し楽しみにしてしまっている自分が居たりするもので。
ああ、お人好しが移ってしまったんだな、と思った。

「あっ、悠君!」
「なんだー?」

少し小さくなった少女、陽菜は遠くからでも解る笑顔で、言った。
「―悠君が変わっていないでくれて、すごく嬉しかったよ!」
それだけを言って、今度こそ彼女は走り去り、見えなくなった。
当たり前のような雨音が、どこか寂しくすら思えるのは、彼女がそれだけ騒がしかった、という事だろうか。

―俺の記憶に存在しない少女、陽菜。
俺は本当に彼女のことを覚えていない。
最初から知らないのだろうか、それとも、彼女の言うように本当に昔の話?
だが、俺の感じたあの懐かしさは、決して気のせいではないはずなのだが。

―― 今日一日は、そのことで頭が一杯だったのは言うまでも無い。

なんというか、悔しいものだと思うのだ。
向こうは俺の事をずっと覚えていて、だけど俺は知らないなんて、どこか不公平に思えたから。

序章、終わり。
プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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