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月と太陽の出ぬ間に

第二話「鈍感男の正体は。」

「ほー・・・最近のは凝ってるんだな。」
「・・・リアル過ぎる・・・。」

―入った先は館と言うより、洞窟。
薄暗い道は鍾乳洞の様な作りなっており、どことなく不気味さを醸し出している。
とはいえ、所詮全て作り物で、ミイラやらゾンビやらも、全部着ぐるみを着た人間のようなもので、それを頭の中に入れて置くと、お化け屋敷は怖くない。
それと同時に、面白くもなくなるが。
とりあえずは、まだ見ぬドッキリに期待したい所だ。

「・・・成瀬は・・・この手のものは怖くないの?」

そんな、全く緊張感の無い心境の元歩いている俺の隣で、柳野。
やはり本気で怖いらしい、その身体は一歩一歩進むたびにその震えが増していくのが、目に見えて解る。
苦手にもピンとキリがあるが、これは上など無いのではないんじゃなかろうか、そう思う程の怯え方は、まさに小動物。
冗談などまるで抜きでお化け屋敷を恐がる柳野に、いつもの凛々しさなどは無かった。

「もう・・・私は心臓がバクバク言ってて・・・うう・・・なんでそんな平気な顔・・・。」
「つまんない子供だから怖くないっス。」
「・・・それって・・・全部作り物だって考えの事?」
「普通そう考えるだろ。」
「・・・私はそう考えても怖い・・・。」
「・・・ホント意外だな・・・。」
「・・・へ、変かな・・・。」
「いや、お前は見た目がカッコイイお姉さんタイプ・・・って言うんかな、そんな感じだからな、ギャップがすげえってだけ。」
「それって・・・結論的に変って言ってるんじゃ・・・。」
「まぁ・・・そうなるな。」
「う・・・ショック。」

意外と気にしているのか、しょぼんと顔を俯かせる柳野。
とはいえ、身長が俺と変わらない上に普段の鋭い目を見ていると、誰もがそう思っても可笑しくないのだが。
まぁ望んでそんな体格になった訳ではないワケで、そう考えると少し可哀想ではあるのだが。

しかし、悪いことばかりでは無いと思う。
変である事は否めないが、強烈である事もまた事実なのだから。

―ゲハハハハハ!

「ひっ・・・。」
「うぉっ!?」

オープニングと言った所か、突如聞こえた不気味な天の声。
今の柳野にとっては追い討ちに他ならなかったのだろう。
柳野は防衛本能からなのか、悲鳴を上げ、俺の手を両手で握り、しゃがみこんだ。
俺が驚きに声を上げたのは、コレが原因である。

「・・・おーい・・・。」
「・・・・・・。」
「もしもー・・・し?」
「えっ?・・・・あ・・・ご、ごめん!」
「・・・い、いや、いいよ。」

数秒の間を置いて、柳野は慌てて手を放す。
よほど怖かったのか、やはり無意識だったらしい。
このまま行くと、出る頃には大泣きでもしてるんじゃなかろうか。
顔を真っ赤にしながら何度も謝る柳野に、俺は先行き不安になった。

『ようこそ我が屋敷へ!これから君たちをショータイムへご案内しよう!!準備はいいかなぁ!?』
「できてない・・・準備なんて出来てないです・・・。」
「答えるなよ・・・聞こえてないんだから。」
『それでは・・・ごゆるりと・・・。』

俺の言う通り、全く人の話を聞かない天の声。
その声を最後に、ブツンと音は途絶え、代わりに地震のような音が鳴り響き始めた。
音は段々と近く、明確な物になってくる。
足音、それも結構な数の。
走る音は段々と近くなり、そして。
その足音は、俺達のすぐ背後まで。

「まさかなぁ・・・。」
「・・・。」

振り向けばそれは、腐敗した体を持った(ように見える)ゾンビだった。

―ウォオオオオ!!

