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月と太陽が出ぬ間に

第五話「絆」

「・・・眩しい。」

―週末の朝、日差しが眩しい中、悠斗は家の前で一人タバコを手に待っていた。

滅多に吸うシロモノじゃないが、時折口が寂しいと感じるので、常に携帯している。
似合わないし身体に悪い、と七海に言われているのもあってか、妹の前では吸えない。
そんな理由もあって、家の外に居る。
とは言え、今日に限ってはそれだけではないのだが。

「・・・お、いつからタバコなんて吸うようになったのさ、成瀬君ー。」
「・・・今年に入ってからかな、悠が吸うのを見始めたのは。」
「いや、去年からっスよ、僕の前ではしょっちゅう吸うんだから・・・。」
「・・・。」
「・・・えーと、皆さん・・・?」

―そう、今日、この時間は我が家で待ち合わせ。
聞き慣れた声に振り向くと、そこには確かに、見慣れた3人の姿があった。
来る事は解っていたが、予定の時間よりも少し早い。
だが、悠斗の表情は驚いていた理由は、そんな事ではなく、彼らの姿にあった。

「なぁに成瀬君?その顔とその敬語は。」
「いや・・・なんで、高校の制服を着てらっしゃるんでしょうか・・・?」

思わず他人との話し方になるのも、無理は無い。
悠斗の目の前に映ったのは、何故か制服姿でこちらに手を振る、今は社会人と大学生である4人の姿だったのだから。
髪形以外にほとんど変化など無く、まるで3年前と同じ、なのだが。
彼らの現在の年齢を知っているだけに、違和感が無いはずは無く。
見ない内にコスプレにでも目覚めたのか?と言う疑問が、悠斗の頭に過ぎった。

「いやほら、うちら全員、あれから陽ちゃんのところにちょくちょく見舞いには行ってたけど、全員が揃ったのって3年前が最後だったじゃん?・・・で、折角全員揃う機会が出来たから、高校生(あの頃)に戻ろうかなっと、懐かしいでしょ~?」
「・・・でも、年齢バレたら恥ずかしいなぁコレ・・・。」
「・・・・・・。」
「大丈夫だよ、弥生が居るし、見てごらん、未だに似合うこの制服の可愛さ!とても22歳には見えない!」
「・・・!」
「・・・うん、ごめん、なんかごめん、だからそんな目で僕を睨まないで・・・。」

恐らくとは思って居た悠斗の予想通り、提案したのはやはり空。
自慢げに胸を張る彼女とは別に、恥かしいと言わんばかりの柳野、満更でも無い様子で睨み睨まれる二人。
良い意味でも悪い意味でも、変わっていないな。
悠斗は思わず苦笑いをしていた。

「君らも相変らずだよねぇ・・・少しは成長したと思ったのに、相変らず初々しい事~・・・―ほら~、風華を見てごらん、胸もこんなに大きくなって、さらに大人のお姉さんって感じっしょ?」
「ちょ・・・恥ずかしいからやめて・・・そんな変わってないでしょ・・・。」
「何を言うか、何なら私の胸と比べるか~?私だってもうすぐ22だ、なのになんだこの差は!?私もスタイルは良くなったのに!B86だと!?許せん!!」
「・・・解った・・・解ったから叫ばないで・・・恥ずかしいから・・・。」

直助と弥生先輩は近場である事もあってか、一月に一度は会う事はあったが、柳野は自身の都合もあってか、3ヶ月に一度会えるかどうか。
空先輩に至っては、8ヶ月ほど振りである。
家の都合や学校、バイトとの両立もあってか、俺自身に会う時間が無かった事もあるが、それ以上にこの2人は忙しかったらしい。

そんな中での再会、少しは感動や懐かしさがあるかと思えば、そんな事は無く。
それだけ変わっていないのだろう、とただ笑うだけだった。

「・・・とりあえず俺も制服取ってくるよ・・・少し待っててくれ。」
「お、着る気になったか。」
「4人が着てて俺だけ私服って可笑しいでしょう・・・逆に。」
「ああ、それもそうだね、あはは、気づかなかったぁ。」
「・・・先輩、それ絶対確信犯って言うんですよ・・・?」
「はて、何の事やら~?」

