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月と太陽の出ぬ間に

第二話「親不孝?」

柳野と別れて、約30分。

家の前まで走って来た俺は、息が荒いまま、焦るように鍵を穴に入れる。
焦る事でもないの解っているつもりだが、お菓子を強請る子供のような心情が良く解る気がする。

そんなどうでもいい事を頭に過ぎらせながら、鍵を動かす。
異変に気づいたのは、その時。

―・・・鍵が既に開いている?

七海はまだ学校。
まさか泥棒でも入ったんじゃないだろうか。
勢い良くドアを開け、俺は飛び入った。

―が、玄関、靴箱や正面を見る限り、荒らされている形跡は無い。
そして良く見ると、テレビが付いている。
この時点で、泥棒で無い事を理解した俺は、心配損か、と溜め息をつきながら靴を脱ぎ、廊下を歩く。

溜息を付いたワケは、二つ。
一つは安心。
一つは、訳の無い呆れから。

落ち着きすぎた、冷たく、低い声での『おかえり』
対して、当然の様に、俺は何も言わず、目も合わせず、階段へと昇っていく。
向うに居るのが親父だと解っているから。
別段珍しいやり取りではない。

もう随分と、まともに会話をしていないのだから。
嫌いかと聞かれたら、きっと嫌いだと答えるだろう。
親父は母親も妹も泣かせた奴だから。
原因を挙げるのならきっとそれだけ、しかし、当時の俺にとっては、それで十分だったのかもしれない。

とはいえ、それはもう随分前の話で。
今も親父を避ける理由は、良く解らない。

そして、今はそんな事などどうでも良かった。
俺はすぐに着替えを初め、夜逃げのような手際の良さで準備を済ませた後、言葉も無く家を出た。

目指すは、母親の家。

今は母親と呼べないが、俺の中ではずっと母親だろう。

――

すっかり日も暮れて暗くなってきた頃、俺は母の住む古びたアパートの前に立っていた。
電話で聞くという考えもあったが、親父が居るところでの電話は、どうにも話し辛い。
何より、以前の話も含め、直接確認したかった。

緊張に高鳴る胸を押さえながら、鳴らす。
居れば良いと思う反面、居なければいいと思う自分が居るのは、気のせいではないだろう。

しかし、ボタンを押せばチャイムが鳴る。
間も無く、威勢のいい声で、母親が出てきた。
いつ振りに見るだろうその姿に、解っていながらも、俺は目を見開いた。

「・・・母さん。」
「あらま、こんな時間に誰かと思えば、しかもアンタが一人で訪ねて来るなんて、今日は午後から天晴れだったってのに、明日は雨かねぇ。」

そう第一声を放ち、男らしい笑いをする母親。
顔に少し疲れが見られるが、相変わらず明るい笑顔だった。
以前は長かった黒髪も、ばっさりと切って短髪になっていて、それまたらしいといえばらしい。
デニムパンツに花の咲いた黒いシャツと、首には銀のアクセまで下げて、まだまだ若い、と訴えるような姿で迎えてきた。
まぁ、実際若く見える方ではあるが。

旧名、成瀬杏子
現在は長谷川杏子。
男勝りな性格で、仕事ばかりの親父を世話しつつ、俺と七海を女手一つで育てた人だ。
アパートは俺の家から歩いて20分足らずだと言うのに、会うのは本当にいつ振りであろうか。
それこそ、年単位かもしれない。

「で、そんな顔してどうしたのさ。」
「・・・それは。」
「陽菜ちゃんの事?」
「!・・・。」
「・・・とりあえず上がりなよ、茶と菓子くらいは出すからさ。」
「・・・解った。」

―・・・顔に出ていたのか、俺の表情をすぐさま感知した母は、俺を家の中に招いた。
来た途端気遣わせてしまったと思うと、なんだか情けないが、母は当然そんな事を気にするわけも無く、俺の両肩を掴んで、ちゃぶ台の前に座らせ、お茶とお菓子を出した。
そして母も男座りをし、お茶を飲んで一息。