「・・・逃げろってか?」
「・・・・・・。」

その距離は10Mほど、もう数秒で目の前にまで来るであろうか。
だというのに、柳野はそのゾンビ達を見た途端、そのままの視線で止まっていた。

・・・いや、止まっていたのは視線だけではなく、体もである。
先程の震えがまるで嘘の様な硬直ぶり。
「・・・柳野?」
声を掛けても、返事は無い。

・・・もしかして、もしかすると。
嫌な予感が過ぎった俺は、その顔を覗き込み、そして気づく。

「・・・マジか?」
柳野は、目を開けたまま、気絶していた。

―ウォオオオオオオ!!
「・・・しゃぁない・・・ッ!」

捕まれば食われる、などと言う設定はありもしないのだが、とりあえず逃げておかなければならない気がした(柳野を一人にしては後が恐いし。)
俺は柳野の体を背負い、ゆっくりながらも走り始めた。
軽いとはいえ、少なからず身長170、女性の平均体重など知りもしないが、人間一人だ、かなりの重さ。
対して、ゾンビな方々はとても腐ってるとは思えない軽快な走り(腐ってないから当然だが)これは間違いなく追いつかれるであろう。
走り初めて数秒だが、俺はアトラクションの終了を確信していた。

・・・しかし、やはりと言うかなんと言うか、普通なら追いつかれるのだが、どうやら向こうも一人が気絶してるのを理解したのか、俺の逃げる速度に合わせて走ってくれているらしい。
無論、後ろを見る暇も無い俺にそんな事を確認する余裕などは無いので、それは予測だが、・・・立場的に追いついてしまったら駄目だろ?と事だ。

――

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・お化け屋敷というよりは・・・体育館での体力テストにでも感じてきそうだ・・・。」

・・・柳野を背負いながら走る事3分、狭い通路を抜けたようで、広い部屋に出た。
いかにも、という空気を出している、まるで古い欧米映画で見た、薄暗く、不気味さをかもし出す館。
部屋のところどころには骸骨(の作り物)、そして、生首(の作り者)、ギロチンのような処刑道具(良く出来ている)、貴族の家にありそうな無駄に長いテーブル、そしてそれっぽい逆十字架の棺。
要するに、ここの主は吸血鬼、という事になるのだろうか。

次のアトラクションである事は間違いないだろう。
いつの間にか居なくなっていたゾンビの方々に、俺はソレを確信する。

「・・・う・・・。」
「!・・・起きたか。」
「あ・・・なるせ・・・?」
「大丈夫か?」
「・・・・・・。」

まるで危機が去ったのを感知したかの様に、目を覚ました柳野。
そして、どうやら自分の現状を把握した様で。

「ご・・・ごめんっ・・・今降りるから・・・っ!」
「ちょ・・・待てって、そんな体勢で降りようとしたら―」
「・・・―ッ!!」

よほど慌てたのだろう、慌てて降りようとし、尻餅を付いた。
確かに、目を覚ましたら野郎にお姫様抱っこなどされていたのだから、驚かない筈があるまい。
・・・ああ、俺もお前をお姫様抱っこする事になろうとは思いもしなかったよ。
こいつに彼氏が居なくて本当に良かった。

「・・・おーい・・・大丈夫か・・・?」
「・・・ごめん・・・本当にごめん・・・。」
「いや・・・いいんだけどな・・・立てるか・・・?」
「う、うん・・・。」

顔をトマトのように真っ赤にし、何度も謝りながら立ち上がる柳野。
さすがに気絶した事が恥ずかしかったのだろうか、ここまで恐怖症だとは思わなかったな・・・。
今のが序章ならば、行く先でショック死でもしないかが心配である。

ある意味500円でここまで楽しめるならお得な体質なんだろうけど。
せめて夢に出ないことを祈ろう。

―ゲハハハハハ!