そう空に愚痴りながらも、悠斗は妹に変な目で見られながらも制服に着替えた後、4人と共に駅へと歩き始めた。
今日の向かう先は、病院。
目的は、言うまでも無い。

「・・・しっかし、これ着てるともう3年も経ったなんて思えないなぁ。」
「・・・そうだね、もう、3年。」
「そうっスねぇ、青春ばっかであっと言う間だったなぁ。」
「・・・。」

折角高校の制服を着ている、と言うことで、各々懐かしい話に花を咲かせつつも歩を進めていく5人。
確かに、高校生活は本当に色々あった。
特に、あの梅雨の季節。

変人に出会ったかと思えば、そいつは初恋の相手で。
そいつが拾ってきた猫を育てなきゃならなくなったり。
今まで名前も知らなかった、留年した同級生に告白されたり。
青春など自分には着やしないと思っていた矢先の事だ、当時の驚きは今でも忘れない。
まぁ、経験という意味で、結果としては良かったんだろう。

「―で、風華はいい加減彼氏見つけたの?」
「・・・そこでいきなり振らないでよ・・・。」

もう何度聞かれた事とやら、と呆れた顔をする柳野。
しかし、その反応は彼女にとって火に油であり。
ニヤリと笑いながら、今度は悠斗へと視線を向けた。

「本当勿体無いよねぇ、成瀬君は~。」
「今度は俺に振るんですか・・・。」
「えー、だって、フッた張本人じゃない、振るだけに!」
「・・・寒い上に心が痛いんですけど・・・。」
「・・・今思えば、どうして悠を好きになったか解らないもん。」
「・・・あーさいですか・・・。」
「やっぱり衝動的だったんじゃないの?ビビッと来た!みたいなさ?」
「・・・直助が言うと気持ち悪い。」
「ヒドくね!?くねくね!?」
「解ったからクネクネすんな気持ち悪い。」
「この扱いの悪さ!3年経ってるのにまだこの立ち位置から出られないの僕!?」
「・・・。」
「ああっ!弥生!心配しなくても大丈夫、この3年で僕だって精神的には・・・。」
「・・・いや、多分アレは同意してる顔だと思う。」
「いやぁあああああ!!」

―・・・そんな相変らずのやり取りを繰り返す事20分ほど、駅はあっと言う間だった。
会話のテンポもさることながら、本当にこいつらと話していると言葉に詰まる事が無い。
3年前からなんかじゃなくて、幼馴染の様、昔から一緒だったかにすら思える。

バスの中でも、そんな会話は途切れる事は無く続いた。
面白い話から、くだらない世間話、社会人らしい、上司への愚痴。
並木町までの長い道のりでも足らない程に、話題は尽きなかった。

それもそうか、と悠斗は思う。
高校の時の誕生会以降、5人揃って面会に行く事など出来て無かった。
場所が場所だけに、丸一日余裕を作らなければならないのだから、無理も無い。
本来なら、今日もそうだ。
しかし、今回こうして機会を作れたのは、他でもない。
いつもとは違う、特別な理由があるからだ。




そして、2時間後。
3年という月日の中、変わらない景色で5人を迎える、並木町へと辿り着いた。
相変らず静かな街の風景は、もはや故郷と言っても良いほどに、その目に馴染んでいた。

「ほら!走るよ!!」
「え!?何でっスか!?」
「いいから走る!だって待ちきれないじゃん!!」
「・・・まぁ近いからいいけど・・・弥生、走れる?」
「・・・。」
「ほら悠も、空が行っちゃう。」
「・・・へいへい・・・。」

バスを降りた途端、そう全員に呼びかけた後、全速力で走り出す空。
それに続く直太、遅れて柳野、弥生、悠斗。
雲一つ無い太陽の下、病院に向かって走る5人。
制服姿なのもあってか、最後尾で見ていた悠斗からは、ドラマでよくありそうなワンシーンに見えた。

