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月と太陽の出ぬ間に

第三話「空色キャンパス」

「さて、言うまでも無いが前回の続きだ、各自以前組んだペアは覚えてるな?と言う事で移動開始だ。」
「あの、先生。」
「む、なんだ、成瀬。」
「よく考えたら、普通の高校って美術は選択授業じゃ?」
「凄く今更だな。」
「・・・まぁ、素朴な疑問ですし。」
「だろ?全部が同じじゃつまらんし、いいじゃないか、美術がある分、他の授業が無いんだし。」
「・・・教師が言うセリフじゃないッスね・・・。」
「いいじゃないか、人間だもの。」

こんなおかしな理屈を捏ねる教師も他には居ないだろう、そんなことを思いつつも、悠斗は口には出さなかった。
確かに、美術の授業に助けられていることは何かと多いからだ。

時刻は進んで、3時間目。
4時間目まで続く、美術の時間。
以前ペアを組んで行ったデッサンの続きだ。
各々の生徒が道具を取りに、早々と外へ出て行く。
何せやる事が決まっているのだから、行動も早い。

そんな中、一人だけ、キョロキョロと辺りを見回している生徒が居た。
そう、陽菜だ。
柊と目が会うと、手を大きく上げ『先生!先生!』と椅子からぴょんぴょんと跳ねながら、柊を呼んだ。

「ん・・・ああ、そうか、お前は美術の授業が今回初めてだったな。」
「はいっ、それでその、私まだ道具を買えてなくて・・・。」
「ああ・・・まぁこんな時期での転入だしな、まぁ直ぐ来るさ。―と言う事で成瀬、高橋と一緒に美術準備室に行ってやってくれ、道具の場所は解るな?」
「あ、はい・・・んじゃ行くか?」
「あ!・・・先生先生!」
悠斗とは一瞬視線を合わせたが、すぐに柊のほうへ戻し、今度は教卓まで歩み寄って、元気良く呼んだ。
「先生が案内してください!・・・ついでにペアになってください!」
「嫌だ。」
「がーんっ・・・。」
「別に相手が誰だろうといいだろうに、大体私はサボらない生徒がいるか見張らなきゃ―。」
「にー・・・。」
「・・・・・・。」

トドメの一言を言う前に、柊の口は止まった。
陽菜が、うるうるとした上目遣いで柊を見つめていたからだ。
金縛りにかけられたように、視線から逃れる事が出来なくなっていた。
否、その目をいつまでも見ていたいような、そんな願望に、柊は駆られていて。

「・・・解った、私が案内するよ、だが。次回はちゃんとどこかに混ぜてもらえよ、私を見本と参考にしてもどうにもならんからな。」
気づけば、そんな事を言っていた。
「はーい!そうと決まれば早速しゅっぱーつ!」
「・・・その目は反則だ。」
「にに?」
「意図的じゃないから性質が悪いな、成瀬。」
「何で俺に振るんスかそこで・・・。」
「悠君!先に行ってるね!風ちゃんと一緒に頑張ってくるのだっ!」
「あ・・・ああ、何を頑張るのかは解らんが。」
「んふふ~。」

と、なにやら珍しく意図有りげな笑みを浮かべて、陽菜は柊と共に教室を後にした。

・・・何かが胸に刺さった気がした。
気に掛けるまでも無い、小さな針だが。
悠斗は気にしない事にした。

ペアで組むと言われているのだから、初めから柳野と組んでいる俺が組めないのは当然な訳だし。
案内する手間が省けた、ただそれだけなのだ。
そう思っておこう。

・・・行かなければ、柳野が先に待っている。
頭を切り替え、悠斗は早足で教室を後にした。

――

「・・・。」
「・・・・・・。」

公園の一角で淡々と絵を描き続ける、悠斗と柳野。
作業中の二人は、以前以上に無口になっていた。
別に仲が悪くなったからという理由等ではなく、単純に集中しているからだろう。

柳野はともかく、悠斗にとってそれは珍しい以外の何物でもない。
隣で黙々と絵を描き続ける悠斗の姿を見て、柳野は内心驚いていた。
普段の授業では全く集中しないどころか、寝る事にさえ抵抗を感じない男が、目の前で恐ろしいほどの熱中しているのだから、無理も無い話である。

とは言え、驚いているのは、やはり悠斗も同じだった。
自分がこんなにも落ち着いて筆を進めている事に、違和感さえ感じる程に。

「・・・悠。」
「・・・・・・。」
「悠・・・?。」
「・・・ああ、悪い、何だ?」
「・・・ううん、何だか、楽しそうだから、どうしたのかなって。」
「どうしたって?」
「いや、・・・昨日の発言といい、今日の集中といい、いつからそんなに美術が好きになったのかな、って。」
「んー・・・多分、最初からなんじゃないか?」
「・・・え?」
「美術(絵を描く事)は元より嫌いじゃなかったしな、子供の頃も良くラクガキしてた記憶もあるし・・・やる気が無かっただけだと思う。」
「・・・そっか。」
「そういう事・・・よし、デッサンはこんな所で、色でも塗りますかね。」
「・・・。」