「ふぅ、久しぶりだね、アンタとこうして茶を飲むのは。」
「七海は結構行ってるって聞いてるけどね。」
「そうだね、あの子はお父さんっ子だけど、アタシの事もちゃんと気に掛けてくれてるからね、どっかの誰かと違ってさ?お母さんっ子の癖に全く遊びに来ないんだからねぇ?」
「・・・親不孝で悪ぅござんしたね・・・。」
「あっはっは!冗談冗談!あの泣き虫な悠も成長したもんだねぇ。」

相変わらずの威勢の良さに、この明るさ。
電話で元気なのを確認していた俺だったが、やはり直接会ってみると、改めてそんな事を思う。
この明るさには、俺は何度も慰められて来たものだ。
故に、俺自身が母さんっ子である事は否定出来ないし、こうして母を頼りに来たのも事実だ。


「母さん、この前の電話の続き、聞いてもいいかな。―いや、出来るなら、陽菜について知ってる事を、全部。」

しかし、今だけはソレに甘んじたかった。
陽菜の事を知る為に。
そして、あの言葉が本当かどうかを確かめる為に。

「・・・そうだね、解った。」

母も、そんな俺の表情に察したのだろう、表情を変えて、語りだした。

「とは言っても、アタシもこの前アンタに話した以上の事は知らない、初めにそれだけは言っておく。」
「・・・あれは、本当の事なのか?」
「・・・アタシも事実を確認したワケじゃない、ただ、嘘でそんな事を言う性質の悪い人間でもないつもりよ。」
「・・・。」
「今でもよく覚えてる、明るくて、行動力があって、いつも悠を引っ張っていく陽菜ちゃん、それを遠くで、優しい笑顔で見てる、陽菜ちゃんのお母さん。」
「・・・。」
「私も陽菜ちゃんのお母さんとは仲が良くてさ、別れの日にはアンタ達と同じく再会の約束もした、でも。」

―次に電話越しで会った彼女の声は、今にも消えそうな弱々しい声で。
『ごめんなさい』その一言を最後に。

「それ以降、連絡も取れてない。」
「・・・。」

この結果を、予想していなかったワケじゃない。
母は嘘が嫌いだと知っていたし、嘘を付くわけなど無い。
それでも、ソレを直接聞きに来たのは、きっと、母の言葉を信じられなかったのではなく、自分の耳を信じたくなかったのだろう。

現に、今も俺はソレを受け止めきれて居ない。
何せ、陽菜は今日も俺の前に現れて。
記憶のままの笑顔を見せたのだから。

「・・・悠、コレを渡しとくよ。」
「・・・え?」

そんな俺の複雑な心境も、母にはお見通しだったのだろうか。
母は突然に立ち上がり、タンスを開けると、そこから一枚の紙を取り出して、俺に手渡した。

「これは・・・。」
「解るだろ。―本当に全部確かめたいと思うなら、そこに行けばいい。」

それは、住所と電話番号が書かれた紙。
その時点で、俺は聞かずとも解った。


「ごめんね、悠。」
「・・・母さん?」
「・・・アタシはアンタに謝らなきゃいけないと思って。」
「・・・急にどうしたんだよ・・・?」
「・・・本当なら、あの時言ってあげるべきだったのに・・・母さん、アンタがそのまま忘れて育ってくれればいいだなんて思ってた・・・だから、ごめんね・・・。」
「母さん・・・。」
「本当に仲が良かったから、泣きながら見送ったことを思い出したらさ・・・育ち盛りの頃のアンタに・・・悪い影響を与えたらどうしようって思って・・・本当・・・ごめん。」
「・・・。」

涙目になりながら謝る母の姿は、まるで懺悔している様で。
涙脆いのも、相変わらずだった。

そんな母に対し、俺は無言で頷いていた。
許すも何も、責める気など無いからだ。
俺に親の気持ちは解らないが。
それが当時の俺を守るためにした事だというのなら、責める理由など無いから。

――

「―もう、帰るのかい?」
「ああ、時計見たらもう結構な時間だったし。」
「・・・ああそうか、七海がもう夕飯作り出してる頃だね。」
「そう言う事、もう今月だけで3度は雷が落ちてるからな・・・門限守らないと殺される。」
「あっはっは!七海には相変わらず勝てないねぇお前。」

