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月と太陽の出ぬ間に

「あら風華・・・どうしたの?」
「・・・・・・。」

―すっかり暗くなった空、午後7時、神崎家。

チャイムに呼ばれた空が、家の裏玄関を開けると、そこには柳野が泣きそうな顔で立っていた。
それは本当に、解り易い表情で、空はその時点で察した。

「・・・突貫したの?」
「・・・。」

無言でコクリと頷く柳野。
その姿はまるで弥生の様で。
なんとも、愛しかった。

「・・・ホント、アンタも彼も真っ直ぐすぎるね。」
「・・・空・・・。」
「うん?」
「少しだけ、胸を貸して。」
「・・・ほいよ。」

倒れる様に空の胸へと頭を乗せる柳野。
小さく、誰にも聞こえないように、柳野は泣いた。

「・・・良く頑張ったよ、アンタも。」
「・・・・・・。」
「後悔は、無いね?」
「・・・。」
「うん、まぁ無いといえば嘘になるよな。」
「・・・・・・解ってる、くせに・・・。」
「あっはは・・・でも今回の君らを見て少し触発されたよ・・・私もそろそろ恋を再始動しようかなっと。」
「・・・。」
「まぁ今回はタイミングが悪かったね、アンタも・・・後は、相手が悪かったかな。」
「・・・そう、だね。」
「うわ、めっちゃ嫉妬してんなぁ風ちゃんったら。」
「ち、違うよ・・・ただ・・・。」
「ただ?」
「両想いってのが、こんなに羨ましいとは想わなかったんだ・・・。」
「・・・じゃんじゃん泣け泣け、そうやって女は成長するもんだ。」
「・・・うん・・・。」

しばらくの間、柳野は泣き続けていた。
悔やむ様に、長き想いを惜しむ様に。

後悔の無い恋なんて、きっと無い。
当たり前だ、全部の想いが伝えられるとは限らないし、想ったように接する事が出来るとは限らない。
惜しまない筈も無い、その恋は一度だけなのだから。

でも、それもいつかきっと思い出になっていく。
だから、今は。

「とりあえず、今はお疲れ様。」
「・・・ありがとう・・・。」

空はそう言って、柳野の頭を撫でた。

空が、男の子だったらよかったのに。
彼女の胸の中でそんな事を少しだけ思う、柳野だった。

――第四話「追う日々」

「・・・おかえりなさい、兄さん?」
「・・・おおう・・・すまん。」

午後7時。
仁王立ちで悠斗の帰りを待ち構えていたのは、勿論七海。
反射的に悠斗は謝罪の言葉を口にした後、逃げるようにいそいそと靴を脱ぎ、玄関を上がっていこうとする。
今脳内で考えている思考を、濁したくなかった。

「待ちなさい兄さん。」
「・・・。」

当然、七海がそれを逃がす筈も無く、その肩を掴む。
やはりか、と悠斗は逃げ切らんと足に力を入れ始めた。
しかし。

「空先輩から聞きましたよ、陽菜さんが学校を休んでるんですって?」

七海の言葉から出て来た台詞は、予想外。
ピタリ、と悠斗の体が止まる。
図星か、と七海は続けた。

「・・・昨日寝込んでたのはソレが原因ですか。」
「・・・何も聞かないんじゃなかったのかよ。」
「あれだけ心配してあげた妹に対して、二度と門限を破る兄との口約なんて、覚えてない。」
「・・・。」

半分口実、半分本心と言ったところか。
どっちにしろ、もう選ぶ権利は無さそうだ。
目を細める七海を前に、逃走の不可を悟った悠斗は、溜息と共に口を開く。

「・・・解った話す・・・話すけど、驚くなよ?」
「いいんですか?・・・心の準備って言うなら受け付けますけど、その時が着たらって言っていたのは兄さんですし。」
「時間が、無いからな・・・そんだけ聞いといて今更やめるなんてのは無しだ。」
「・・・解りました。」

七海は、悠斗の表情がどこか勇ましいように感じた。
覚悟のような、悠斗から一番遠い言葉。
昨日までは、何かに怯えていた様だったと言うのに。

――そして、悠斗は七海にあった出来事の全てを話した。
告白した事、告白された事。
自身でも完全には把握しきれてはいない現状を。
しかし、二回目とあってか、終始落ち着いた様子で話す事が出来ていた。

信じ難い事実を受け入れた上で、今自分に出来ることを理解しているからだろうか。
それとも、コイツ(妹)に二度と情けない顔を見られたくないと言う、意地なのか。
どっちにせよ、複雑だ。
目の前の妹を見ながら、悠斗はそんな事を思った。

「―・・・どうしてお前が泣いてるんだよ。」

全てを話し終えた頃、七海は玄関前の壁に体育座りをして丸くなっていた。
悠斗の言葉に対しても、顔を見られたくないのだろう、伏せたままで答える。
そう、いつの間にか号泣していた。
これでは、泣くに泣けまい。