確かに、悠斗の絵は、少しずつ、僅かながらにだが、描くごとに上手になっている事を、柳野は感じていた。
素人である事は丸出しだというのに、絵に関心が無ければ出せない絵柄が出ている。
描く事が好きでなければ出せないだろう、柳野は、悠斗の隠れた特技を見つけた気がして、どこか嬉しくなった。

「何笑ってるんだ?」
「・・・ううん、内緒。」
「さいですか・・・と、空の色はどんな色にすればいいか教えてくれ。」
「教えない。」
「えー・・・素人だからヒントくらいよこせっての。」
「だって・・・あんま教えると上達が早くて抜かれそうなんだもん。」
「おいおい・・・自分の絵と比べて何が抜かれるのか是非説明してくれ。」
「ふふ・・・でも、悠は本当に才能があるのかもね。」
「才能、か。」
「絵描くの、好きでしょ?」
「まぁ、嫌いではないな。」
「・・・いっそ、美術部に入る?」
「常に妹に見張られながら美術部は御免だな・・・。」
「七海さん・・・1年の中でも辛口だしね。」
「俺に対しては激辛だし。」
「仲が良い証拠。」
「何を言うか・・・。」
「んっと・・・空の色はね、グラデーションみたいに塗るとそれっぽくなるよ。」
「ぐら・・・でーしょん?」
「・・・そこから説明しないとだめ?」
「・・・うん。」
「・・・白と青の絵の具を出して。」
「ん・・・これとこれな。」

言われるがままに悠斗は青と白の絵の具を出し、パレットに付けた。
すると、柳野は悠斗の手を取り、教師のように、文字通り指導し始めた。
紫の長い髪が、ふと視界に入る。
瞬間、優しい匂いが、悠斗の周辺を漂う。

「まずは青に少し白を混ぜて・・・水色より濃目かな・・・いや、快晴にするならもう少し白く・・・。」
「・・・・・・。」
「うん、・・少し空っぽい、次は・・・。」
「・・・おーい、柳野さん・・・?」
「・・・あ、ご、ごめん。」

本人も教えるのに必死だったのか、無意識の内の行動だったようだ。
普段が恥かしがり屋なだけに、自分の行動の意味が良く解っているのだろう。
焦って手を離し、顔を真っ赤にする柳野に、悠斗は内心『可愛いもんだ』と思ってしまっていた。
ここまでウブな女子も今時珍しい。

「・・・後輩とかに教える時と同じ感覚でやっちゃって・・・。」
「いやまぁ、事実本当は後輩なんだけどな。」
「う・・・人がそこそこ気にしてる事を・・・。」
「留年をそこそこと言うお前は大物だな、将来が楽しみな事で。」
「悠も七海さんと同じで激辛だ・・・。」
「何を言うか、女性には優しいつもりだぜ?」
「・・・知らない、ほら、いつの間にか随分時間が経ってるし、空だけでも塗ろう。」
「解ったよ、部長。」
「・・・バカ。」

―お互いに集中していたおかげか、昨日の様な空気の重さは、もう感じられず。
2時間続きの授業は、思う以上にあっという間に終わった。
ここまで充実した授業は、もしかしたらこんな時間だけかもしれない。

別段美術が好きと言うわけではない俺だったが、これも柳野の影響だろうか。
美術部に入るのも、悪くない、そんな事さえ思えるほどに、絵に熱中していた気がする。

――4時間目終了後、昼食。

「―それでねそれでねっ、柊先生の絵がとにかくすごかった!」
「あの人の絵は理解超えてるからねぇ・・・模写なんてやらせたら上が居ないくらいだもん。」
「そうなのか・・・俺はあの人の絵を見た事は無いんだが、どのくらい凄いんだ?」
「・・・コンテストの常連だったみたいだしね、美術館とかに行くと見れるよ。」
「・・・俺みたいなド素人には見る気も失せるレベルだな。」

いつもの3人に、陽菜が増えて4人での昼食会。
今日もいつに無く巨大な弁当箱が並んでいた。
どうやら最近はいつも以上にハリキっているようだ。
さすがは弁当屋の娘・・・でいいのか。

「・・・悠も絵が上手になってるんだよ、少しずつだけど。」
「へぇ、意外だ、絵なんて描けなさそうな顔してるのに。」
「なんスかそれ・・・俺どんな顔スか・・・先輩。」
「今は本当に素人だけど、授業を真面目に続けていけば凄く上達する、かも。」
「悠君、美術部に入るんだ~っ?」
「いやいやいや・・・勝手に入れるな、妹が居るからお断りだぞ、大体男俺一人とかハーレムにも程があるだろ・・・ハーレム通り越して恥ずかしいわ。」
「そんなこと言って、チヤホヤされたり直接手で指導されたりしたいんじゃないの~?このおませちゃんは~?」
「からかわないでください・・・先輩。」
「あっははは、冗談だよ冗談!」

陽菜が入った影響もあろうが、何時もよりも騒がしい食堂のテーブル。
直助と二人だけで居た頃が懐かしいとすら思える賑やかさである。
しかし、それを楽しいと思う自分が居る。
これではもう中抜けが出来ないな、などと思い、悠斗は笑った。
そう思える、和やかな空気の中。