「ひっ・・・」
「いやいや・・・さっきと同じ声だから。」

さすがに二度も同じパターンをやられると驚かない。
先程同様、そんな俺の心情、柳野の悲鳴などおかまいなしに、声の主は解説を始めた。

『ようこそ私の部屋へ!これから君たちとショータイムを始めたい!!いいかなぁ!?」

どうせ選択権も無いと言うのに、いちいち聞くなよ、と言いたくなる。

「出来れば拒否させてください・・・。」
「オイオイ・・・。」
『それじゃぁイッツ!ショーターイッム!!ゲハハハハハ!!』

またその声はそこで途絶え、代わりに何か音がし始めた。

「さて、次は何が出る・・・。」
「・・・できれば何も出ないで・・・。」
「いやいや・・・それじゃアトラクションにならんだろうが。」

ガコン、という音と共に、部屋の中央にあったギロチンが地面に沈み、代わりにプリクラのような機械が出てきた。
何故にこの部分だけハイテク?というツッコみは無しだろうか。

「・・・なんだろ・・・これ。」

汚名挽回のつもりか、恐る恐る、柳野がカーテンの中に入る。
・・・見てなかったのが幸いか、確かにこの機械はハイテクだが、上の外装はまんまギロチンである。
そして前後の塗装は赤く、人の顔のような物が沢山張り付いていた。
まぁ、また倒れられても困る。
俺も見なかったことにして、続くようにカーテンの中に入る。

・・・中は意外過ぎるほど普通で、強いて言えば薄暗いのと、画面周りが黒い塗装に蝙蝠の模様が付いているくらいである。
これはさすがに柳野も大丈夫なようで、辺りをキョロキョロと見渡しても、驚く様子は無い。

「・・・これは・・・何?」
「俺に聞くな・・・とりあえず・・・って何か画面に書いてあるぞ。」

そう二人で視線を小さな画面に移すと、そこには文字が書いてあった。

―アナタハ、スキナヒトガ、イマスカ?

「・・・・・・。」
「・・・・・・。」

両者絶句、いや、多分質問の意図よりも、この屋敷でそんな事聞かれても、という疑問の方が多いかもしれない。
しかしながら、そんな問いのためだけに用意されたであろう、二人分のYES&NOのスイッチ。
要するに、二人一組の意味は此処にあったという訳だ。
・・・お化け屋敷である意味はまるで無い、と製作者に言ってやりたい。
とはいえ、コレはアトラクション、ノーコメントというワケにもいかないのだろう。

「・・・どうする?」
「・・・。」

一応は聞いてみた俺の質問に、柳野は困った顔をしたが、それも数秒、勢い良く、YESのスイッチを押した。
どうやら好きな人が居るようだ。
・・・そういえば、空先輩も言ってたな、好きな人が居るって。
ああ、彼氏が出来る前で本当に良かった。
まぁ、居たらこのイベントも無かったのだろうが。