そんなに焦る事も無いというのに。
そう呆れながらも、悠斗はそんな気持ちが解らなくも無かった。
自分もまた、同じ気持ちだったからだ。

―・・・そんな全力疾走が続けば、辿りつくのも速いもので。
5分も経たぬうち、一同は病院の前へと辿り着いていた。

「げふっ!・・・僕はもう駄目だ・・・後は・・たの・・・む。」
「はっ・・・久しぶりに・・・本気で走った・・・っ。」
「え・・・倒れた戦友に何の反応も無し・・・?」

当然だが、全力で5分間も走れば、それはそれは疲れるもので。
着いた安心からか力尽きたらしく、倒れこむ直太。
元より人並みの体力を持ち合わせていない悠斗も、中腰、膝を手に付き、息を荒くしていた。

「何だよ、男二人が情けねぃな~。」
「・・・最近、運動して無いっスからね・・・。」
「・・・ああ、よく見ると、悠は昔より太ったかもね。」
「マジか・・・。」

それらとは対照的に、かなり余裕のある女性陣、若干の汗と息の荒さはありながらも、男二人を笑う余裕があるのだから、此方は何とも情けない。
とは言え、この二人が運動出来るタイプなのは、当時から知っていた事。
体育祭などのイベントでは、運動部顔負けの走力で大活躍したものだ。
そんな二人に、短距離専門な俺と、並みの運動能力しか持たない不良もどきの直助が勝てる訳も無い訳で。

そう、二人は解るのだ。
恐る恐る、直太は彼女の方へと視線を向けた。

「弥生・・・実は運動系・・・?」
「・・・。」
「あー、中学の時は運動部だったっけ。」
「マジっすか!?・・・始めて知ったよ・・・。」
「・・・。」
「ああ・・・なんだか懐かしいね。」
「・・・そりゃ勝てないわ・・・。」

余裕の表情とも取れるいつもの落ち着いた表情で、直太に手を差し伸べる弥生。
息を吐く音がとても小さく、つまり、彼女にとっては大した距離では無かったと言う事なのだが。
なんだか、悔しいものがある。
突然の競走に内心心配していただけあって、その心境は複雑だった。

「・・・情けない・・・情けないぞ成瀬・・・!」
「お前が言うな・・・つか仕事してる奴がそんな体力で良いのかよ・・・。」
「ふふ・・・仕事してても走る事なんて稀だからさ・・・。」
「何を偉そうに・・・。」
「ほらほらお二人さん、さっさと立たないと―。」

そんな情けない男二人を立たせようと、手を伸ばし、催促の言葉を放つ空。
その時だ。

「・・・。」
「・・・空?」

伸ばした手は、彼らの手に届く途中で、ピタリと止まった。
まるで時が止まったかの様に、とある方向へ視線を固めたまま、動かない。

「・・・あ―。」

突然の空の変化に驚き、何事かと問おうとした柳野も、その要因に気付いたのか、同じ方を向いたまま、同じ様に固まる。

「・・・!」
「あ・・・ああ・・・!」

何事か、と続く様にその方へ視線を向けた弥生も、目を丸くする。
直太は恐らく空と同時に気付いていたのだろう、上げた顔をあんぐりとさせた、何とも可笑しい面。

「・・・ああ。」

驚かない訳が無いだろう。
全員の表情の変化を遅れて感じた悠斗も、その正体に気付き、思わず声を上げる。

―太陽を命一杯に浴びる桜の木が並ぶ道を、真っ直ぐ進んだ先。
病院の入り口の前に、人の姿があった。
悠斗にも、それが誰であるかはすぐに理解できた。

見違えるはずも無い。
礼儀正しく頭を下げる柚子さんの、その隣。
車椅子に乗り、小さく、精一杯に手を振る陽菜の姿だった。

「・・・陽ちゃん。」
「陽ちゃん・・・。」
「・・・。」
「陽菜ちゃんだ・・・。」

長かったかのように感じる間の後、そう一言ずつ呟いて。
我先にと言わんばかりに、再び走り出した。
疲労などどこへやら、目の色を変えた全力疾走。

「・・・陽ちゃん!元気になったの!?」
「うんっ!げんきになったのだっ!」
「・・・良かったぁ・・・良かったよぉ・・・風華ぁああ~!!」
「・・・うん、本当に良かった、本当に・・・。」
「・・・。」
「ちょっ・・・先輩泣いてる・・・僕が最初に泣く予定だったのにぃ~・・・!」
「えっ・・・どうして泣いてるのっ?ねぇねぇっ!?」
「陽ちゃんが帰ってきたぁ~~~!!」
「きた~~~!!」
「にー・・・よくわからないけど泣かないで~っ・・・。」