「・・・あー、そういえばさ、風華。」
「何?」
「アンタさ、やっぱコンクール出なよ。」
「・・・え・・・?」

空のこの言葉が、突如走った。
表情から見るに、いつもの冗談ではない。
柳野もそれを理解しているのだろう、全く解らない、と言わんばかりの陽菜の隣で、表情を暗くしていた。
同じ立場だったら自分もそうなっていただろう、そう思うほどの不意打ち。

「・・・もう時間なんてほとんど無いよ・・・?」
「今授業で描いてるんだろ?なら、それを部活で描き加えて出せばいいじゃないの。」
「で・・・でも。」
「でももヘチマもへったくれも無いの!アンタが出ないと部員達がどうもしまらないみたいでさ?」
「そんな・・・。」
「巴先生直々に出るように説得してくれって言われたんだから、それに、来年にゃ二回か三回しかチャンスがないんだからさ、ココを逃すべきじゃないと思うんだよね、私としても。」
「・・・でも・・空も私の絵見たでしょ・・・今の私の絵じゃ・・・。」
「解ってる・・・でも『今の風華』じゃなきゃ描けない絵もあると、私は思うから。―やらないで後悔するよりやって後悔する方が、ってね。」
「・・・。」

柳野の苦し紛れの言葉全てを、空は一刀両断してみせた。
結局のところ、昨日の自分の出番は必要なかったんじゃないのか?
悠斗は空の押しの強さを見て、そう漏らしそうになった。

だが、言いたい事も含めて、口は出さない。
悠斗は一瞬だけ柳野と目を合わせて、首を縦に一振りするだけだった。
伝えたい事は、もう伝えてあるからだ。

「風ちゃん!私も一緒に描くから頑張るのだ!」
「・・・陽ちゃん・・・。」
「風ちゃんの絵をね、空ちゃんに見せてもらったの。―凄くキレーで、安心する絵。」
「・・・。」
「うん・・・何て言えばいいのかな・・・もっと風ちゃんの絵がみたいのだ。」

陽菜までが真剣な顔つきで、柳野へ語りかけていた。
コイツに至っては、事情さえ理解してないだろう。
解っているのは、柳野が思う様な絵を描けなくなった、と言う事だけ。
つまり、俺の様な裏も無い、それは純粋な願い。
そんな、願いが、言葉が通じたのか。

「・・・解った・・・少しだけ、考えさせて。」

柳野は、顔を上げて、そう答えた。
そこには、弱々しい表情は無く。
どこか、覚悟した様だった。

「・・・そっか、解った、部員の皆にはそう伝えておくよ。」
「え・・・ちょっと待って空!それだと皆がこっちに来て・・・。」
「そのために伝えるんだけど?みーんなアンタが人の頼みごとは断れないの知ってるんだから。」
「うう・・・。」
「なーんて、冗談よ、復帰するかどうかはアンタで報告しな。」
「!・・・うん。」

そんな柳野の表情に、空も表情を戻した。
もう、心配は要らない。
そう、感じだから。

悠斗もまた、安堵の表情で、それを見ていた。
少しでも貢献出来たなら、と言う自己満足からでもあるのだろう。
しかし、悠斗の心配はこれで終わりでは無く。
この時点で、ある事に気づいたのだ。

「・・・・・・というか陽菜、一緒に描くからって・・・?」
「に?」
「・・・ああ、悠は知らないんだっけ・・・陽ちゃん、美術部に入る事になったんだ。」
「そう、なのか?」
「うんっ!やっぱり運動はちょっと苦手だから・・・。」
「・・・。」

そう、部活での柳野の活動に参加する、と言う事は、つまりそう言う事だ。
確認してしまった自分が馬鹿らしい。
しかし、それでも確認したかったのだろう。
自分が入らないと豪語していた部活に、陽菜(好きな人)が入ると言うのだから。

「はっはーん、成瀬君、一緒の帰り道楽しみにしてるもんね~毎度。」
「・・・先輩?」
「いやーん、そんな怖い顔しないで~。」
「ったく・・・怖がっても居ないくせに・・・。」
「あ・・・悠君!ちゃんと一人で帰れる!?道解る!?」
「・・・お前は俺の母さんか・・・道くらい平気だっつーの。―そりゃ確かに方向音痴である事は認めるが・・・。」
「にー、そのくらい解ってるよー、ちょっと心配になっただけなのだっ。」
「・・・お前が言うと冗談に聞こえないんだよなぁ・・・。」
「にに?」
「本人は至ってマジだものね。」
「ですよねー・・・。」

そして、彼女が部活に入ると言う事は、つまりそう言う事だ。
内心は、少しだけ寂しい、悠斗は表情を隠しつつも、そう素直に思った。
まるで子供のよう。

いや、実際にわがままな子供なのかもしれない。
好きな人と帰れないからと、駄々を捏ねたくなるなんて、ガキじゃないか。
とは言え、それを口に出せるはずも無く。

・・・俺も美術部にでも入ろうかな。
そんな本心に忠実な自分を、笑ってしまいたくなった。

第三話 続く。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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