しかしながら、俺も他人事の様には言ってられない。

「・・・成瀬?」
「あ・・・ああ。」
「成瀬は、どっち?」
「・・・俺は・・・。」

何故か真剣な表情で問う柳野に押され、俺も二つのスイッチを前に視線を向ける。

こんな可笑しなアトラクションでの質問だと言うのに、俺の脳は過敏にも思える反応を見せていた。
心臓の音が高鳴るのが解る。

解ってる、その理由も、そうさせるのが誰なのかも。
未だおぼろげではあるが、今の俺ならYESも押せるだろう。

―・・・ここでYESを押したのなら、この吐き出しきれない『何か』も、解るだろうか。

そう思った途端、その手は、YESへと伸びていた。
だが。

「・・・成瀬!」

遮る様に、俺の意識を呼び戻すかの様に、柳野は強く言葉を発した。
まるで、その先へ行く事を、拒んでいるかの様に。

「・・・柳野・・・?」
「・・・・・・!」

苦しそうに、震えた手で、胸に手を置く柳野は、明らかに様子がおかしい。
だが、それでも、真剣な表情をなんとか保ちながら。

「だ・・・大丈夫か・・・?」
「・・・ちょっと怖い・・・恐いけど、大丈夫。」
「・・・柳野・・・?」

心配する俺の顔を見つめて。
柳野は、確かに言った。

―今でも忘れやしない、あの言葉を。

「・・・成瀬・・・私―」

―私が好きなのは。

「成瀬・・・なんだ。」
「・・・え。」

・・・突然の言葉に、一瞬、思考が真っ白になった。
好きなのは、成瀬、つまり、俺の事。
何かの冗談だ、と思った。
しかし、それも一瞬。

「・・・ごめん・・・本当なら・・・こんな所で言うモノじゃないよね・・・本当・・・馬鹿だ私・・・。」

目の前の柳野の表情に、疑う余地などありもしなかった。
予想外な人物からの、告白。

・・・いいや、予想外なもんか。
皮肉な事に、俺の脳はこのタイミングで、ある事を思い出していた。

意味深な空先輩の言葉。
『鈍感な男』
それは、俺の事だったと言う事。

だが今、そんな事は問題ではなく。

「柳野・・・どうして。」
俺は愚かにも、聞いていた。
「・・・どうしてもこうしても・・・解んないよ、きっかけなんて些細なもので、でも成瀬を見た時、私は成瀬が好きで・・・おかしい事言ってるのは解ってる・・・でも・・・一年前、成瀬と出会った時から、私は・・・成瀬が好きだった・・・!」
「・・・本当、なのか?」

涙目になりながら、柳野はコクリと頷く。
馬鹿な質問をしたものだと思う。
本当かなんて、涙目になってる柳野を見れば分かる事だろうに。

・・・ずっと俺を見ていてくれた、そんな言葉は、柳野が俺を想っていてくれたことを理解するには、確信が無くとも、十分すぎるほどだった。
痛いほどに気持ちが伝わる、コイツがどれだけ勇気を振り絞って、俺にその言葉を放ったかが解る。
初めて話した時の緊張感を上回るものが、俺の中に湧き上がっていた。

涙に濡れる顔は、美しく、女性らしくて。

それでも、俺はそれに答える術を持っていなかった。

自分が気になってる女性でさえ、キチンと好きかも解らない俺に、コイツの気持ちに答える資格など、あるわけも無いのだ。

―俺は、NOのボタンを静かに押した。
口で言う事を恐れた故の、返答の仕方だった。

「・・・成瀬・・・。」
「・・・俺は情けない奴だよ。」
「え・・・?」
「好きな奴にもさ、好きともハッキリ言えない、ハッキリと答えを出してやれない、そんな男が、お前の気持ちに答えてやるってのは・・・無理だと思うんだ。」
「・・・。」
「・・・だから、俺達、友達で居られねえかな?・・・すげえ馬鹿な事言ってるのは、百も承知・・・だけど。」
「・・・・・・成瀬―。」

『―残念!カップル不成立ぅ!!ゲハハハハ!!』

柳野が何かを言いかけた、その時。
最後まで人の言葉を、雰囲気さえも無視した声が、上から聞こえた途端。
機械が急に落下をし始めた。
恐らくは、驚かす為の仕掛けだろう。
性質の悪い製作者である事は、もう言うまでもあるまい。

だが、そんなドッキリにも、俺達は驚く事は無かった。
いや、驚く余裕など、有りもしなかった。

――

落ちた先は、元着た入り口。
アトラクションは、コレで終わりらしい。
直ぐに理解した俺達は、お互いの顔を見ること無く歩き、外へ出ようとする。

いや、今顔を見てはいけない。
そんな心境が、お互いにあったのだと思う。
意地悪く笑う魔女の声も、周りのざわつく声も、今は聞こえない。

そんな、もう二度と来ないであろう、ふざけたお化け屋敷を出る、一歩手前。
「・・・柳野?」

・・・柳野だけが、その足を止めた。

恐る恐る俺は顔を上げ、隣の柳野の顔を伺うと。

その表情は、微笑んで、俺を見ていた。
どこか、寂しさを感じさせる、そんな笑顔。

「・・・成瀬は・・・馬鹿なこと言ってるよ。」
「・・・!」
「でも・・・頑張ってみる。―・・・また明日、学校で。」

そして、突き刺さるような一言を最後、柳野は人ごみに消えていった。

「・・・本当に馬鹿だ・・・。」
俺がそう呟いたのも、柳野が居なくなった後で。
柳野の優しすぎる言葉は、痛みと一緒に、ずっと胸に残ったまま。

この日、空先輩達と再会する事無く、俺は一人、遊園地を後にした。
帰り道、タイミングよく雨が降ったのは、そんな俺を叱っての事かもしれない。

第二話 終わり。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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