泣きながら陽菜の手を掴む空、同じく号泣しながらバンザイをする直太。
いきなり全力疾走で近づいてきて、瞬間泣かれたらそりゃ困惑もする、と柳野と弥生は笑う。
しかし、そんな心境も解らなくは無かった。
何せ、この二人が泣かなかったのなら、泣いていたのは自分たちだと思うから。

―その連絡を受けたのは、約1ヶ月前の事。
『陽菜の意識が戻った』
その時の柚子さんの最初の一言が、やけに鼻詰まりな声だったのを、俺は今でも覚えている。
多分、泣きながら電話したんだろう、そう思う。

目の前では、本当に、目の前に元気な表情を見せる陽菜が居て、俺はようやく、その無事を理解した。
嘘だと思っていた、と言う訳ではない。
だが、この目で確かめるまでは、夢の中で聞いた幻聴だ、とありもしない事を思いもしていたから。
きっと4人もそんな心境だっただろう。
表情からそれを察するのは、何よりも簡単だった。

・・・しかし、感動の再会の場面だと言うのに、これは完全に出遅れたな。
まぁ、もう慌てる必要も無いのだが。
小さく溜息を付きながら、悠斗はゆっくりと歩き始める。

「―柚子さん・・・おめでとうございます。」
そしてまず、柚子の方へと駆け寄り、深くお辞儀をしていた。
なんとも堅苦しいな言い方になってしまったが、こう言わずには居られなかったのだろう。
この人が待ち続けた時間の長さを、知っているから。

「ふふっ・・・ご丁寧にありがとうございます・・・悠君と、あの4人のおかげかしら?」
「そんな事・・・柚子さんが頑張って見守っていたからだと思います・・・俺らなんて、たった3年ですから。」
「・・・ううん、私は母親だもの・・・これからもっとこの子を見ていかなきゃいけないですし・・・『13年なんて』ね?」
「・・・ホント、柚子さんにはかないません・・・。」
「ううん・・・私からすれば、悠君も凄いんですよ?・・・好きな人の為に、此処まで頑張れるって、とってもステキですっ。」
「そうストレートに言われると弱いッスね・・・。」
「―ゆうくーん!」

そんな直球の褒め言葉に照れ笑いをしてしまいそうになって居ると、横の方から陽菜が呼ぶ声が聞こえた。
久しぶりに見る、満面の笑み。
大きく手を振るその無邪気な姿は、本当にあの梅雨に出会った陽菜そのものだった。

「―・・・ほら悠君、陽菜と話してあげて。」
「!・・・はい。」

そんな柚子の言葉に、ようやく悠斗の胸は高く鳴る。
まるで決闘にでも行くかのような心境で、陽菜の前に歩み寄る。
実際の所、13年振りの再会。
時間差でやってきた出番が与える変な緊張も加わって、その胸の内は一杯一杯で。
告白をした時の心境が、蘇る様であった。

「・・・もう、大丈夫か?」
「うんっ。―・・・あの、ゆうくんなんだよね?」
「・・・ああ、そうだよ。」
「・・・ほんとーに?」
「ほんとーに。」
「にー・・・じゃぁお久しぶりっ。」
「・・・おう、久しぶり。」

懐かしくも聞き慣れた、あの梅雨の日のままの声。
あんな状態からの再会とは思えない、相変わらず口調。
あれからもう3年も経ったなんて、忘れてしまいそうな程で。
それでも、あの日の約束がようやく果されたんだと、この時悠斗は実感出来た。

