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月と太陽の出ぬ間に

第三話「雨の日の探検隊。」

日付は少し進んで、休日。

この日は陽菜の要望通り、遊園地に行く事となっている。
しかし、前日に計画立て、確認したのは動物園の場所のみ、と言う、我ながらなんともノープランに迎えた当日。
・・・気合を入れられるほどの予算も無いが。

そんな休日の朝、待ち合わせである駅にあるお相撲の銅像に寄りかかり、悠斗は陽菜を待っていた。
待ち合わせの時間よりは、若干早い。
外は相変わらずの雨、これでは客も少ないだろう。
とはいえ、今日は休日、行く先はそれなりに名の知れた動物園、ある意味では好都合かもしれない。
行列で時間を潰してしまっては元も子も無いし。

・・・。

待ち合わせの時間というのは、どこか長く感じる。
ただでさえ期待と不安が混じって、何とも奇妙な感覚の中に居ると言うのに。
・・・緊張とも言う。

こんな調子で陽菜が来た時、エスコートが出来るだろうか。
悠斗の心境が若干不安へと傾き始めようとしていた、その時だった。

「おっまた~悠君!」

恐ろしく長く感じた10分。
聞こえた弾んだ声に顔を上げると、陽気にスキップをしながらこっちに向かってくる陽菜が居た。
今時あんな喜びの表現があったものだろうか。
さすが純情乙女。
しかし、どう見ても転ぶ走り方、悠斗は叫ぶ。

「おい!雨の中そんな走り方すると転ぶぞー!」
「だいじょぶだいじょ・―ぶっ!」
「あー・・・いわんこっちゃない。」

案の定、マンホールで滑り転ぶ陽菜。
それも漫画の様な、前のめり。
そこまで徹底してるともはや尊敬さえするが、多分コイツは天然なのだろう。
悠斗は笑いながらも、駆け寄り、手を貸してやる。

「あうち・・・痛い・・・。」
「そりゃ顔面から転べば痛いわ、血が出てないだけ良かった・・・とりあえず顔を拭け。」
悠斗はポッケからハンカチを出し、渡してやる。
「うう・・・服が濡れなくてよかったぁ・・・。」

ハンカチで顔を拭きながら涙目でそう呟く陽菜。
確かに良く見れば、今日の私服は白いシャツの上に薄茶色のフャスナーの付いたワンピースと、何時もとはまた違うファッション。

「・・・顔で良かった・・・のか?」
「うん~、とりあえず気合を入れて決めた服だから濡れなくて良かった!」
「・・・お前に気合が存在するとは予想外・・・。」
「あるよ~っ、悠君は乙女心がわからないかっ!」
「・・・まぁ、確かにいつもより子供っぽい?」
「ぷーっ。」
「あはは・・・悪い悪い。―ほら行こうぜ、動物園が待っている!ってな。」
「ににっ、うん、いざいくのだ悠斗隊員!」
「あいよ隊長。―・・・隊長?」

―切符を買い、改札口を抜け、電車に乗り、ただ到着を待つ。
そんな当たり前の動作だというのに、とても新鮮味があった。
隣り合わせで歩きながら、他愛の無い会話をするのが、なぜか嬉しかった。
これがいわゆるデートと言う状況なのか、悠斗は密かに思った
恐らく、陽菜はそんな事カスりも思っていないだろうが。

「―ほら悠君!電車だよ電車!」
「・・・電車を前にそんなリアクション取れる女子高生はお前くらいだな・・・。」
「え、だって悠君電車好きだったじゃん!」
「・・・それ何時の話?」
「子供の心忘れてはいけないっ!」
「・・・お前はもう少し大人になろうか。」
「ににっ!?」

改札を抜けると、まるで二人を待っていたかの様に、電車が止まっていた。
電車は意外と人が少なく、静かだ。
こんな田舎町だからと言うのもあるだろうが、人が混雑しているイメージがあった分、目の前の光景はありがたい。
子供の頃おもちゃで見た様な四角い電車に乗って、悠斗と陽菜、二人の小さな旅が始まった。

