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季節外れのベロペロネ

「・・・ふぅ。」

彼も去り、ようやく静寂を取り戻した自室で、私は一人ため息をついていた。
此処までの苦労からだと言えば、そうだろう。
素面でも随分と喋る彼女に延々2時間も付き合ったのだ、もうしばらくは桜の声を聞きたくない位、私の耳は疲れているだろう。
これを否定する気など、到底起きまい。

・・・まぁ尤も、否応無く桜の声をしばらく聞く事は叶わなくなりそうだが。
そういう意味では、寂しさを感じなくも無いかもしれない。

しかしながら、気分は悪くない。
『期待する様な展開は無い』
そんな言葉を聞いたからだろう、まだ消えて間も無い祭り気分が蘇って来る様だった。
あの新米新聞記者ほどでも無いが、私もこの手の話は嫌いじゃない。
何せ、幾らでもネタに出来るから。

気づいていないのか、それとも気づこうとしないだけなのか。
どちらにせよ、思いの外、物語は進んでいる。

「・・・やる気も出たし、少し書こうかな。」

今なら、何か良い物が作れそうな気がする。
気分が冷めないうちにと、私は机の前に座り、紙とペンに向かい始めた。



・・・前回までのあらすじ。

1:桜さん発見。

はい、これに尽きます、と言うかこれしか進んでません。

・・・なんだろう、この申し訳ない気持ち。
そして表現の仕様も無い憤り。

ああ、きっと目の前の光景の所為だろう。
そうだ、そう言う事にしよう。
・・・って。

「何してるの!?ねぇ君ら何してるのぉお!?」
「何って。」
「おやつ食べてるんだけど?」
「いや解るよ?食べてるのは解るよ?でもね、何で今!此処で食べてるのかを聞いてるの!」

余りの驚きっぷりにオカマの様な口調になる俺。
だが無理も無いと解って頂きたい。

過剰と言われる程の心配をして居た矢先、人ん家でオヤツパーティーわっしょい!
とかやられてたらね?そりゃ多少キャラが崩れたりはするもんですよ。
静花さんじゃあるまいし『楽しそうですね』なんて言えたら俺も格好良いんだろうけどさ?
だが、悲しいかな日々鍛えられたツッコミが邪魔をするのである。

「大丈夫やで、全部桜の姉ちゃんのおごりやし。」
「そうそう、コータも一緒に食べようー。」

数時間前の顔はどこへやら、とてもおいしそうに板チョコを丸かじりする桜さんに、大福をほお張る姫子
ああ、もう謝りたい気持ちも吹き飛んだ。

「・・・どうしてこうなったぁあ!?」

余りに多すぎるツッコみどころに、俺は思わず叫んでいたのだった。
・・・近所迷惑。

第三話「嫌いは好きの」

「もー急に叫ばないでよ、びっくりするじゃんかー。」
「すいません、そりゃこっちの台詞です。―桜さん、今日の出来事覚えてますよね・・・?」
「え?何かあったっけ今日。」
「無い!それは絶対無い!」
「あーもううっさいなぁコータは、終わり良ければ全て良しって言うやんか。」

何故か既に奴の中ではこのイベントは終了しているらしい、知ったかの様な口ぶりでそう言いながら、10円のスナック棒を差し出してくる姫子。
そこで10円菓子を出してくる辺りが余計に腹立つ。

・・・ここで誤解の無い様に言っておくと、別にこのお菓子を馬鹿にする気は無い。
むしろ貧乏人の俺としては、この流れ行く時代の中で変わらずに(値段的な意味で)存在する彼らには敬意と尊敬を持っている。

故に受け取りたいのだが、今の俺にそんな心のゆとりなどあるはずも無く、こっちはお菓子の話などしにきた訳でも無い。

「・・・ああうん、お前少し黙ってろ。」
「何やて!?」

平手打ちでそれを払いながら、俺は桜さんの方へ視線を向けた。

「・・・桜さん、真面目な話です。」
「真面目な話って、ひょっとして!告白でもするつもりかっ!?」

さすがにさっきの台詞は冗談ではあろう、ソレが言えるだけの精神状態までに回復したのなら何よりだが。
当然、そんな筈も無く、それは空元気。

「・・・桜さん。」
「・・・あはは・・・。」

こっちは真剣なのだ、と言わんばかりに表情を変えて迫る俺を前に、耐えられなくなったのだろう、桜さんは観念するかの様に、苦笑いで返した。

「・・・コータってばひどいよ、折角少しでも楽しい事考えようって思ってたのに。」
「・・・文句は後で受け付けます、だけどやっぱり、あんな別れ方をしましたから、心配だったんで。」
「・・・そっか。」

だが、この先の言葉を、俺は未だに思い浮かべる事が出来ていない。
桜さんが心配だという一心でここまで着たのだから、我ながら『子供か』と言う話である。

しかし。

「―ごめんね、あの時はつい熱くなっちゃってさ。」
「桜さん・・・。」

目の前の桜さんの表情に安堵する胸の内に、俺は事の解決を感じていた。
彼女にはもうきっと、自分の答えなど見えている筈なのだから。

「多分ね・・・認めたく無かったんだと思う、自分ではどんなに解ってても、そうしたいとは思っても、その為には認めなきゃいけなくて。」
「・・・。」
「だから、認めたくなかったんだと思う・・・自分があの男の娘なんだって事を。」