気づけば、窓の外はうっすら暗闇、時計を見れば門限まであと僅か。
本当の事なら一日泊まっていきたいが、七海が許さないだろう。
俺はいそいそと立ち上がり、玄関へと向かい、靴を履いた。

「それじゃ、また来るよ。」
「あいよ。―ああ、悠。」
「何?」
「今アンタと一緒に居る陽菜ちゃん、本物だろうが偽者だろうが、仲良くしてやるんだよ、聞いた感じ、昔と変わらず可愛くていい子だし、傷つける様な真似したら母さん承知しないよ?」
「・・・ご心配なく、相変わらずアイツのペースに巻き込まれてるし。」
「あー、想像に容易いね。」
「だろ、勝手に泣いたり笑ったり・・・。」
「んで、アンタが呆れながらそれを見てる。」
「そうそう・・・今日なんて学校に制服持って入り込んできたんだぜ?困ったもんだ・・・アイツ学校大丈夫なのかとね・・・。」
「あっははは!ホントソックリだねぇ、生まれ変わり・・・って奴かねぇ、もしくは幽霊?」
「幽霊で俺にしか認識できない、とかだったら母さんの言う事も解るんだけどさ・・・足も持ってるし誰にでも見えるし・・・。」
「へぇ・・・最近の幽霊は実体化できるんだねぇ。」
「母さん・・・さすがにそれはファンタジー過ぎると思う・・・。」
「あっははは・・・まぁ、今度連れてきておいでよ、私も綺麗になった陽菜ちゃんが見たいわ。」
「綺麗って・・・美顔と言えば美顔だけど・・・それ誰から・・・って聞くまでも無いか。」

一瞬で浮かんだ七海の顔に、俺は犯人を確信する。
そして、どうやら余計な事も吹き込んでいる様で。

「・・・昔から期待してたんだよー?恋人同士みたいだし、将来孫の顔も見れるんじゃないかなぁってさ?」
「幽霊と子供なんて作りたくないぞ・・・俺は。」
「あら、幽霊じゃないんでしょ?」
「まぁそうだけど・・・。」
「なら問題無し、許可なんて要らないから結婚は早いうちにしてしまいな!」
「アンタホントに俺の親か!?」
「あっははは!ノリツッコミも上手になっちゃって!」

笑いが止まらない、と言わんばかりに腹を押さえて笑う母親。
こっちは真剣な想いで尋ねてきたと言うのに。
まぁ、この明るさがあったからこそ、家族を支えてこれたのだろうが。

「まぁ・・・その子が陽菜ちゃんでもそうでなくても・・・アンタにとって大事な人なんじゃないかい?」
「大事な・・・ねぇ・・・。」
「なんだいハッキリしないねぇ、陽菜ちゃんも困っちゃうじゃないか。」
「・・・アイツは懐いてるだけだっての。」
「うふふふ・・・若いって素敵だねぇ・・・っと、母さんもそろそろ仕事に行くし、帰りな~。」
「ああ、解った・・・って母さん、仕事はお昼じゃなかったっけ?」
「え?、つまんないから辞めた、今はちょっと力仕事をね、さ、帰った帰った。」

と、時間が切羽詰っているのか、ずいずいと俺を外へ押し出した。
そしてドアを閉める前に、「・・・期待してるぞ?」と意味深な一言、ドアが閉まり、静まり返った。


―すっかり暗くなった夜道は、どこか寒気すら感じるほどに不気味な静かを持っていた。
否、寒気と言うのはどうやら本当に寒さらしく、夏らしくないほどに冷たい風が吹いていた。

幽霊・・・か。

俺は自分でそう言った事に、どこか可笑しさを感じていた。
本当にもし、幽霊だとしたら、可笑しいだけでは済まないと言うのに。
そう、いっそ幽霊だったら気楽だったのだろうか。

・・・いいや、気楽なものか。
目の前で霧のように消えて、成仏なんてされたら、たまったもんじゃない。

今日の月は満月。
満月は人を狂わすと言われているとか聞いた事はあるが。
確かに、この満月なら、狼男だって狂ってしまうだろう。

『恋人』。

聞き慣れないこのワードが、何故か離れないまま、俺は月を見上げながら、家へと戻って行ったのだった。

第二話 続く。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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