目的地までは、少し遠い。
だが、そんな事は苦痛ですらなかった。

「キリンさん~キリンさん~どうしておくびが長いのよ~♪」
「・・・それは象じゃないか?」
「え?そうなの?」
「まぁ象もキリンも長いのは一緒だが・・・。」
「にー、でもキリンさんってあんなに首が長くて不便じゃないのかなぁ。」
「余裕って顔してるじゃんか。」
「えええ・・・だって、あんなに首が長いと折れやすそうで大変だよ・・・?」
「さりげに物騒な事を言うなよ・・・まぁ、首は鍛えてるんじゃないのか?」
「にー・・・首で大木を薙ぎ倒す!100のライオンも薙ぎ払う~!一騎当千!・・・とか?」
「どこのバケモノだそれは・・・と言うか何処で覚えたそれ。」
「にー、ふくろうさんにも早く会いたいなぁ。」
「ホント、変わった動物ばっか好きだなお前は・・・。」
「変わり者ですからっ。」
「全くだ。」
「にはは~。」

端から見ればなんてくだらない会話だろうと思う。
だが、俺は俺が思う以上に、笑っていて。
その会話を楽しんでいるのは言うまでも無く、やはり俺も変わり者なんだと思い知らされるのだ。

そんな長いような短い様な電車の旅は30分ほど続いて、悠斗達は目的の駅にたどり着いた。
人の多い所はあまり好かない悠斗にとって、何ヶ月振りの地元以外の場所。
駅を降りた後、見慣れない町並みに少し挙動不審になりながらも、二人で地図を見つつ目的地を目指す。
・・・のだが。

「ええと、この大通りをまっすぐ行って3つ目の信号を右に・・・。」
「・・・地図が逆さだぞ・・・右じゃなくて左。」
「ににっ?・・・あ、ドンキー本店だ!」
「おーい、動物園は此処ですよ陽菜さん・・・。」
「開園までまだまだ時間があるもの!」
「わ、解ったからまた引っ張るな―・ってえええ!?」

陽菜が指を差した先は、動物園ではなく、その道中にある、ゴリラが目印の雑貨店「ドンキー本店」
見つけてしまったのがいけなかったのか、陽菜は悠斗の手を引いて歩き、否、走り出した。
興味のあるものを見つけたら一直進、どこまでも小動物道まっしぐらである。
しかしながら、止める力も気力も無い悠斗は、手に引っ張られるまま、ドンキーへと向かうのだった。
エスコートのままにコイツが付いていく筈が無い、そんな確信がどこかにあったのだ。

――

「わー、すごーい!」
「・・・確かに、これは凄いな。」

結局連れられて10分後、二人は巨大なゴリラが目印の店へと辿り着いていた。

商品が山のように並べらており、スーパーや雑貨店というものとはまた違う空気。
売り場と言うよりは倉庫をそのまま売り場にした様にも思える。
俺も知らないワケではないのだが、本物を見るのは初めてだ。
『ドンキー本店』
テレビや雑誌でも最近注目を集めていて、この見た目のインパクトと、品揃えの良さ、そして何よりその安さで客を集めている店らしい。
説明、以上。

「ほら、適当に見て、目的地に行く・・・ぞ・・・って。」
「きょろきょろ・・・わーわー。」
「・・・もう好きにしてくれ。」
「にに?、何か言った?」
「いや、何でも・・・。」

そんな、モノが山ほど、種類も山ほどの店。
予想通りとも言おうか、陽菜は既に店内入って直ぐの食料品コーナーを前に目を輝かせ、言葉通りにキョロキョロとあらゆるものを見ていた。
そう、こいつは興味心の塊の様な奴なのだ。

そんな陽菜を見てしまった限り、これを無理やり連れ出すのは気が引ける、悠斗もその様子を見ながら、陽菜に付いて行った。
特に物欲の無い悠斗にとって、この場所は少し退屈でしかなかったが、それでも、陽菜の楽しそうな顔を見ると、急かそうとする自分が幼稚に思えてならず、言い出せるワケも無かった。
まぁ、アイツが楽しそうならそれでヨシなのだが。

「悠君悠君、次はこっち行ってみよう~!」
「・・・ん、あいよ~。」

勿論、陽菜はそんな事など知る由も無く、満面の笑みで悠斗の手を引いて、また別のコーナーへと歩き出す。
初めてとは言え、雑貨店を此処まで楽しそうに買い物できる奴も珍しい。
折角誘ったのだ、俺も楽しまなければ損というもの、か。

次に着いた先はアクセサリーのコーナー。
さすがの品揃えとジャンルの多さと言うべきか、ケースの中にはシルバーのアクセサリーやピアスが多種多様。
これは直助辺りが喜びそうだ。
・・・つまり。

