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月と太陽の出ぬ間に

―正直、後悔した。
コレで、俺の楽しい日常は終わってしまうのか。
大袈裟ながらも、そう思って。

あれだけ必死だったからだろう、今は途切れ途切れにしか覚えていない。
明確に覚えているとすれば、期待と不安、そして、急に泣き出した、陽菜のぐしゃぐしゃな顔。

第三話「体感、予感、悪寒。」

「ひぐっ・・・うぐう・・・うぅぅ・・・・。」
「・・・お、おい?急に泣き出してどうしたんだよ・・・?」
「・・・ひぐっ・・・うう~・・・・ひっく・・うわぁ・・・!」

本当に、それは急だった。
俺の胸にしがみついて、泣き始める陽菜。
その時点で、お互い手に持っていた傘は落ちて、雨に晒される。
だが、そんな事は悠斗にとってもうどうでも良かった。
何故泣いてるのか、泣かしてしまったのか。
それだけが脳裏を徘徊していた。

「ひぅぐ・・・ひぐ・・・・。」
「・・・陽菜・・・どうしたんだよ・・・?」

異常だと思えるほどに、陽菜は泣いていた。
雨の音に掻き消されてしまいそうなほど、小さな声で。
小さな身体はより小さく見え、それが余計に不安を煽る。
そんな中。

「―・・・ごめん―。」
「・・・は?」

陽菜は震えたその口を開く。

「ごめんね・・・ゆうくん・・・ごめんね・・・ごめんね・・・・・・ごめんね・・・!」
「・・・泣く事無いじゃねえか・・・別に俺を振る事は悪い事じゃ―。」
「違うの・・・違うの・・・!」
「・・・じゃあ・・・何なんだよ・・・?」
「わだしね・・・ゆうぐんの・・・願う姿にはなれないの・・・。」
「俺の願うお前の姿・・・?何だよそれ・・・。」
「ごめんね・・・ごめんね・・・!」
「・・・謝られたって解んねえよ、馬鹿。―少し落ち着けって・・・。」
「ひっぐ・・・そうだよね・・・わたし・・・ばかだよね・・・。」
「・・・。」

否、本当に異常だ。
余りに突然の陽菜の錯乱。
考えるよりも早く、その手は陽菜の頭の上にあった。

「・・・もっとこうして・・・悠君と一緒に・・・願っちゃったんだもん・・・昔みたいに一緒に遊びたいって・・・思っちゃったんだもん・・・!」
「陽菜・・・!」
「夢でもいい・・・幻でもいいからって・・・誰でもいいから願いを叶えてって・・・思っちゃったんだもん・・・。」

言葉の意味は、全く解らない。
何故謝るのかも、解らない。
そもそも、それを考える余裕すらない。
・・・いや。

「・・・何が悪いんだよ・・・。」
「・・・え・・・?」
「お前が何に謝るかは知らねえけど・・・俺はお前に謝られる様な事、された覚えもねぇよ・・・そんな事も解らないで謝る・・・お前本当に馬鹿だ・・・ああ大馬鹿だ!」
「悠くん・・・。」

陽菜は何も悪くない。
そんな事、考える必要も無いのだ。
混乱しつつある頭でも、それは解ったらしい。
むしろ、こっちが謝りたい事だらけなのだから、当然と言えば当然なのかも知れない。
感謝したい事だらけでもあるのだから、尚更。
気持ちのままの言葉。

だからだろう、それは何時もの悠斗からは想像出来ない程の強い口調で。
だからだろうか。

「―・・・泣いてるの・・・?」
「・・・は?」

雨だから解らなかったのだろうか。
悠斗はそう言われて、初めて自分が泣いている事に気づいた。
気づくわけもなかった、内心それ所ではなかったのだから。
そもそも、自分が泣くなどとは思っても居なかったのだ。