「それでそれでっ、あのおねえさんたちは・・・?」
「おま・・・知らずに一緒にはしゃいでたのか・・・。」
「だってね、なんかうれしそうだったからつい・・・わたしもたのしくなっちゃってね?・・・何かとちゅうで泣いちゃったけど・・・。」
「・・・まぁ、あの二人は置いといてくれ・・・。」
「・・・?」

―だが、話に聞いていた通り、陽菜の記憶は子供の頃のままだった。
言葉遣いもどこか幼く、振る舞いも、あの時のまま。
だから当然、直太の事も、空先輩の事も、弥生先輩の事も・・・あの梅雨の事も覚えていない。
つまり、止まっていた時間が、動き出しただけの話なのだが。
この緊張は、とても子供と対話している時のものでは無かった。

脳ではそんな事はわかっているのだが、体が言う事を聞かない、という奴だろう。
それもそうか、と悠斗は思う。
あんな別れ方をした後での再会だ、思い返すだけで恥ずかしい。

すっかり長く伸びた栗色の髪は、どこか大人びていて、瞳は目に視点と生気が戻ったおかげか、より透き通っていて。
相変らずの細い体も、キチンと食事を取る様になったからか、痩せ細っていた植物状態の時とは別人のようで。

―無言だったらどんなに美人に見えることやら。
惚気な気もするが、事実なのだ。
とはいえ、大人なのは本当に見た目だけの話で。
中身はまだ10歳にも満たない子供。
緊張している俺が本当にアホらしいと思う。

「・・・おかあさんがね、言ってた、ゆうくんはわたしがずーっとねむってるあいだ、おきるのをずっと、まっててくれたんだって。」
「俺だけじゃないぞ、あの4人も、柚子さんも、皆お前を待ってたんだ。」
「・・・ごめんね・・・しんぱいかけたよね・・・?」
「別に心配なんかしてないって・・・お前ならちゃんと起きるって解ってた。」
「・・・どうしてぇ?」
「約束、したろ?」
「・・・え?」
「ゆびきりげんま。」
「・・・あ。」

悠斗が小指を出しながらそう言うと、陽菜も思い出したのか、無意識に小指を出して。

「―ひっく・・・。」
「・・・陽菜・・・?」
「ひっ・・・なんで・・・なみだがね・・・かってにね・・・っ・・・」

突然に、泣き出してしまった。
何故だか解らないから、悠斗にも陽菜本人にも止め様が無く、涙はポロポロと溢れ続ける。
赤ん坊のように泣きじゃくるその様子に、気を遣ってか、二人の視界から消え、柚子と話していた4人も、黙って見ていられなくなってしまった。

「ちょっともう!感動の再会の場面で何泣かしてんのさ!?」
「・・・そう言われましても・・・。」
「・・・。」
「陽菜ちゃーん、変なおじさんだよ~・・・泣き止め泣き止め~・・・。」
「ふえぇええぇ~・・・。」

半分怒鳴り口調で言いながら、陽菜の元へ駆け寄り、その頭を撫でる空。
直太もまた、赤ん坊を慰めるように面白い顔をしてみせる。
まるで、妹を慰める兄と姉の図。

それでも、陽菜は泣き止まない。
まるで、ずっと溜め込んでいた涙を、溢れさせる様。
悠斗の目には、少なからずそう見えた。

「・・・嬉しいんだよ、きっと。」
「柳野・・・。」
「待ってくれてた人がいて、約束を覚えててくれた人が居て、それが嬉しくて仕方なくて・・・ね?」
「!・・・うんっ・・・うんっ・・・。」

そう言って微笑む柳野の言葉に、陽菜は何度も何度も頷いた。
同時に、悠斗は納得する。
ああ、そうだよな。
約束は、一人でするものじゃないのだから。

「・・・ずっとまっくらでね、なにもみえなくて・・・でもね、ゆうくんがよんでくれるのがわかったの、なきながら、わたしをよぶのが。」
「・・・。」
「だから、ゆうくんのところにはやくいかなきゃ、いかなきゃっておもって・・・でも、ずっとおきれなくて・・・。」
「・・・陽菜・・・。」
「ごめんね、ゆうくん・・・おそくなってごめんね・・・まっててくれたのに、ごめんね・・・っ。」