「だって・・・そんなの悲しすぎます・・・両想いなのに叶わない恋なんて・・・漫画の中だけで良かったのに・・・。」

なんとも七海らしい返答。
こういう感情的な所も、母親似。
本当に似ない兄妹だと思う。
悠斗は思わず笑いそうになる所を抑えながら、返す。

「―これから、叶えに行くんだよ。」
「・・・どうやって?」
「具体的な方法は知らん。―とにかく、アイツが行きそうな所を片っ端から行くしかない・・・少なくとも高い確率で居そうなアテがまだ3つ程あるし。」
「・・・え・・・?」
「・・・ってワケだ、これから着替えて、少し行って来る。」

そう、笑ってる場合ではないのだ。
柳野との事もあってか、悠斗は動かずには居られなかった。

「だ、ダメですよ!・・・こんなに暗いのに。」

戸惑いの表情を見せながら、止めに掛かる七海。
門限を破った上に先日は風邪まで引いてきたのだ。
二度ある事はとも言う、似たような事になるかもしれない。
七海の不安も尤もだった。

「悪い・・・今行かなきゃいけない気がするからさ。」

しかし、兄の返答を理解しても居た。
今日の兄さんは、いつもと違う。
目を見ただけで、それを解ってしまったから。

「・・・・・・解りました・・・でも、帰ったらご飯はちゃんと食べてくださいね、夜は寒いですし、風邪を引かないように、それと―。」
「大丈夫だって、子供じゃないし、出来るだけ早めに帰る・・・だから心配すんな。」
「・・・そうじゃないんです・・・そうじゃ・・・。」
「・・・んじゃ、行って来る。」
「あ・・・。」

自分の頭を優しく撫でて、微笑む兄の姿に、七海は言い出そうとした言葉を言えないまま、悠斗を夜の外へと送り出した。

「・・・人の気も知らないで。」

―どこか、兄が遠くへ行くような、そんな気がして、恐くなってしまいそうだった。
こんな夜の深い外に兄を出してしまった事も理由だろう。
でも、私の胸の内にあったのは、それだけではなかった。

生活態度も悪く、授業もまともに受けない、周りからは不良と称される、普段から見てみれば、情けない兄だ。

そんな、そんな兄が、一人の女性の為に必死になろうとしている。
そう思うと、巣立ちを見送る親鳥のような、そんな気分に、私はなってしまったのだ。




外へと出た悠斗がまず手がかりとして最初に向かったのは、心当たりで最も近場な、陽菜と最初に会ったあの公園。
きっとそこに陽菜は居ないだろう。
行く前から答えを解っては居た悠斗だったが、行かずには居られなかった。
そもそも、行くべきか行かないべきか、などと考えていられる程、冷静になれなかったのだ。
陽菜に会う、ただそれだけを考えて、悠斗は走っていた。

梅雨が終るまでのその一分一秒でも、陽菜の事を考えたい。
陽菜と一緒に居たい。
このまま別れるなんて、出来やしない。

アイツもきっと、同じ気持ちだ。
あの涙と鼻水まみれの声で言った告白は、全て本当だと思うから。

―だから今は、ただ暗がりを走り続けよう。
どこかで待っている、君を探して。

「・・・クサ・・・。」

脳裏に浮かべた詩の様な言葉に対し、悠斗は吐く息に混ぜて、小さく感想を述べた。

我ながら、つまらない青春小説の主人公が言いそうな台詞だと思った。
好きか嫌いかと問われたら、後者と答えるジャンルだ。

だが、今ならそんな格好付けるばかりの連中の気持ちも、少しは解るかもしれない。
詩の一つや二つ、書き残したくなるよ。
誰かに、この心を話してみたくもなるよな。
こんな事を思うなんて、アイツと会うまでは考えもしなかった。
影響力とは恐いもんだ。

―また笑いたくなるのを堪えながらマラソンする事、約十分。

「・・・陽菜ー!」

辿り着いて第一声、悠斗は荒い息を吐きながら、陽菜の名前を呼んだ。
公園としては規模の小さいこの場所全体に届かせるには、十分過ぎる声量。
だが、あの声は返ってこない。

入り口から見渡しても、そこには人影一つ無い。
・・・完全に無人。

当然といえば当然か。
腕の時計は既に夕方五時などとっくに過ぎている。

「・・・良い子はおうちに帰ってる、ってか。」

ふと口から出た独り言にさえ、答える者は居なかった。
夜の公園は、無音で、寂しさだけを奏でている。
まるで、諦めを誘うかの様に。

飲み込まれるな、居ない事は解っていたんだ。
へこたれてる場合でも無いだろう。
まだ、探す場所はある。

―そんな誘惑を払うが如く、頬を強く叩いた後、悠斗は再び走り出した。
折れそうになる心を隠すように、ただ全力で。

しかし当然、ここに来るまでに使った体力と足の筋力が、邪魔をする。
「・・・ッ!」
走り出して数分としない内に、その足は減速、徒歩とさして差が無い程度になっていた。
足に走行を促しても、上手く動かず、痛みを訴えるばかり。