「・・・何で・・・泣いてるの?」
「・・・お前こそ何で泣いてるか言え・・・。」
「えええぇ・・・なんで質問をしつもんでかえすかなあぁ・・・?」

涙を拭く素振りを見せなかったのは、自分が泣いていると思わせたくなかったから。
質問を質問で返したのも、そんな小さなプライドから生まれた、小さな抵抗。

「うっさい・・・言え。」
「恥ずかしい・・・。」
「俺がどんな思いで告白したと思って・・・ってああもう・・・空気が台無しじゃねえか・・・。」
「あはは・・・本当だぁ・・・。」
「・・・泣きながら笑いやがって・・・。」
「だって・・・嬉しいのと悲しいのが両方あるんだもん・・・。」
「両方・・・?」
「うん、でも・・・どうしてかは恥かしいから内緒っ・・・。」

対して、落ち着いてきたのか、相変わらずの泣き顔ながらも、何時もの笑みを取り戻している陽菜。
この時点で、慰める筈が、逆に慰められている様な気がして。
悠斗は情けない自分に嫌気が差しそうだった。

しかし、内心は陽菜の笑みに安堵している自分が居るのも事実であり。
気づけば謎の涙はもう出なくなっていて。
目に籠もった熱だけが、まだ少しだけ残っていた。

「・・・返事は・・・聞いていいか?」

そんな、ようやく落ち着きを取り戻した空気の中。
おそるおそる、悠斗は聞いた。
何で確認するような事をせにゃならんのだ、そう思いながら。

「・・・うんと・・・すこし考えさせて、じゃだめかなぁ・・・?」
「・・・それに対して俺がNOと言えるか・・・?」
「うう・・・ごめんね。」
「・・・いいって・・・俺の気持ちの整理とかせんと・・・な。」
「・・・うん、また、明日だね。」
「・・・悪いな・・・急で。」
「ううん・・・悠くんの気持ち、嬉しかった。」
「・・・それじゃ、風邪引かないうちに帰るか。」
「・・・うん・・・。」

陽菜は、ゆっくりと悠斗の胸から離れて、傘を手に持った。
もはやずぶ濡れの身体には、意味など成さない傘。

「本当に、ありがとう。」
「なんだよ、改まって。」
「・・・ううんっ、なんでもないっ、また明日、学校でねっ!」
「あ、あ・・・また明日な。」

やはり、最後は笑顔で、陽菜は走り去っていった。
ずっと、悠斗が見えなくなるまで、後ろを振り返りながら、走っていてた。
悠斗は、その姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。

そして、姿が見えなくなると同意、手を下ろして、深く、まだ20にも満たない短い人生の中で、最も深く、長い溜息を付いた。

「・・・・・・やっちまった。」

迷いに勝ったのは、本当に一瞬のような時間。
訪れたのは、壮大な後悔と、少しばかりの期待。

今日の俺は本当にどうかしてると思う。
あんだけ迷ってたというのに、どうして言ってしまったものか。

勢いで言ってしまった様な感覚は否めない。
酒の所為にしたくても、飲んだ酒は一杯だ。
トリガー(引き金)になった事は事実でも、そこから先は全部俺自身の言葉。

それでも、後戻りなど出来るわけも無く。
後はなるようになれ、と言う事だろうか。

ただ、心底悪い気はしない。
さらば青春、小さく呟いた後、ずぶ濡れの悠斗は一人帰路を歩き始めた。

――

「―お帰りなさい、に・い・さ・ん?」
「・・・おぉう・・・。」

家に帰ると、当然のように鬼の形相をした七海が待っていた。
予定していた帰宅時間は1時間過ぎ、傘を持っていながらもずぶ濡れ。
もはや言い逃れの出来ない状況。

俺に明日は無いかも知れない、などと冗談を脳裏に過ぎらせてみたが、目の前の光景は紛れも無い現実である。

「・・・そのだな、うん、かくかくじかじかと・・・。」
「言い訳は聞きません!」
「ぐぼぁっ!?」

怒鳴ると同時に、強烈なレフトナックル。
久しぶりの黄金レフトに、悠斗は心臓が止まりそうになった。

「・・・さすが・・・鋼鉄の妹・・・。」
「・・・誰が鋼鉄ですか・・・ああもう、手が汚れてしまった・・・。」
「・・・それは俺の責任じゃないな・・・。」
「兄さんが濡れるのが悪いんです!・・・とりあえずバスタオル持ってきますから、其処を微塵とも動かない様に。」
「・・・へーい・・・。」