思いの外淡々と、桜さんは自分の胸の内を語った。
あれから時間が経って落ち着いたのもあるのだろうが、何よりは迷いが無くなった、と言う事が大きいのだろう。
その目は戸惑い無く、まっすぐと俺を見ていた。

「それでも、どんなに足掻いたってそれは変わらないし、変えられない。」
「・・・桜の姉ちゃん・・・。」
「だけどね・・・思い出したんだ。」
「?・・・何を、ですか?」
「・・・ううん、正確に言うとね、忘れたフリをしてたのかな。―子供の頃は、『今』の私が思う程、アイツの事を嫌いじゃなかったんだって。」
「・・・。」
「むしろ・・・好きだったのかな、仕事をするあの背中をずっと見てたの、来る日も来る日も、お酒と向き合って、お酒を造ってる・・・そんな背中。」

いつから、こんなに嫌いになったんだろうね。
そう問う様に言い終えた桜さんの顔は、笑っていながらも、どこか泣いている様だった。
そうあって欲しくない、そう願う様にも見えた。

でも、桜さんは全部解ってる。
ただただ、向き合えなかっただけで。

「・・・好きだったんやと思うで・・・多分、今でも。」
「姫ちゃん・・・。」
「だから、きっとまた仲良くなれる・・・と思う、仲良くなりたいんやと思う。」

そう、それでも二人は家族で。
嫌いになる事は出来ても、忘れる事など出来ない。
甘えに甘えた記憶が、多少なりとあるのだ。

生意気ながら、俺の言いたい事が全部詰まっている言葉を放ったのは、黙れと言われた筈の姫子だった。

「ウチだって・・・そりゃ『今』は嫌いやで、あんな、母ちゃんとの思い出を全部捨てて、直ぐに他の女とくっついた父親(やつ)なんか。」
「・・・うん。」
「・・・でも、忘れた事なんて無い。―だって、『昔』は嫌いじゃなかったんや。」
「!・・・うん。」

思う所もあるのだろう、ふと顔を見てみれば、表情はさっきまでとは違い真剣なものになっていた。

「ウチは、アイツと仲良くなりたいとは思わないし、多分無理やと思うけど・・・桜の姉ちゃんは、きっと違う。」
「姫子・・・。」

否、思う所が無い筈も無いのだ。
だってコイツも、父親が嫌いで家を出て来た奴で。
自分と重ねている所為もあるだろう、その言葉には、子供らしからぬ重みが感じられた。

つまる所、こいつも―。
・・・いや、ソレを俺が言うのは、空気を読めない気がするから止めておこう。

「・・・だから、その・・・。」
「―姫ちゃん。」
「う・・・うん?」
「・・・ありがと、おかげで勇気が湧いてきたよ。」
「・・・桜の姉ちゃん・・・。」

そんな言葉が、歩かんとしていた背中を押したのだろう、桜さんは姫子の頭を撫でながらそう言って、今度は満面の笑みで笑って見せた。
いつもの、桜さんの笑顔だった。

「まぁ、いきなり仲良くなるなんて難しいし、多分無理だと思う、嫌いを好きになるって簡単じゃないし。」
「桜さん・・・。」
「でも、ちゃんと面と向かって話せたら、それも変わるかも知れない・・・『大嫌い』が『嫌い』になるかも知れない。―車の助手席に座る位は、耐えられる様になるかも知れない。」

だから、頑張ってみる。
ううん、頑張りたいの。
お母さんの為に、私自身の為に。

「だから、少しの間だけ行って来るね、コータ。」
「・・・はい、待ってますよ。」
「うん、留守は任せた。」

そう答えるのに、迷いは無かった。
心配も、ここまでの苦労も全部吹き飛んだ様な、そんな気がした。
まぁ当然、そんなものは気のせいで。

「・・・うん、そうと決まれば、我が家の冷蔵庫にあるものは全部使っちゃわないとね、いつ帰ってこれるか解んないし!」
「・・・って言うと・・・。」
「勿論!皆を呼んで宴会よ!テンション下がってた分だけ飲むぞ!騒ぐぞ!」
「おお!うちも飲む!騒ぐー!」
「・・・あー・・・。」

今度こそシリアスは終わりだ、と言わんばかりに、ばっと立ち上がり酒を取りに行くつもりだろう、自宅へと飛んでいく桜さん、それに続く姫子。
ああ、苦労するのはこれからなのだと、俺は思い知るのである。

しかし、気分は悪くなく。
珍しく乗り気になった俺は、もはや宴会場と確定した我が家の掃除を始めるのだった。

第三話 続く。
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プロフィール

天野幸音

Author:天野幸音
ようこそ、野良猫の溜まり場へ。
お茶もお洒落な音楽も無いけれど、ちょっと変わった物語がここにはあります。

・・・多分?

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