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季節外れのベロペロネ

前回までのあらすじ。

1:やっぱり持つべきは友達だね(棒読み)
2:相談するのも難しいけど、相談されるのも難しいよね。
3:最近シリアス多くね?

「・・・はぁ。」

ユーウツと呼ばずに何と呼ぼう、今の気分は最悪である。
自分ではどうしようもない問題とは言え、普段俺に良くしてくれている人のピンチに対し、全くの非力だ。
助けるどころか、正直最悪の事態を招く要因にすらなりかねない状態。

そりゃ溜息も出ようよ、無力感を噛み締めてる最中なんだから。

・・・ああ、前言撤回だ。
姫子がいなくて良かった。
今はアイツの騒がしい声を耳に入れたくは無い。

見上げた電灯は、気のせいの筈だが、ぼーっと、揺れて見える。
仕事帰りの疲労からか、眠気も押し寄せて来る。
このままいっそ、眠ってしまおうか。
誘われるがままに、俺は畳に大の字で倒れこみ、目を閉じた。

意識が、ゆっくりと落ちていく。
ああ、今日は良く眠れそうだ。
などと思った、直後の事だった。

『―君、新しく入ってきた子だよね?」

―内心、もう諦めているとでも言うのだろうか、俺の頭の中に走馬灯の様なモノが流れて来た。
とは言え、走馬灯と呼ぶには短く、新しい記憶だ。

『―入居祝いって事で、一杯飲んでかない?』

初対面の第一声は、何とも桜さんらしい台詞だった。
断ったものの、結局は飲まされたんだっけか。

思えば、衝撃的な出会いだったな。
今までのどの人とも違う、当て嵌まらない、言わば未知の生き物。

それからと言うものの、桜さんは何かと俺に構って来た。
飲み相手が居ないからと大量の酒を持って不法侵入したり、仕事での愚痴が溜まったからと酒を飲ませたり、何かと付けて酒を飲み飲ませ。

そんなのが隣人ときたもんだ、今となっては言えない話だが、当時ほとんど飲めない俺としては勘弁してくれ、と言った所だった。

だが、俺はそう思いつつも、今に至るまで、そんな桜さんを拒む事は出来なかった。
美人だから?と言われれば否定も出来ないが、理由としては違う。

なんだかんだ、それだけでは無かったからだ。
俺が困った時、一番最初に駆けつけてくれたのもまた、桜さんだったのだから。

「・・・んなもん流してる場合じゃねえよ。」

まるでアニメが如く、俺は飛び起きて、回想を払った。
全てが決まるのは明後日、つまり後一日があるのだ。
そんなモン見てる場合じゃないだろうよ。

眠りに落ちかけた所為か、クラクラとする頭で、どうすべきか考える。
俺に出来る事は、何か無いか。

「・・・思い浮かばねぇ。」

そもそも、任せられた彼氏役もロクに出来ない状態で何を言うのか、と言う話でもある。
まずは形だけでも上手く出来るようにならなければならないだろう。

・・・それこそ、一日で済むものか、と言う話である。
大体、それを教えてくれる様な人物が居ないのだから、どうしようも―。

・・・どうしようも?

いいや、ある、いや一人だけ居る。
俺に知恵を与えてくれるであろう、経験豊富なお方が一人。
思い立ったが吉日、俺は颯爽と立ち上がり、自室を出た。

―第三話 『どうしてこうなった』

「・・・あら、コータさん?」
「・・・ども、夜分にすいません。」

急ぎでやってきたのは、急いでいく様な距離でもない、柚子さんの居る管理人室。
当たり前と言うべきか、当然と言うべきか。
結婚経験のある柚子さんなら、男性とのデートくらいした事もあるだろうし、俺よりも『彼氏』と言う存在については理解があるのではないか。

―と言う希望を持って此処に来たワケである。

柚子さんにしては珍しい黒のパジャマ姿に一瞬見惚れつつも煩悩を払い、俺は用件を唱えんとする。

「その、実は頼みたい事がありまして。」
「頼みたい事?でしたら、まずあがりませんか?そこじゃ寒いでしょ~?」
「あ、大丈夫っス、直ぐ済みますから。」
「ふむふむ?」

そう、最後まで唱えんとしていた、のだが。

「・・・そのですね、頼みたい事なのですが・・・。」
「はい、頼みたい事なのですが~?」
「・・・ですが・・・。」
「ですが~?」

『この事は、静花しか知らない。』
良くも悪くも、まぁとんでもないタイミングで、俺は桜さんの言葉を思い出していた。
そりゃ、口も止まるよな。

この話をするに当たって事情説明は、多分、いや絶対に必要だろうし、要求されるだろう。
だが、それを桜さんの許可を得ずに話していいものか、となると、間違い無くNOだろう。