「・・・こいつら男用だぞ、どっちかと言うと。」
「に?」

そう、陽菜が見ているのは、男が付けるような、ドクロやら大小さまざまな十字架、どれも彼女がつけられそうな物では無い。
だが。

「うん、だって悠君用を見てるんだもん、悠君にはどれが似合うかなーって。」
「・・・俺用?」
「いえす!」
「・・・いやいいよ・・・高いし。」

当然の様に答え、陽菜は親指を立てて見せた。
奢るとでも言うのだろうか。
思いも寄らぬ言葉に目を丸くする悠斗。
しかし、それも一瞬。

「うん!だから見てるだけなのだっ。」
「・・・・・・あー、うん、少しでもそんな考えに走った俺が馬鹿だった。」
「え?なになにっ?」
「・・・いや、うん、要するに俺が馬鹿だった。」
「??」
「解らんでいい、うん。」

ほんの僅かでも『俺の為に?』などと考えた自分が恥かしい。
悠斗は自分の短慮に軽く溜息を吐いた。
まぁ、どの道断っていたが。

「んー・・・このちっちゃなクロスなんかがいいな、デカいのは嫌だ。」

とはいえ、見るだけならタダ、と悠斗が視線を向けたのは、なんら変哲も無い、小さな十字架。
直助の様な派手なモノは、と無難な選択。

「にー・・・それは私のほうが似合いそう・・・。」
「・・・それは要するに、俺には似合わないって言ってるよな・・・?」
「うん?うん。」
「ああ・・・さいですか・・・。」

そんな無難なチョイスを、真っ向から折り曲げた陽菜。
今日ほど天然を恐ろしく思った日はあるまい。
悠斗は若干泣きたい衝動に駆られた。
しかし、確かに女性が付けていても違和感が無さそうなのも事実で。

「―・・・んじゃ本当にお前に似合うか試してみようぜ。」
「に!?」
思いついたままに、悠斗はそんな言葉を口にしていた。
こいつの驚く顔が見たかったと聞かれれば、そうかも知れない。

「すみませんー、コレくださいー。」
「い、いいよ!付けなくても解るからっ!もしくは自分で買うから!」
「いいんだよ、記念だ記念。」
「にー、それはそうだけども・・・なんだか強引だよ悠君・・・。」
「何時も驚かせられてる仕返しと思え。」
「えー・・・驚かせてたっけ・・・?」
「ああ、散々驚かされてる。」

そう、たまには驚かす側がいいのだ。
全く自覚が無いのか、首を傾げる陽菜を前に、悠斗は笑った。

「ぷーっ・・・いいもん、今度なんか仕返しをし返すからっ!」
「そう対抗意識を燃やされてもな・・・。」
「にはは~・・・でも嬉しいよ、ありがとう悠君っ!」
「ん・・・あいよ。」

―結局、2200円するシルバーのアクセサリーを本当にお買い上げする事になった。
自分から言い出しておいて何だが、少し痛い出費だ。
とはいえ、あの場面で買ってやらないのは何故だか、カッコ悪いような、そんな気がしたのだから仕方ない。
記念と言えば間違いないが、ちょっとした意地の様なものもあっただろうか。
今思えば、何とも強引な奢り方だろう。

「・・・似合ってるな。」
「~♪」

早速ネックレスを着けて、ニッコリと笑う陽菜。
よほど嬉しいのだろうか、足取りがさらに軽く。
どこまで元気なのだろうか、そのスキップは更に速さを増した。

「待・・・早い早い、置いてくなって!」
「早くきりんさんを見に行こう~!きりん~きりん~!」
「寄り道しておいて何を言うか・・・。」
「にー、それはそれ!きりんはきりん!早く行くのだっ!」
「へいへい・・・。」

気づけばエスコートのつもりが、地図も奪われ、逆に先行されている状態。
高校生とは思えないはしゃぎっぷりに、それを取り上げる事も出来ず、その道中、悠斗はずっと後ろに付いていた。
しかしながら、悠斗もまんざらでもない気分だった。

「わー・・・凄い人・・・。」
「こんな天気にご苦労様で・・・。」

―陽菜の寄り道も意外と無駄ではなかったようで、目的地はドンキー本店から約15分の位置だった。
動物園に着いた悠斗達を待っていたのは、文字通り長蛇の列を作る大量の人と、『動物園』と書かれた巨大な看板が見える、入り口。