可笑しな話、こんなやり取りに『我が家』を感じるのだから、慣れとは本当に恐ろしい。
しかし、今だけはありがたい。
腹を押さえながら、悠斗は思った。

「あ・・・七海。」
「何ですか?」
「お前、魔法少女リリーって知ってるか?」
「何を急に・・・・・・まぁ、有名な漫画ですよね、ウチに漫画はありませんが、アニメで良くお母さんと見てたじゃないですか、覚えてません?」
「・・・・・・愚かなのは俺の方だったか。」
「え?」
「いや、何でも無い・・・風呂、沸いてるよな?」
「ええ、雨の中の帰り道は寒いと思って、暖め直しておきました。」
「サンキュー。」

しかし、殴られた時点で一つや二つ文句を言っていたのが本来で。
七海は、そんな兄の大人しさに違和感を感じた。

「・・・兄さん?」
「ん?」
「確か今日は皆さんと出かけていたんでしたね・・・何か・・・ありました?」
「!・・・ちょっとな。」
「・・・ちょっと?」

それに気づいた悠斗も、心配な表情を浮かべる七海に「気にする事でもねえよ」とだけ言い残し、浴室へと向かった。
「今日の件に関して話せば、説教は確実。」そんな予感がしたから。
何より、話す気になれなかった。
理由は、言うまでも無い。

――その日、悠斗は布団に入ってものの数分で眠りについていた。

今日は眠れないとさえ思っていたというのに、体はきっと疲れていたのだろう。
その意識は直ぐに沈み、視界は途絶えた。

『俺の願う陽菜』とは、何なのだろうか?
そんな疑問と、明日への緊張と不安を残して。

――

暗かった視界は急に広がった。
気づけば俺は外に居た。
雨の中傘も持たずに。

そう、今日は夕暮れ、別れの日。

ゆびきり~げんま~。
うそつ~いたら~は~りせ~んぼーんのーます~
ゆびきったっ。

―やくそく。

うん、やくそくなのだっ。

―・・・。
ないちゃだめだよっ、おとこのこだろっ・・・。
――・・・・・・!
またあえるのだ・・・だからないちゃだめ・・・。
――・・・ばいばい。
ばいばいっ。

―・・・涙目のまま笑顔で去っていた彼女を、俺は目に焼き付けていた。

ああ、解った。
遠くなっていく陽菜の姿と、あの時の陽菜の姿は、似すぎていたから。
また目の前から消えていく様な、そんな気がして。
それが恐くて、俺は泣いたんだ。

出来れば知りたくなかった、情けない理由。
これが夢で良かった、再び消えていく意識の中、悠斗はそんな事を思った。

――暗転、気づけば朝。

小鳥の鳴く声だけでは、どうも現実味が足りない気がする。
途切れ途切れの夢の所為だろう、どうにも、目覚めの悪い朝。
眠りはああも心地よかったというのに、目覚めがこうも悪いのは、なんだか騙された気分だ。

とは言え、時計を見る限り二度寝する訳にも行かなかった。
登校時間など、とうに過ぎていたのだ。

・・・陽菜の奴、風邪を引かなかっただろうか。

あんな細い体だ、ずぶ濡れにしてしまった俺にも責任はある、心配してもバチは当たるまい。
何より、あんな事の後だ。
自分の告白をあんな事、なんて、若干悲しくはなるが、俺にとっては的を得ているから、尚悲しくなる。