悠斗の胸に頭を置いて、何度も、何度も謝る陽菜。
そんな泣き顔を前に、悠斗は手を頭に乗せて、優しく撫でる。
言いたい事は、山ほどあった。
だが、この時の俺に、そんな言葉達は出なかった。

こいつには、ちゃんと届いてた。
それが解っただけで、今の俺には十分だったのだから。

「・・・ほら陽菜・・・笑おうぜ。」
「・・・ふぇ?」

だから、今は笑って欲しい。
泣いてる顔なんて、こいつにはやっぱり似合わないから。

「皆、お前の笑顔が見たいんだってさ。」
「わたしの・・・えがお?」

そう言われ、柳野達に視線を向ける陽菜。
まだ泣きながらも、笑ってみせる空と直太。
少し泣きそうになりながらも、満面の笑みを見せる柳野と弥生。
そして、目の前の、悠斗と柚子。

『皆が笑っている。』
陽菜が笑う理由は、それだけで良かった。
涙を拭いて、陽菜は精一杯に笑った。

「うんうん、やっぱり陽ちゃんの笑顔は反則級に可愛い!」
「そうだけど、泣く顔も可愛いなぁ陽菜ちゃんは・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・浮気者、だってさ。」
「なっ!?僕は弥生一筋だよ!?」
「うわきもの?」
「違うんだぁああああ!!」
「ああもう騒がしい・・・。」
「・・・直太は歩く騒音だからね。」
「・・・ねぇ柳野?ひょっとして僕の事嫌い・・・?」
「まぁまぁ歩く騒音浮気者は放っておいて!皆で写真取ろうよ写真!」
「・・・お、私もちょうどそう言おうと思ったところ。」
「・・・あーいいですねー・・・。」

バックからカメラを取り出し、大きく手を上げる空。
その提案には、全員が賛成。
すぐさまに陽菜を中心に、写真に納まるような並びを作った。
一人を、除いて。

「・・・私が取りますよ、空さんっ。」
「え・・・駄目ですよ柚子さん!記念すべき一枚目は美人親子で写ってくれないと!」
「親子だから、ですよ?・・・それに、私としては一枚目は皆に写って欲しいの、陽菜の大切なお友達だって、夫に自慢したいし、ね?」
「う・・・その笑顔で言われると弱い・・・。」
「先輩はそうじゃくて美人の頼みが断れないだけでしょ・・・。」
「何か言った成瀬君!?」
「いえ、なんでも・・・。」
「ふふっ・・・それじゃ並んでくださいな、撮りますよ~。」
「「はーい!」」

空からカメラを受け取り、少し離れ、シャッターを構える柚子。
この時、そのレンズには確かに写っていた。
必ず目を覚ますと信じて彼女を待ち続けた、嘗ての少年と、その少年とまた会う事を夢見たまま、眠り続けていた娘が、互いに並ぶ、その姿が。

今でも、夢なのではないかと思う。
どこか心の奥では、諦めつつあったのだから。
でも、夢なんかじゃない。
二人の、いや、皆の願いが、奇跡を起したのだ。

「・・・陽菜。」
「うん?」
「俺は幸せ者だよ。」
「・・・え?」
「ん・・・何でもない、独り言だよ・・・ほら、前向いて。」
「??・・・へんなゆうくん~。」
「・・・かもな。」

―1たす1は~?

「にーっ!」

シャッター音と共に、強い光が走る。
陽菜の満面の笑みの隣では、悠斗の満面の笑みもあった。
今まで、こんなにも笑顔になった事があっただろうか、自身でもそう思うほどの笑顔。

確かに、今日の俺は変だろう、違いない。
こんなにも、嬉しくて仕方が無いのだから。

『本当に、良かった。』

奇跡を前にしても、今はただ、それだけの感想しかない。
強いて言いたい事があるとすれば。

「・・・おかえり、陽菜。」
「・・・うんっ、ただいまっ。」

後は、少しずつ話をしていけば良いと思う。
二人の時間は、ようやく動き出したのだから。
長く長い、未来へ向かって。

第五話 終わり。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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