雨の日だというのに、予想外の人込み具合。
やはり梅雨だからだろう、雨の日など気にならないと言う事か。
かといってここで帰るわけにも行かない、悠斗達はすぐさまに列に並んだ。
そして直ぐにその後ろには人が並び、そしてその後ろにも、の繰り返し。
前方に見えるはずのチケット売り場は、まだまだ遠い。

「並ぶとして20分は待たされそうだな・・・大丈夫か?」
「大丈夫だよ、退屈しないしねっ。」
「ん、ならいいけどな。」
「悠君は、退屈?」
「お前と話してて退屈だと思う事は無いだろうな。」
「にー、それって、面白いって意味?」
「面白可笑しい、だな。」
「ぷーっ。」
「ほ・・・褒めてるぜ・・・?」
「その顔はうそだーっ!」

しかしながら、電車の道中程に時間は掛からないだろうし、今は待つ事が楽しくもある。
本当に単純だと、我ながら思う。
顔を膨らませる陽菜の頭を撫でながら、悠斗はつい笑ってしまった。

「―・・・ん~?」
「・・・どうした?」
「うん?う~ん・・・。」

そんな、騒がしくとも楽しい待ち時間が3分と経たない時だった。
ふと、陽菜が急に目の色を変え、一方のみを見つめているのに、悠斗は気づいた。
その視線の先には小さな女の子が一人。
キョロキョロと辺りを見回しては、行ったり来たり。

「・・・あの子、迷子・・・かな?」
「・・・遠目で良くわからないが・・・大丈夫なんじゃ―」

悠斗がそう言った矢先に、女の子は泣き出す。
どうやら、本当に迷子らしい。
内心は当たって欲しくなかった予想。
そして、それと同時。

「―すみませんっ!」
陽菜は列から飛び出し、女の子の方へと駆け寄っていった。
これも、予想通り。

しかし、さすがにアイツを一人には出来ない。
「ッ・・・やるとは思ったが・・・!」
悠斗も素早く飛び出し、後を追った。

――

「ひっく・・・おかあさん・・・おとうさん・・・。」
「よーしよーし、大丈夫だよ~。」

体制を低くして、女の子の頭を撫でてあげる陽菜。
さすがにいきなりの対応に驚いたのだろう、女の子は体をビクっとさせ、一歩下がる。

「ひっ・・・おねえちゃん・・・だぁれ・・・?」
「あやしいもんじゃございませんっ・・・正義の味方、なのだっ。」
「せいぎの・・・みかた?」
「そうなのだっ・・・さっするところ!おとうさんとおかあさんとはぐれちゃったのかな?」
「!・・・うんっ・・・うんっ・・・。」
「それじゃぁ、おねえちゃんも一緒に探してあげよう~っ!―ほら、悠斗隊員!女の子のパパママを捜しにいくのだ~!」
「・・・お前なぁ・・・。」

悠斗が来るのを解っていたのか、振り向いて、ニコリと微笑みかける陽菜。
しかし、悠斗は呆れ顔。
余りにも予想通りの行動だったからだ。
陽菜もそんな悠斗の心情を理解してか、両手を合わせる。

「ごめん!」
「・・・まぁ、こうなるとは思ったけどさ。」
「うー、だって・・・放っておきたくなかったんだもん・・・一人は、誰だって嫌だもん。」
「・・・。」

そして、いつか聞いた様な言葉を呟いて、一瞬、悲しげな視線を向ける陽菜。
それだけで、悠斗が理由を察するには十分で。
故に、悠斗は小さく「しゃーない。」と呟いていた。

そんな悠斗の表情に、陽菜は子供に再び微笑みかけて、手を繋いで歩き出す。

「ほら、いこうっ!」
「うんっ。」

子供もすぐに陽菜を気に入ったのか、手を繋ぎ、離さなかった。
歳の離れた姉妹の様な、何とも絵になる二人。

『一人は誰だって嫌だもん。』

―・・・ああ、そうだ。
そんな二人の後ろ姿に、悠斗はある事に気づく。

アイツはあの別れの日、俺を一人にしたくなかったんだ。
だからあの時、泣いていた。

自分の事なんかより、相手のことがずっと大事で。
昔と変わらない、本当に、どこまでもお人良しな奴。

でも、そうだ。
こんな陽菜だから、俺は好きになったのだろう。

悠斗は溜息を一息だけ付いて、二人と並んで歩き出した。

第三話 続く。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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