――朝食も食わずに家を出た悠斗は、ひたすら走った。

別に急ぐ事でもないというのに、足はひたすら前に進み、気持ちはさらに前に出ていた。
別に急ぐ事でもないというのは解っている、それでも焦らずには居られないのだ。

登校路を駆け抜け、息を切らしながら、悠斗は学校へと到着した。
靴を脱ぎ、上履きに履き替え、かばんを背負い直し、教室へと向かう。
遅刻(誰も居ない時間)で良かった、そう思えるほどの焦り様で。

そして、ものの1分ほどで教室に到着し、勢い良くドアを開ける。

「―遅刻しました・・・!」

そう言いつつも、目では即座に陽菜の席を確認する悠斗。
しかし、そこに陽菜の姿は無かった。
まさか、本当に風邪?
脳裏に過ぎる昨日の出来事。

「久しぶりに遅刻だな、成瀬?」
「い・・・いや、っていうか何で柊先生が。」
「当たり前だろ、今HRだぞ、まぁ終わる所だが。」

最初の一声放ちながらも教師の姿を見もしなかった悠斗は、そこに柊が居る事に始めて気づき、驚きの声を上げた。
呆れたような表情で、柊は悠斗に拳骨を喰らわせた。

「いでっ!」
「教師の顔も見ずによくもまぁ『遅刻しました』など言う・・・どうせ久しぶりだから遅刻してもいいなんて思ったんだろ。」
「せ・・・生徒に暴力を振らないでください・・・。」
「ほう、一応生徒である自覚はあるんだな。―まぁ・・・珍しく息を切らして走ってきたのだからこれで許してやろう、席に座れ。」
「はい・・・。」
「それじゃ、馬鹿も着たし、皆には悪いがもう一度今日の連絡事項を―。」

周りの生徒の笑い声の響く中、悠斗はとぼとぼと席に戻った。
そして自席に座った悠斗の後ろでは、未だに笑い続ける直太。

「久しぶりに喰らったねぇ~、柊先生の愛の拳・・・。」
「・・・。」

堪えきれない、と言わんばかりに顔を膨らませる直太。
ああ、俺はお前に拳を喰らわせたい。
そう思った悠斗だったが、今はそんな事はどうでも良く、別に聞くべきことがあった。

「なぁ直助。」
「どうしたマイフレンド、傷ついた自分を慰めて欲しいか?」
「ねーよ。―陽菜の姿が無いんだが、HRで何か連絡なかったか?」

こんな話をすればまたからかわれると思ったが、そんな事は思慮の他。
直助の下らない冗談を流し、悠斗は聞いた。
その、途端だった。

「ああ・・・・・・ああああああ!!」
「―!?」

突然に叫び出す直太。
先生が去った後だからいいものを、悠斗は内心文句を垂らしつつ、聞いた。

「ど、どうしたんだよ急に・・・?」
「そうだよ成瀬!お前何か知らないか!?」
「・・・何かって、何を?」

帰ってきたのは、質問。
言えた立場ではないが、質問を質問で返されるのは余り良い気分ではない。
しかし、今はそんな事はどうでも良く、悠斗が気になるのは、直太の言葉の続き。
その表情からするに、陽菜はただの風邪で無い事は解ったからだ。

「いやだから!彼女が親の都合でしばらく学校来れないかもって・・・もしかしたら転校もありえるって先生言ってたんだよ・・・お前あの子と幼馴染なんだし、何か知ってるだろ!?・・・俺はもうそれが聞きたくて聞きたくて・・・。」
「・・・親の都合・・・?」
「・・・成瀬?」

瞬間、背筋が凍るような感覚が、悠斗を襲った。

―親の事情。
休む事が多い、そう言われていた陽菜の、居なくなる理由。
普通ならそれで納得してしまえる。

だが、悠斗は違った。

本当なら、もっと早く踏み出すべきだったかもしれない、陽菜の内情。
それでも、聞けるわけが無かった事実。

―今までうやむやにしてきたそれが、最悪なタイミングで顔を覗かせた。
まるで、何かを阻むように。

「・・・何がまた明日・・・だよ。」

悠斗は誰に言うわけでもなく、そう漏らしていた。

第三話 続く。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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