つまり何が言いたいかというと、今俺はとんでもない地雷を知らず知らずに踏みかけていたのだ。
否、今まさに踏まんとしている、と言うか。
どの道、墓穴を掘った状態である。

「どうしたの?私で良ければ何でも言ってくださいね、聞きますからっ。」
「あははは・・・。」

遠慮なくっ、と付け加えて、ドンと構える柚子さん。
ええ、そりゃこう言う人ですから。
一度悩んでる人の姿を見たら、強引にでも聞き出すであろう。
片鱗を見せた以上、嘘でも良いから何かしら話さなければなるまいよ。

かと言って、それはそれで後に残る罪悪感がよろしくない。
この人ほど嘘を付きにくい相手も居ないであろうから。
だからと、桜さんの事を考えると、事情を話せない。

どうする、どうするよ俺。
考えている時間が長ければ長いほど、事の深刻さが柚子さんに伝わってしまう。
自分から『大事な事を言えずに隠しています』とでも言っている様なモノ。

そうなった時のこの人の行動力を侮ってはいけない、既に経験済みである。

急いで答えなければ、何か。
柚子さんに嘘を付かずに済み、事情を話さずに、俺の用件を果たす答え。

―時間にしてみれば、それは数十秒の出来事。
だが、俺にとっては何倍の時間、考えた様な気がした。

思い返せば、よほど焦っていたのだろう。
事情など説明せずとも、柚子さんは力を貸してくれるであろう事を、俺はすっかり忘れていたワケで。

「―柚子さん、お願いがあります。」
「はいっ、なんでしょう?」
「俺と・・・。」
「俺と?」
「―俺とデートしてくださいっ!」

気付けば、遠まわしな告白が出来上がっていた。
・・・人間、焦ると何言うか解んないよね。



「―コータさーん!」
「あ・・・どもっス。」

翌日の朝。
掃除を終え、姫子も内職へと向かった午前、俺はアパートの外で柚子さんを待っていた。

「すみませんお待たせしました~、寝癖が中々直らなくって~・・・。」
「いえいえ、俺も今来たとこっスから。」

白のコートがまず目に入る、大人っぽくもどこか若々しいファッションに身を包み、大きく手を振りながら、こちらへ駆け寄ってくる柚子さん。
・・・若々しく見えるのは、柚子さん自身の影響もあるのだろうが。

世の同年代の奥様はこの人が同じ世代とはまず解らないだろう、ファッションの事は良く解らない俺だが、やっぱりこの人は年齢など感じさせない可愛さを持っている。

ああ、全く、こんな気分でなければ飛び跳ねて喜びたいね。
テンション高めな柚子さんに対して、この時の俺の心境は複雑なものだった。

「コータさんも物好きですねぇ~、こんなおばさん捕まえて『デートしてくれ』なんてっ。」
「いやいやそんな・・・柚子さんはまだまだ、と言うか普通に若いですって。」
「またまた~、冗談が上手いんですから~。」

―そう、あの突然かつ意味不明な申し出は受け入れられていた。
それも、二つ返事で。

まぁ、それ自体は何ら憂う事でも無いんだ。
結果として桜さんの事は話さずに済んだし、今回の目的を考えるなら、まぁ嘘でもないさ。
ええ、ええ、悪い事なんてありませんよ。

・・・『あの』台詞を除いては。

もっとこう、別の台詞があったんじゃないかな、と言う話である。
いや、あったとしてももう遅いけど。

「それじゃ、いきましょうか?」
「あ・・・はい、でも、どこに?」
「うーん、そうですね・・・コータさんの行きたい所にっ。」
「俺の行きたい所、ですか?」

そんな俺の心境など知る筈も無いだろう、にこやかに『はいっ』と答える柚子さん。
いきなりの難題に、思わず 『むずっ』と声に出す所だったよ。

何せ、エスコート『された』経験は此処で山ほど積んだ自信はあるが、そっちの経験は0も0、ミリ単位も無い。
ましてや頼んだのは昨日の夜、行きたい所など直ぐに浮かぶ筈も無く。

「大丈夫ですよ、ゆっくりと、歩きながら決めましょう、ね?」
「はははは・・・そうですね、歩きながら考えましょうか・・・。」

戸惑っていたであろう俺にそう微笑んで背中を押す柚子さんに、俺は苦笑いで返す他無かった。

デートだと言う意識が生んだ緊張、ちゃんと得るものがあるのかと言う不安、その他もろもろ、表現できない何かが圧し掛かってくる。
正直、もう逃げたい気持ち一杯である。

「それじゃ・・・しゅっぱーつっ!」
「わーい・・・。」

しかし悲しいかな、もう止まる事は叶わない。
男康太の男を磨く旅(命名俺)は、今始まったのだ。

・・・不安しかねぇ。

続く。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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