「こんなことなら・・・運動部でもやっておくんだったな・・・。」

更に荒くなる呼吸に、悠斗は愚痴る様に呟いていた。

だが、休んでいる暇は無い。
今度の目的地までは、此処以上に距離がある。
夜はどんどん深く、暗くなっていく。

全速力でなくても良い。
止まる事だけは、してはいけない。
消耗を最小限に、その中での最大速度で。
痛みに耐えながら、悠斗は三度走り出した。




『ここは陽菜と―』
『ここで陽菜が―』

長い道中、変わり続ける景色を目にしていく中で、悠斗は何度かそんな事を脳裏に過ぎらせていた。
それらは陽菜と出会った中で起こった、何ら面白みの無い、些細な事。
それこそ、語れるサイズの内容も無い程の。

だと言うのに、俺は覚えていた。
その全てを、気持ち悪い程に事細かく。

忘れるには短い時間の経過だからか、それとも俺が女々しいのか。
いや、どっちだっていい。

俺にとってこの記憶は、今までに無い新鮮なモノだから。
覚えていて当然なのだ。

――

「・・・ここか・・・。」

あの公園から走る事、約五十分。

辿り着いたのは、教師柊に渡されたメモに書かれた住所、陽菜の借りているマンション。
夜だからか、そのマンションの巨大さは尚増して見える。
人気を感じない所為だろう、幽霊スポットの様な不気味さもあった。

もう随分な距離を走った足の痛みに、悠斗はアパートを目の前に、さらに歩くペースを早くした。
時刻は既に9時を刻もうとしている。
急な階段を登り、メモに記してあった部屋に辿り着いた。

確かに、そこには『高橋』と書かたプレート。
だが明らかに、そこには人の居る様子など無い。

それでも恐る恐る、悠斗はチャイムを押した。

―ぴんぽーん。

低めのベル音が鳴り響く。

・・・十秒待っても、返事は無い。

―ぴんぽーん。

気づけば、無意識に二回目を押していた。
・・・十秒、勿論、返事は無い。

そして、三度目。

―ぴんぽーん。

チャイムを押す手は、止まっていた。

・・・次はどこへ行こう。
この辺りだと、もう手がかりが無い。

その部屋から背中を向け、階段を下り始めた頃には、足の痛みも、先ほどまでのテンションも、どこか冷めかけていた。

それ自体は、思った通りの結果。
だと言うのに、どこか心は傾いていく。
当然だ、心の隅では希望を持っていたのだから。
無論、諦めた訳ではない。

「・・・陽菜・・・。」

それでも、今日と言う日が終る事は、どこか恐い。
明日には、梅雨が終っているかも知れないのだから。
だからきっと、俺は今日動き始めていたんだと思う。
この息苦しさから、どうしても逃れたくて。

アパートを出た悠斗は、改めて時計を確認する。

時刻は、9時と半を回ろうとしていた。
早めに帰ると言ったはずだというのに、これでは今家に帰ったとして、家に着く頃にはもう10時を過ぎるだろう。

「・・・今日は帰ろう。」

これ以上七海を心配させては、明日の朝日さえ拝めないかもしれない。

悠斗はメモをポケットにしまい入れ、来た道を戻り始めた。
暗闇の道路は、先の見えない真っ暗闇。
照らす電灯が、ギリギリでそこを道だと解らせてくれる。

残った手がかりは、遠い距離ばかりで、行ったとしたら帰るのは10時過ぎどころでは無くなるだろう。

駅を超えた動物園、アクセサリーを買ったショップ、細かく言うなればまだまだある。

まるで、思い出を巡る旅の様で、虚しい気分だ。
まだ、思い出にするには早すぎるってのに。
なんでこうも、思い出すのだろう。

―それは公園を見た時から。

子供の頃遊んだあの公園。
猫と会話する陽菜の姿を、俺は幼い頃、見た事があった。

あの独特な口癖も、そんな仕草も、子供の頃から何一つ変わっちゃ居なかった。
すぐに泣く所も、すぐに笑う所も、馴れ馴れしい位、人と接する所も。

駆け巡るソレは、走馬灯の様で。

「・・・思い出にするには早いってんだろうが・・・。」

悠斗は首を大きく横に振って、振り払おうとする。
恐いのは解ってた事だ。

失うのは誰だって恐い。
終るのは誰だって恐い。
それでも、まだ止まるわけには行かない。
梅雨が終わらない事を、信じるしかない。

「そうだ・・・まだ明日がある、まだ・・・。」

今日はもう、帰るしかないんだ。
身体を休める事も、必要なんだ。
暗示でもかける様な勢いで自身に言い聞かせながら、悠斗は立ち止まっていた足をまた動かして歩き始める。

―そんな、自分の事ばかりに集中していた所為だろう、悠斗はこの時気付けなかった。
後ろから来る、光りを放つ物体に。
気づかぬ内に、歩行者の通路から大きく外れ、道路へと出ていた事に。

暗闇を掻き消す勢いで走る光の正体は、バイク。
悠斗が後ろを振り向いた時には、既に光は目の前にあった。
そして。

・・・―ドンッ!

夜の静かな町に、不吉な音が響く。

第四話 続く。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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